Deer Management Crises in a National Park


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追っても逃げないシカだらけ。
環境テロリストによるシカ公園化計画って分けではないだろうに。


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林床に実生もないけど,・・・稚樹もない。
「ほら〜変な虫や歩きにくい藪が全然無くて,お金のかかった都市公園みたいで気持ちいい〜」ってかな・・・。


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幹まで囓るか,餌ないの?
普通は多糖体のある樹皮とか形成層を囓るものですが,最早囓るところが無くて木部まで深く囓っています。最近の観光客は自然回帰で木も囓るのかぁてなわけではない。全部シカの門歯の痕。

でもなぜか,そこかしこにシカは居る。

某国立公園内,2年前です。最近は怖くてあまり見ないようにしています。
関係者はもの凄く苦労しています(はず)。
くれぐれも,かっわいい〜っとか言って,餌を与えないように。
既にかなり頽れてますが,10年後,ここの美しかった林がどうなっているか,不安です。



シカの天敵についてお話しする前に,シカのシカの死亡要因と現状での分布拡大を考えて見ます。現況では,冬季の積雪などがドラスティックにシカの個体数に影響を与えています。降雪量は冬季の餌へのアクセスに影響すると考えられます。積雪が多い場合は,勿論,餌を食べるのは大変になりますし,採餌可能な場所を移動する場合にも,移動コストが半端でなくかかるため,大きな死亡要因を誘発します。実際,大雪の年には,シカが大量死することは知られていました。
 山林で生息していたシカは,その中で得られる餌と,餌画のアプローチにより生存率を左右されていると考えて良いでしょう。ところが,近年,猛烈に鹿が増殖した背景には,北関東などを中心に,冬季にも枯れることがない,外来種の芝が道路法(のり)面に植栽されたことで,死亡率が下がらないという現象が生じた可能が指摘されています。北海道などでも,夕方になると地平線がシカの頭だらけになりますが,自分が走っている道路そのものが影響を与えているだろうと感じました。
 しかしながら,たとえば常緑樹林帯が基本で比較的温暖な九州での状況を考えると,ほとんどの地域で降雪や積雪量が少ないので,各地域の要因としては細かく考えていく必要があります。

 夏緑樹林(落葉広葉樹林)では,鹿が利用しやすい植物が多いものの,未生も含めて冬季には植物の葉は無くなってしまいます。一方で,常緑樹林は文字通り,シーズンを通して樹木の葉は餌として利用できますが,春の一斉の芽吹きのような極端な供給はなく,餌供給は低め安定という傾向があります。
 ここで,植林という別のファクターが出てきます。植林においては,かつては大規模造林というスタイルで,山林のほとんどを伐採して,そこにスギ・ヒノキの稚樹が植栽されるという手法がとられました。通常,木が一本倒れただけの空間でもそこは太陽の光が降り注ぐため,様々な植物が入り込んできます。ギャップ(林冠欠所)と呼ばれるこのような空間は,森林が成立する初期仮定を小さな単位で繰り返し再現する場所で,上を高く大きな樹木が覆った普通の森林環境とはまた性質の異なった植物が入り込んできます。いわば森林更新が局所的に繰り返し再現されているホットスポットのような場所といえます。森林植生の遷移を見てみると,最初は一部草本なども入り込みながら,光が多いところで圧倒的な生長を見せる陽樹と呼ばれる樹木群,やがてそれらに被圧されながらも確実に生長を遂げ最後には陽樹を被圧により殲滅させる陰樹の樹木群。そして最終的に陰樹の巨木とその下の階層に適応した植物群だけの極相林と呼ばれる森林を終局的なゴールとして,森林は変化していきます。

