仰臥からの脱出(Ground escape)〜中国武術になぜ寝技はないか


この‘Cat Kick Dragon Fist’カテゴリは,基本的な護身テクニックについて書いたり,思いつきの武術論考を書き散らしておりますが、しばらくこのカテゴリ書いていませんでした。私が信頼すると同時に過分にも評価もしていただいている武術への造詣が深い方がネットを休まれているので,その間,このカテゴリーを書くのも何となく控えておりました。あと,もう一つ,特に護身分野の話はいろいろ迷いが出てきておりまして,エントリ・テーマとしてはいくつか持ちえながら,忙しさもあって中断しておりました。
 迷いというのは,誰もいやな思いをしない世の中を真に求めるならば,こういう護身的エントリの意味が果たしてどのくらいあるのかなという気がしてしょうがないわけです。世の中,騎虎の勢いで痴漢や暴漢と殴り合いをする方がはるかに簡単な場合もあって,そうじゃない社会的な動きの中で勇気を持つことやそのための努力,戦い方のほうが何倍も難しく,重要なのだということが,私自身分かってしまっているからだと思います。
 また,護身術論は,こういう暴力に対してはこうやって抗え,脱出しろと云うそれを使えない人は,やられてもしょうがない的な空気を生み出す危険性もあります。それが暴力被害者にとっては新たな自己責任的な圧力に成り得るというのを感じるので,格闘ノウハウについてのテキストは,存在そのものが屡々傲慢な暴力に成り得ます。

 それでも,この分野は,終局的には自分の子供達を含め誰かに役に立つ技術として積み上げていきたいと考えている私のライフワークであり,書くことは思考を発展させることの手助けになるので、私の稚拙な関連論考であっても,少しは先に進める手がかりになると思ってちょっと書いてみます。 私は自分の愛する人たちが武技を使って暴力常習者と戦っているシーンを想像しただけで,絶望的な気分になり吐き気がしてくるヘタレなので,基本,この分野については大いなる自己矛盾を抱えていることも,この際,告白しておきます。

 さて,今回のお題目は仰臥状態で襲われた時の対処法ということです。考える中で、中国武術には,基本的に寝技で相手を仕留める戦闘技術がほとんどありません。地に固定した後決めるのを例外として,皆無と言っても良いと思います。関節技も立ったまま極めるか、相手が地に倒れた時には勝敗は決していることになっています。上の動画にある地躺拳は地に伏して戦う武術と誤解されるようですが,地を転げ回るような拳や蹴りは基本的に立っている相手に対しての攻撃であり、寝ている相手を攻撃する技ではありません。また,このような門派の戦略は,仮想敵となる相手が寝ているものを対象にはしていない立ち技を使ってくるのが前提だから成り立つわけです。
 カムイ外伝の一エピソードに,行方不明となっている剣客である父を捜す少年の話が出てきますが、その父親が振るう剣は,秘剣「草薙地舞の太刀」。地を転がりながら相手の足を切り落とし下からの突きなど繰り出されるもので,これも地に伏して襲ってくる相手を想定した剣は無いという剣技の盲点から生まれた剣術ということになっています。
 地躺拳のような門派に寝技を仕掛けたらどうなるかなとちょっと考えたりするのも面白いのですが、何故に中国武術には寝技が無いのでしょうか。
 いくつか理由を考えてみましょう。

1)武器を持った集団戦闘において寝技は自殺技にしかならない。倒れた相手にまだ戦闘能力が残っていたとしても,上から太刀なり武器を振り下ろせば勝敗は決する。相手が小刀でも持っていたら、あるいは,組み付いている背中にいきなり別の敵から襲われるリスクを冒してまで,組み付いて仕留めるという発想は生まれなかった。
 今でも自らが倒れ込んでしかける技を「捨て身技」と言いますが,武器を持った複数の敵と対峙しているという前提だと,自分が地に伏せる状態で戦うことを想定するというのは,前提条件如何によっては「全く実戦的ではない」ことになるわけです。

2)相手が地に倒れた場合は、既に打突系の加激か,固い地面を利用したことによるダメージを与えられていることが前提なので,畳の上での戦闘のように衝撃を受け身で吸収しながら寝技に移行するという戦闘法を発想しない方が自然。
 倒れている状態は,既に勝負が決していると考えるべきで,これは兵器術による戦闘では顕著なはずです。

3)無手の寝技で相手を仕留めるという発想は,畳の上の戦闘で優劣を決するという柔術に顕著だが、無手の技で御前試合や講道館柔道の黎明期などでの「試合」形式の中で生まれた実戦性と考えるべきである。

 格闘技の天才であった初代タイガーマスクこと佐山聡氏は,グレーシー柔術が脚光を浴びているその時に,掣圏真陰流という市街地戦を想定した格闘技というか武技を「開発」されました。
 不世出の格闘技の天才であるだけではなくその発想は20年は早いと言われてきた氏の慧眼通りかと思います。前進は「掣圏道」と呼ばれていた時代に,それを検討する機会があったのですが、グレーシー柔術が想定する戦いは条件的実戦性であると読みとった氏は,上記の何でも想定した場合の寝技の瑕疵を述べておられました。「掣圏道」という言葉は,言語感覚に優れた氏がジークンドー(截拳道)からインスパイアしたのではないかと,私は想像しています。
 国粋的な思想や直球の発言などから格闘技界にあってその実力を知られながら氏の取り扱いは複雑なようです。またあれだけ嫌っていたタイガーマスクのマスクを被り,タイガーマスクであったことを流派のプロモーションに使われています。古武術的な流派の命名変更も氏のUWF時代からのマーケティング感覚を思い出したりしてしまいました。僭越ながら苦労されているのではないかなと,逆に感じてしまいました。武技は究極には心法と一体化するので,精神世界とのリンクはより強力になっていく部分がありますが,ここでは技術的な面だけに眼を向けたいと思います。
 興味深いのは,「ロシアンフック」の命名者である氏との関係の深さか,掣圏真陰流にはロシアの格闘家も多く参加していることです。そちらからSystema的なロシア古武術の戦闘法や発想も流れ込んできていることが容易に推察されます。Systemaでも柔術的な寝技のテクニックは研究されていますが、例えば武器を持った集団戦闘技術を母体とする「実戦」において柔術的な寝技による制圧方法は絶対的ではないことに,氏はとっくに気がつかれていたのでしょう。寝技は瞬時に仕留められなければ,自殺技であるし,Systemaのように自在に床を移動して転げ回る技術がないと自らを窮地に追い込むことになります。
 同様に日本の古武術においても,急所打ちなどの当て身技と地に叩き付ける投げ技,倒し技が基本であり,柔術的な技がそこから抽出,進化したのは,先に述べたように,刀剣を使った戦乱の時代が終わり,無手による畳の上での「実戦的な」実験が試行された後かと思います。特に座位の技などは,刀を帯びたり抜刀出来ない城の深部などでの警護などで研究された技が基本であると考えられます。合気道に,仰臥した状態で襲われた場合の対処法があるか確認したことがありますが,基本的には無いようです。大人数を相手取ることまで想定された武技なので,位置取りなども重要で,戦闘理論の中には寝技はないと考えて良いようです。
 ただ,できないということではなく,開祖は高熱を出し,いよいよ死期が迫ったときに,いきなりむっくり起きだして「おい,稽古するぞ!」と言い出されたので,高弟の方々があわてて寝床に押さえつけようとしたら,全部跳ね飛ばされたという逸話が伝わっています。「亡くなる直前が最強になる」と公言されていた不世出の達人における一つの伝説ですが。

 中国ではそのような畳の上での戦闘の必要性が生じることも無かったので、この寝技がないという特性は,古代中国拳法系では更に強いかもしれません。草原の上ならともかく,平和な時代になり武器携帯が一般的ではない無手の時代になっても,1対1の「試合」形式の殺し合いでも,寝技でしとめるという状況はあまり生まれなかったと考えてよいかもしれません。また多くの中国武術の基本は兵器術をベースにしております。あの太極拳や八極拳ですら,槍術を祖として発展してきた成分も強く,それは,槍が「芸中の王」なればこそ。そのあたりの術理の連続性からも,完全な寝技というのは,各門派の戦闘術のバリエーションとして生じなかったのかもしれません。