 さて話を元に戻すと,通常でも伐採直後からしばらくの間は,シカの好む植物群が豊富な環境となりますが,自然倒木に起源を発するようなギャップが生成する合計面積は,自然林ではそんなに広くないことは想像できるかと思います。しかしながら,伐採は人間の手によるもので,その面積はギャップが出来るような面積とは,全く次元が違う単位で,森林に大きな穴がうがたれるわけです。実際にシカの生息地で調査をすると,伐採跡地に踏み込んだときだけ,襲いかかってくるヒルの量が全然違うことから,人間の作り出した伐採跡地がシカの好む場所となるということは,多くの山で仕事をする林業関係者やフィールド・ワーカーの知るところでもあります。大規模造林が,今まで済一的であった常緑樹林帯において,どのくらいの規模で急激なシカへの餌供給を引き起こしたか,試算されたことはありませんが相当な効果をもたらした可能性があります。また,植林地は,スギ・ヒノキの生長によりやがて被圧されるとしても,その人工林と元々あった自然林の林分境界は,不連続面特有の特性としてギャップ的な環境が長期に渡って維持されます。また,造林事業においては新たに開発された林道も走るわけですし,その沿線は一種のギャップ的な伐採環境が延々と続くような環境になるわけです。このように人間活動による攪乱は,良くも悪くも餌を供給するイレギュラーな環境が大量に発生します。その規模や時間的なスパンで考えると,かつての機械化されていない時代の林業や里山の利用においては,適度なプラス効果が働き,それを手段として,狩り場の動物を増やして一方で狩猟としての利用をしていたわけです。
 ここで,林業の振興と,人の生活圏の広がりということから考えると,かつては人間の居住地域や農業活動地域と野生動植物の分布中心であった自然林との間は相当距離的にも離れており,また,その間に里山という緩衝地帯が広く存在していました。しかしこのバッファー損が植林や林道開発などで破壊され,一方で緩衝地帯の消滅や,パイロットファームなどの山林への侵入,さらにはコアな生息地であった自然林それ自体も林業地域の拡大による破壊と分断化されるということが同時に進行したわけです。これは,ある地域ではシカにとっては餌が枯渇する環境が増加し,一方では,今まで口にしたこともない簡単に食べられる餌を供給する農林産業地域への誘導とそこへの加害を誘発したわけです。里山を超えて農業地域へのシカの誘導に大して来ないでくれといっても自然林は破壊という,状況の中で,シカはそのように立ち回るしかなかったと考えられます。両方が隔離されていたら,単純にシカの減少という結果で終わっていたかと思います。実際,人間の活動地域への適応が許されない動物(例えばニホンオオカミ)については消滅していったわけです。
 全ての地域の物理的隔離機構が消滅して同時に農林産業地域への誘導という二つの減少が生じた先には,シカによる鳥獣被害増加という問題が加速度的に大きくなっていきました。林道は,山林から人間の居住地域へ,シカを誘導するに非常に効果的な餌の道として機能し,一方ではかつてシカを抱え込んで餌などでコントロールしていた自然林を消滅させるための効率的な侵入の触手となりました。

 害虫や害獣とされる農作物への被害等を与える動物は「ペスト」と呼ばれますが(ペストコントロールという言葉もあり,勿論今アフリカでアウト・ブレークしつつある病原菌のペストとは違います),ペストがそもそも生まれるのは,本来的な動物の利用環境を人間が破壊して,そこに人間が欲するものを大規模に植際するなどした状況で,元々の生息場所や餌場を消滅せしめられた動物が,その人間が持ち込んだものを利用すべく適応した結果であるということが出来ます。全てがとうだとは言えない場合もありますが,そういったケースが非常に多いのです。