カムイ外伝 (6) (小学館文庫)

白土 三平 / 小学館






 しかし,中国武術修行者に関わらず,護身術的な運用としては,,孤立無援で武器も持たず地に伏したままの状態で襲われたらどうするかという問題は残ります。寝込みを襲われたときの対処とか,護身術として考えるならば,むしろ基本中の基本かと思います。
 まともな人であるほど寝込みを教われるなんてのは,想像したくない状況かなと思います。とある流派の世界大会入賞の実力がありながら道場破りばかりやっておられた方の話では,毎晩,どうされていたかというと,包丁抱いて寝ておられたそうです。結果的にそれを使わず,部屋に押し込まれて襲われたのも全て返り討ちにされたそうで,よくやるよなぁと感心したものですが,このエピソードで申し上げたいことは,準備なしに襲われて寝技に持ち込まれた場合の安直且つ効果的な反撃方は,やっぱり武器を使うことだよという実も蓋もない事実の裏返しで,いかに武器を持っている相手に寝技を仕掛けることが危ういかというお話です。バットでいきなり寝ている顔面を打ち下ろすか,飛び道具で離れたところから襲った方が遙かに実戦的で効果的です。ああ,怖い。だから,寝技の実戦性やバリートードというのは,寧ろ立ち技などよりも,相手が武器を持っていない状態が保証されているという条件付きなのです。
 ただ,相手が無手なら,基本的な方法を覚えていたら,ある程度寝技は,不利な仰臥からの起死回生の護身術になりえる状況もあるかと思います。ちょっと幾つかベーシックな仰臥で襲われた場合のサバイバル技術に関する動画を見てみます。
 ここのSystema派生のマーシャルアーツでは,柔術的なマウントを獲られた状況からの脱出の基礎を示しています。甲は膝でマウントしている乙を前に崩すそのときに,ひじを閉めて前に移動できないようにフックするあたりが味噌です。あとは前に崩して,片手を引き込んで横に倒す。とまぁ,基本ですね。

発展形はこちら。グレーシー柔術などの流れと収斂現象を起こしています。サンボやそのあたりも技の交換があると思いますので,このあたりは,逆に何がオリジナルか私ごとき似は判断がつきかねます。


 SYSTEMAの基本戦闘技術にも,多様な寝技の体系があります,護身術的な用法としてだけではなく,柔術的なロシアの誇る武術としてコンバット・サンボにおいては,速やかにテイクダウンを奪うとともに,膝やひじ足首などの間接を一瞬に破壊する戦闘法が基本になっています。これは,近代戦においては,兵士の戦闘能力を奪うことを第一目的としていて,リアルタイムで参戦できなくなる人間を生死関係なく増やすという「効率」の戦闘でもあるからです。小径の弾丸を大量に吐き出す現代的な突撃銃と同じ発想です。
 競技化されてもいますので,寝技での間接の取り合いみたいな攻防が続くわけですが,それは柔道などでも見られる延々と続く寝技と同じ,同じ技の熟達者同士の攻防の結果であり,それが実戦的且つ現実的な戦闘法であると考えると,少し不思議な話になるのと同じです。


 倒された状態で複数の敵に襲われたときにも対応できるようにするSystemaの基礎トレーニング。マウントされて殴られても,立ち技のときと受けや崩しは同じ戦闘理論の延長と考えて良いでしょう。銃を持った相手に対しても,銃の持ち手の外側方向に転がるというのがFBIなどで教えられていますが,それが理屈どおりにできるためには,このように自在に転がる体術のための基礎トレーニングは欠かせません。


 倒れたままでも,打突の流し方やパンチの打ち方など,Systemaの術理のままの技を使えるトレーニングと,相手のコントロールの仕方が特徴的ですが,これも相手が寝技に移行するとしてもそのアプローチの立ち位置を前提とした対応。いわゆる寝技の応酬とかとは違っていて,むしろ中国武術的な戦闘法の範疇と考えることができて,大変興味深いです。
 まぁ,今のアルティメットな格闘技のプロ選手などでは,このようなディフェンスで簡単にしのげるようなレベルの攻撃ではないので,そっち方面の経験者に襲われない限りといった方が良いと思います。競技格闘技の熟達者は,決して古武術や軍隊格闘技術で簡単に対応できるなんてこともありません。最初から相手が素人だと,ハードルを下げて護身術を考えたほうが,楽なのですが,自分の経験からあまりそのようには考えたりできないものですから。


 中級者編。昔,他流派(一応打突系)との試合で,なんと予想してなかったタックルを食らったので,偶然ですが,この首へのサブミッションを使って仕留めたことがあります。このときも,師からは身体能力は低いのに,不思議な格闘センスがあると誉めてもらいました。運のよい男。


この際だからいろいろ貼っておきます。地躺拳とは,ぜんぜん風格も方向性が違いますが,銃,ナイフなども想定した,Systemaは商売になるので,亜流がたくさん派生してよく分からなくなっていますが,一応それ流のグランドでの交わし方の初心者向けベーシック。


 この状態にまで追い込まれたら,よほど心法を鍛えてないと,経験者でもパニックになるのは必須なので,画に描いた餅になりやすいですけれど。伏臥の状態でナイフで襲われた時の基本は,多くの戦闘技術では,相手のナイフ攻撃が死角になるような流れからトラッピング、重心誘導からマウントポジションを崩して,奪刀,その凶器で逆に相手を絶命させるとなっています。こういうのもリーチで不利な小柄な男性や女性が使うのは簡単ではないのですが、さらにフィニッシュの部分は,平和な時代,法治国家でなくても,殺人者といえども相手にナイフで怪我させるということでは,究極の護身術には使えないので、悶絶させてその場を逃げるか,完全に制圧して警察を呼ぶまでの作業ができて初めて意味を持ちます。陳家太極拳の名家に生まれた女性が,二人の暴漢に襲われて,思わず発勁して絶命させてしまい,その直後から,精神を病んでしまったという話もあります。護身技術の運用に際しては,軍隊格闘技術だけではなく,後で訴訟騒ぎや自らが加害者にならぬよう,逮捕術的な技術を持っておく必要があります。
 合気道の開祖である植芝盛平翁が,相手を傷つけずに制するを武技における終着点にされたことは,達人故の理想論でもなんでもなく,現代に生きる武術としての究極的な解であると感じ入る次第です。

 これ以降の話は,実際に暴力を受けた方にとってはフラッシュバックが生じる可能性もありますので,読まれる場合は御注意ください。

  私は,ベランダ越しに暴漢に侵入され,未明,布団で爆睡しているところを襲われたことがありますが、寝技に持ち込まれる前に,跳ね起きて仕留めることができたのは,当時の自分の武技のレベルを考えると運がよかったと思います。襲う直前に相手が「かわつるみ」などといういたらんまねをやっていたおかげで,妙な気配を発してくれたおかげで一瞬で目が覚めて,先手を取ることができたわけです。まぁ一瞬で,といっても賊が自分の部屋に侵入していて自慰行為をしているのを理解するのに1秒弱,どう見ても,自分を性暴力の対象としよとしているのだと判断するまでに多分,数秒は時間がかかったと思います。,相手がじりっと動き出すその瞬間には蹴り込んで先とることができましたが,当時の私は,身長171cm,体重54kg程度,鍛えてはいましたが,あんまり筋肉がつかないタイプで,先輩の彼女とよく間違えられたりしました。無論,このときは,女性と間違えられたわけではありません。
 そこでいきなりマウントポジション取られて殴りつけられていたら,あるいは身動きできないように制圧されて,あるいはいきなり凶器で襲われていたら,ほとんど対応は不可能だったでしょう。どうにでも完全に無防備な私を襲えると踏んだところが,相手のミスであったようですが。この手の輩は,こちらが気がついて被害者的に振舞うと,凶暴化する可能性もあるので,もしも余裕があるのならば,冷静に対等の立場で話をするか,あるいはいきなり全開であたるか,どちらかの選択しかないとというのが基本だと思います。私は若かったので,性的暴力対象とされたことに立腹して,後者を選んでしまいましたが,今ならそうしなかった可能性も考えたりしています。