 このような生息環境の劇的な変化の上で今の状況があることを考えると,例えばニホンオオカミという天敵が不在であるからということで,オオカミを導入しようという話がかつて持ち上がったことがありますが,緩衝地帯を含めてかつてのシカを支えていた環境が破壊されているわけですから,非常に危険且つ,全く目論見通りの効果は得られないリスクが高いであろうことは容易に想像がつきます。
 それとオオカミ自体がシカに依存している比率がどの程度であったか,仮にそんなに高いはずはありませんが,50%であったとしても残りの50%は別の森林が生産する生物に依存して初めて,残りの50%でシカを捕ってくれるわけですから,その50%を供給できる森林環境が存在しない限り,シカと同様に穴だらけの里山を飛び越えて,放牧地などの畜産業地帯や人間の居住区に餌を求めてやってくるであろうことは,北海道開拓史の歴史などを考えれば容易に予想できそうなものですが,ろくにその辺の自然林を歩いて貧困さを実感したこともない生態学者ですらない人たちがオオカミの導入計画かなにか,そのあたりで騒いだことがありました。森林のキャパや空間的余裕がないと人間に悪い影響が生じることなく,オオカミが生息できてシカを効果的に取ってくれるなどと云うことを期待するのはかなり冒険だと思います。
 例えば,アマミノクロウサギに被害を与えているマングースですが,そんなことは不可能であるとしても,例えば,奄美山中の昆虫を全て除去してしまえば,彼らはクロウサギを襲っても,おっつかずにやっていけないのは明かで,死滅する可能性が高いです。勿論その時は,ウサギも絶滅している可能性もありますが,今の状況ですと,相当な狩猟圧をかけても完全に殲滅する可能性は,奄美の豊富な昆虫層に支えられて,直ぐに数を増やすこともあって,難しい状況が続いております。
 捕獲されたマングースの数百例の胃袋においてウサギは発見されない,そのくらい採餌頻度確率は低いのですが,彼らが昆虫を餌にして増殖する限り,その低い採餌確率でアマミノクロウサギは確実に追いつめられて行くと云うことです。このあたりの感がとれるかどうかで,生態学を理解できるセンスがあるかどうかが分かる誠に典型的な話です。
 ちなみに,最初の質問にあった,シカの天敵と云うことを考えると,唯一クマタカが幼獣に対しては有望な天敵となる可能性がある動物かと思われます。彼らは熱帯起源の森林性の猛禽であり,枝をばきばき折りながら森林の中を移動することも出ます。鷹という名前が付いていますが,いわゆる鷲(Eagle)と呼ばれる超大型の猛禽で,日本産の哺乳類はおそらく熊以外は全てまな板に載っけているという強力な猛禽です。絶滅が危ぶまれていましたが,ダム関係などのアセスで調査が進み,実際は日本に10,000羽程度は生息すると云われています。しかし,採餌対象を蛇や哺乳類に特化しつつも,日本の山林では常在性の高い中形以上の哺乳類が全て含まれるというその餌利用の幅を考えれば,意外と多い個体数は,至極納得できます。しかし,クマタカであっても,そして,かなり彼らの個体数が増えたとしても実際には鹿の個体数をコントロールできるほどのレベルの採餌は行えないでしょう。
 健全な食うものと食われるものの個体数変動モデルは,健全な生息環境の元に機能すると云っても過言ではなく,人間が供給してしまう餌環境への移動等が生じても機能し,また,人間の産業地域にそれらの動物が移出していっても何ら問題が生じないなどと云うことはあり得ないわけですから,日本の森林環境は既に古典的モデルが通用するようなある意味単純な状況ではないです。そういった意味ではかなり危うい状況にあるものと考えられます。

 全然面白くない長い文章を読ませてすいません。筆が滑ったところもありますし,短い時間に書いたのでつっこみどころ満載で,且つ分かりにくかったと思います。加筆修正をしながら,もうちょっと面白い文章に改造していくつもりですが,ともあれそのためのたたきといえるドキュメントを何とか作りました。推敲と呼べるものもこれからかと思います。でもまぁレフェリーも居ない,雑感に近いWebのアーティクルではありますし,ご意見を貰うのも良いですし,とりあえず覚え書きのつもりでアップしておきます。

追記-本稿は2005年のエントリです。
Commented by yusuke at 2005-02-16 20:58 x
一度バランスが崩されると生態系の破壊が
ドミノ倒し的に進んでしまうんでしょうか。
しかし、こういうのも全国的に進んでるんでしょうね。