 中国武術的には,仰向けうつぶせ,どの状態からでも脚を振り回して蹴りをぶち込んでそのまま立ち上がり,攻撃を作る流れというのは普通にあります。寝込んだ状態から私の横に居た暴漢に蹴りをぶち込んだときは,相手はまるで被害者は自分みたいに悲鳴を上げたわけで,全く失礼な話でした。
 武術修行は,単位ハードウェアとその制御だけの問題だけではなく,こういう入力があったときに,迎撃の流れにすぐ入れるという意味での,ソフトが快適に走るなというような効果も大きいのです。
 横にひざまずいて身を乗り出しかけた男のコメカミに,寝ている状態からの回し蹴り,でそのまま脚を振り上げてヘッドスプリングで跳ね起きて,武器を持ってたら出される前にしとめようとそのまま飛び込みスライドして飛び道具の後ろ蹴りを臍の握り拳一つ分下に入れました。腹や顔面など蹴らない。手加減したら戦闘停止になってくれないから。ただ,相手が衝撃で失禁したりするので,後の掃除が大変です。
 この流れは,後で師匠の前で見せて検証する羽目になりましたが,「まぁいいんじゃないの。動けただけで及第点。最初の先制の蹴りはわざわざポイント外してる。」といわれました。相手が有段者で目録以上の腕か武器を飲んでいたら,私の技は全然問題にもならなかった,ウェイトのある格闘技経験者だったら,進入された時点で終わってたね,だそうでした。きびしーけど,そういう論理的な検証をやってもらえたおかげで,自分自身のリハビリになったと思われ,この件に関してはトラウマよろしく後で寝込みを襲われる夢を見るたびに返り討ちにしていて,起きたら汗かいていたというのは5回に1回ぐらい。後は全部夢の中でも私の勝ちで返り討ち。どうやら,メンタルな問題にはならなかった気がします。

 で,おかしかったのがこのときのどたばたと相手の悲鳴と私の気合を聞いていた下の部屋に居た大家さんが,朝になっても出てこなかったこと。私の方から,時間も回って大家さんのところに報告しに行ったときに分かったのですが,上の部屋に賊が侵入したか何かで,悲鳴からあの部屋の青年は殺されたか無事ではすまなかったろうと,怖くて動けなかったそうです。特にその獣のような声を聞いて心臓の調子が悪くなって寝ていたと,あっけらかんと淡々と話されるので,私としては,わははは,その悲鳴は,襲ってきた相手のものでして,獣みたいな声は自分です,びっくりさせてすいません,と説明して間抜けに笑うしかなかったのですが。昔から,助けを呼びたかったら「火事だー」と叫べというのは,本当なんだなと思いました。
 私の一番の失敗は,自分の稚拙な技で戦えると踏んで,最初から最後まで助けを呼ばなかったこと。いや,必死だったんで,忘れていただけなのですが,自分の息子が同じ話をしたら,そうやって叱ると思います。
 襲ってきた暴漢の方は,手加減など全然した覚えがなかったので,こっちもなんか後ろめたくて,若気の至りかおかしな話,結果的に警察沙汰にせず(あとで大家さんが読んだのでいろいろ聞かれましたが),で,本人の治療費も勿論相手持ち,そのアパートの住人だったことが分かって,数日後には逃げるように出て行きましたが,その前に見事なマスクメロンが半ダース私のところに届けられていました。お詫びということなんだろうけれど,性的対象と見られて襲われた方としては,少々ゲンが悪いんで,大学の研究室に持っていって,事務の仲良かったお姉さんに「寝込みをおっさんに襲われてぶちのめしたらそのおっさんからもらった。」と小学生みたいな説明をしたら,彼女も豪傑で「・・・おー,c_C君,無事でよかったね!・・・私好きなんでいいよ,置いてきな。後で切って◎◎先生たちと一緒に食べよう。」と,ナイーブな世界とはおよそ縁遠い,そのこだわりの無さに,救われました。その後この話は,一部学内関係者の間に伝言ゲーム的に知れ渡ることになったりしたのですが,後日,悪友に「おーい,c_C,おまえ,おっさんに襲われてお礼にメロン貰ったってホントや?」と言われたときには,「ああ,ははは,そうだよ。」とやっぱり間抜けにも一緒に笑ってしまいました。「お詫び」が「お礼」になってるし,「中略」されるとひどいもんですな。

まとめ
 技で対応できるかどうかについては,保障できません。恥ずかしながら自分も運がよかっただけ。生還できる確率を上げられるかどうかというレベルということを前提に。

・迎撃は凶器を出したりマウントとられる前に。武術のトレーニングは異常事態感知に役に立つ・・・こともある。
・立ち位置の相手なら,足元や着地点を読んで蹴り飛ばして崩す。
・既に床に張っている状態なら頚部への蹴り。顔面なら鼻の下から鼻にかけて,あるいはのど等を狙う。
・跳ね起きる,転げまわる対術は危機回避に必須。後者の基本練習はそんなに難しくない。ヘッドスプリングは,布団をたくさん重ねておいたところに半身を乗っけて脚から飛び降り立つ練習をして,だんだん布団を減らしていくと上方に蹴り出すコツが分かって割と習得可能。
・マウントされてもあわてない,柔術やレスリング経験者でなければ,崩すのは練習次第でそんなに難しくない。
・相手の腰がシフトできないようにして重心を前方斜めに片腕を引き込んで。その後,捕まれないように蹴りまくって脱出。アメリカのサバイバーのためのプログラムでは,結果的にそうなってる。
・マウントされての打撃については,素人の単純なものなら防ぐ方法はある。ついでに重心を崩してマウントから脱出。
・脱出には下腹部に蹴りを,急所に当たらなくても臍より下腹。頭部より頚部。
・あるいは顔が迫ってきたところで顔面に頭突き。これも先制が必須。
・助けを呼ぶときは「火事だ~。」人が出てくれば相手も浮き足立つ。
・このシチュエーションなら,少々のことをやっても過剰防衛にならないとか不鮮明。護身術の正解はあってないようなもの。アクシデントも含め事後の問題はいろいろ発生する可能性があるが,最終的にはまず,自分が窮地を無事脱出することが先決だと考えるしかない。
・終局的には,治安のよい社会を得るための個々の市民の意識改革や社会努力に勝る護身術はありません。レイプ被害など,そういう戦い方をしている方を支えるのも一つの戦い方です。

 ちなみに、どうやらここは人気?猫ブロガー(笑)の猫馬鹿ブログwらしいのですが、それなりに御評価いただいた武術系エントリは、以下のものがあります。ご興味のある方は覗いてみてください。

フェンシング,もし戦わば
 エントリ内,リンク先の質問コーナーに上がっていた内容で,なぜか中国武術だけが無手という条件みたいで変なのですが,これは一般に知られる中国武術が兵器術としての面を認識されていないことによる矛盾かなと思います。剛猛な陳家太極拳も八極拳も原型は槍術を主体とする武技です。戦乱の時代に発生した中国武術の原型は,無手ではありません。
 回答を読んで、失礼ながら,あまりそれぞれの武術に精通していて書かれているように見えなかったので,自分なりに思考実験による仮想ファイトを考えてみました。