ところで、complex_catさんの影響を受けてか
ローレンツのソロモンの指環を読みました。
恥かしながら読むまで刷り込みの人としか知らなかったんですが
彼が動物をどこまでも愛しその真実を探求しようとする
熱いオジサンだったんですね。実はノーベル賞も取ってるし。
ちょっとcomplex_catさんと似てるかも。笑
Commented by complex_cat at 2005-02-16 21:04
はい。全国的に進んでいて,一番お金を持っていない官庁が所轄しております(笑)。この時勢,新たな予算措置をとって,十分な対策を施行するのは不可能かと思います。環境ではなく,観光資源的に見てもかなりヤバイ状態が来るのではと思っています。
ローレンツ,人として大好きです。彼の業績における光と闇については,また,機会があれば書きます。
Commented by complex_cat at 2005-02-16 21:34
シカ問題どうするか。まず行政。
1)猟友会も高齢化されて,またボランティアによる狩猟も負担が大きいところです。ここはやはり欧米のように関連分野の公務員の方に銃猟訓練を施し,狩猟による個体数コントロールを行政の業務の中に位置づける。
2)同時にちゃんと野生動物管理に関する教育を小学生理科の段階から組み入れる。理科の教科書で取り上げられる生態分野も随分進みましたが,他の生物分野の整理された内容に比べるとやっぱり遅れております。何で野生動物に餌やっちゃいけないか,日本人の一生の中で学ぶ機会など一度もありません。
3)この困窮した財政状態で,財務とバトルして国立公園内の鹿保護管理について予算措置して貰う。本当に,野生動物保護管理のために使うお金って無いのでしょうか。
4)某管轄省庁も何処かに倣って某氏みたいな政治家を作って,お金の流れを変えて貰う。最後は勿論ジョークですが,予算という問題だけがネックになっているとは思いたくないので,書いていて何となく嫌になりますネ。
Commented by kyoko_fiddler at 2005-02-16 22:28
鹿の天敵って、もとは何だったんですか?
Commented by yusuke at 2005-02-16 22:37 x
やっぱりそうなんですね。
某管轄省庁って、そのまんまの名前のところでしょうか。笑
確かにあそこは他の省庁に比べ発言力が弱そうですし、
経済性を見出し難いところは中々予算もらえないみたいですね。
環境の価値を貨幣的に測るという試みもあるようですけど。

専門家ではないのであれですけど悲観的な私は
環境の話をリアルに考えると正直ツライものがあります。
Commented by complex_cat at 2005-02-16 23:02
yusukeさん,いいんですよ。あと10年から精々20年以内に,「死に逃げ」できる人たちは。環境の話は,世代間闘争みたいなところがあって,若い世代にとってこそより深刻な問題になります。だから,貴方のような若い世代が悲観的になっても,私も含めて,その上の金と権力を握って(私は全然握ってないですけど(汗))次世代へ果たすべき責任がより深い世代はあまり責める資格は無いと思ってます。って言われても困るでしょうけど。自然科学や,お金を生み出す可能性のある分野に置いても基礎科学にお金が出ない国なのでいわんや・・・・ですね。環境分野の経済的価値の試算は,まぁ知的ゲームみたいなレベルで,じゃぁ地方が中央の大都市に対して,自然資源や食糧資源管理税とか環境税などを取れるかなんて論議になれば,一蹴されそうです。
kyoko_fiddlerさん,天敵の話,ちょっとややこしいので,コメントにせず,加筆します。
Commented by yusuke at 2005-02-16 23:56 x
悲観的になってもなにも解決しないですね。
わたしのおつむでは
こういう話はスケールのでかさのため思考停止して
何をして良いか分からなくなってしまいがちなのです。
今密かにやってるのはペットボトル不買運動くらいでしょうか。。
ドラえもんさえいてくれたらなぁ…。
Commented by みお at 2005-02-17 23:25 x
10年くらい前に霧島の林道を走っていたときに鹿の親子に出会ったことがありました。その頃はまだ人(クルマ)を怖がっているようでしたし、森もこんなにひどくなかったような気がしています。

鹿問題を公害として捉えるには、私たち一般人のコモンセンス(共通感覚)があまりに幼いような気がします。問題提起していく人がいなければ将来ひどいことになりますね。
Commented by complex_cat at 2005-02-18 00:43
逃げないのは,ビジターセンター周辺の個体が酷いです。その他は,一応未だ逃げる個体が多いです。10年前,異変が顕在化していた時期です仰るとおりまだまともな林がほとんどでした。しかし,ペンション地域などで夕方になると数十頭の群を見て,恩師の主催する観察会に動物の方の解説担当で着いていくと,観察路のある場所では馬酔木とユズリハ以外は,ほとんど消滅しているのを見て愕然としました。
Commented by complex_cat at 2005-02-19 23:59
追加文章,たたきをとりあえず,強引に上げました。推敲中と書いたのがちょっと気弱なところです(笑)。クリックするには覚悟してやってください。と言っても,ただ,文章長いよ〜云うことなんですけど。
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by complex_cat | 2005-02-16 19:18 | Wonderful Life | Trackback | Comments(10)

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