近接格闘術と詠春と女性警備員
 導入は女性警備員に対する男性からの「女が戦えるはずがない」という発言を読んで起こしたエントリです。これは女性が使える武技こそ,実は,レフパワー要素(ちょっと簡単に説明しがたい難いのですが,まぁ単なる馬鹿力みたいなものがラフ・パワーでそれに対する精緻な筋肉の運用による力のこと)が多く、技に優れた優れた武技なのではないかという,私の武術上の方法論の一つに関わる問題です。
 ゲーム世界で大流行の近接格闘技のベースが南派の中国武術にあることをベースに,少し書いてみました。
 最近は,空手の有段者でもある女性が車上狙いを取り押さえた話がありましたが,彼女が得意の空手技を使わず,柔道技を選んで多分細心の注意で取り押さえたのですが,記事の書き方もあって,そんな技かけたら下手すると死ぬぞとかいろいろ云われてしまう状況を見て,反撃する,取り押さえるという選択は,今時どうあっても批判されてしまうリスクがあるのだと,改めて認識しました。巴投げは横に投げ捨てるようにすれば,頭部や首へのダメージのリスクは下げられるので,殺人技として使わない工夫は可能だと思いますが,その場の状況判断なので,外部の人間には分からないのですが。暴力に抗する力があっても,終局的な護身はとても難しいなと感じた話です。
 急所を軽く撫でて倒しても,刑事事件になった状況で,相手がEDになったとか言い出しかねませんし,こっちの情報を全部ネットに上げるなどの嫌がらせなど二次被害も考えざるをえないというところで,大変です。ただ,致命的な状況からの脱出や無事に家族の元に帰るということを優先するならば,覚悟せざるを得ないことも確かです。

Van HalenのPVで学ぶ北派中国武術基礎腿法
 これは,ちょっと息抜きみたいなエントリ。かなり古いロックの名曲ですが,これについて、この論を言い出すものを見たことがなかったので,フィジカル・エリート・ロッカー,デイブ・リー・ロスが学んでいた中国武術も含めて,楽しくかけたエントリです。

剣術と近代剣道
 下手な横好き,無手の技ばかりで兵器術,特に剣技はそんなに詳しくないのに,フェンシングの話に次いで,再びあげてしまった論考。

追記-忘れていましたが,襲ってきた男の顔を,小さなチビ電球の明かりではほとんど識別できませんでしたが,双眸の黒いしみみたいな黒さは覚えています。顔見るより先にけりをぶち込んだので,十分に観察しなかったという,悪い癖が出ています。このあたりもセキュリティ的に失点だけれど,通常,暴力被害者が何にも覚えていなくても,私は無理からぬことだと思います。
 ただ,一瞬,私が起き上がって構えたのに,構え返したため,武道経験者だと判断したことも書いていて,思い出しました。いろいろ忘れている。ぶちのめした後で観察したら,思ったよりも小さな男だったというのも,やはり,いろいろ精神的に,こういう意識状態のときは,当てにならないなと思いました。

追記2-この後,自衛論による被害者たたきを,ネットで目にするようになり,嫌な方向に予想が当たって暗澹たる思いでいろいろあちこちのブックマークに書きました。
 私自身,人に会うたびに戦闘シュミを無意識にやってしまうような人間ですが,まことに失礼ながらこの人に襲われたら終わっていたな,という戦闘能力の高い人の方が少なくないのです。当たり前の話ですが。
 また,護身術は,自分が襲われる確率を低めるという意味で効果があるわけですが,あくまで確率的防御であることと,襲う側から言えば,ゴルゴ13のように絶対に隙を作らない人はいるはずもないので(普段からそうやってふるまったら病気ですな)もっと襲いやすいタイミングを待つか,他のより襲いやすい隙を作らざるを得ない人を襲えば良いということになり,社会的には防犯の徹底で窃盗や強盗などの回避できる話と同じように考えるのは,筋が違うように思っています。社会的な治安と云うことでは返って後退することが心配になります。
Commented by rrr at 2021-06-12 13:34 x
護身術論ですがやられても仕方ないってことはないかと
戸締りをしろって泥棒が悪いってのは別ですしね
Commented by complex_cat at 2021-06-20 09:18
捨て垢の人って、その人の日頃の発言や人となりの情報がない相手に、更にコストかけてない、文書作成能力低いわかりにくいテキスト投げ込んで、相手が意味わかるって思うのが不思議です。
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by complex_cat | 2009-09-25 22:51 | Cat Kick Dragon Fist | Trackback | Comments(2)

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