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Klaatu / Klaatu

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Capitol; ECS-80854; 1976
 かつてはLPを一枚購入するという行為は,多くのリスナーにとって,清水寺の舞台から飛び降りるような行為だった。だから,リスナーが手にするレコードには購入者への敬意が払われるべくライナーノーツが添付され,アーティスト情報を補完するレコードの一部であったと言える。購入者は座してステレオの前に座り,穴が開くほど正方形のライナーノーツや訳詞やオリジナルの歌詞(これがよく間違っていた)を眼で追ったものである。当時は知への気高い欲求(?)を満たす作業と無機的丸暗記的知識の放出を一緒くたにして揶揄する「オタク」という言葉もなかった。


Klaatu/Hope
Klaatu / / Beat Goes On
ISBN : B000008HDO
Klaatuにおいても現在手に入るこの1st&2ndアルバム2枚分の輸入盤(Collectors' Choice Music - ASIN: B00004SR2H)などには,読みたくてもライナーノーツなど入っていないのである。関係ないがサンダーバードの少年合唱曲なども,オリジナル英語版には存在しない。曲は流用しているが日本放送版だけのものである。それだけ日本版の作成には,洋版に不慣れなリスナーを想定して,余計なお世話とも言えるほどの手間を惜しまなかったのである。輸入盤にみる音楽のみの販売やCDサイズへの付録の縮小は,ダウンサイジングによりこれまでと同じ情報を記載してあっても,リスナーには縁遠く,無意味なものになっていった。アレをぺらぺらやって隅から隅まで事細かに読みながらという試聴スタイルは,どう考えても今時のリスナーにはなじまないだろう。このKlaatuのレビューを書こうといろいろWebを見に行って感じたのは,輸入盤やライナーノーツレス版の定着もあって,かつてはそこで披瀝されていたような必死でライターが集めた情報は霧散し,ファンにおいて当たり前のように伝承されるべき情報が断絶しているということだった。このKlaatuのデビューアルバムが何故,BEATLESのメンバーの仕業ではないかと騒がれたかという理由もそういった伝承されない情報となっているような気がする。
 BEATLESが出す予定で出せなかったレコ・ジャケのデザインが太陽をモチーフにしたものだった事,‘Sub-Rosa Subway’の曲中,バックにモールス信号が入っていて解読すると‘STARSHIP APPLE’(勿論パソコンメーカーの話ではなくApple Recordsということである)となることなど,勿論全体的な曲調,アレンジが後期ビートルズしか当時は比べるべきひな形が無かった事も手伝った。複数の符丁が意図的に盛り込まれているアルバムを聴いて,一部の純情だったファンは皆信じて祈った。きっと,解散したBEATLESの誰かが隠れて作ったのだと。これは今時の音楽ファンでKlaatuを聴く者にはなかなか想像もつかないと思える。だから,誰にも声似てねぇじゃん,なんでBEATLESがやってるなんて勘違いしたのかわかんねぇ,アフォ,馬鹿じゃん,などと云う感想で終わっているものがWebを探し回ると非常に多かった。
 現在のコピーバンドなら,当時ならスタジオ・ミキシング技術で出していた音をライブでそのまま出すことなども可能で,ボーカルも限りなくその人の声を出す人材を揃えるなど常識であると思う。しかし当時にあっては,BEATLESサウンドへの完成度の高いオマージュなど皆無に等しかった。後期BEATLES風のプログレッシブなポップソングをこれだけのギミックをまぶして出されれば,解散した偉大なるバンドへの渇望も手伝い,少なくともメンバーの誰かが,プロデュースに一枚咬んでいてもおかしくないじゃないかという風評を信じたくなるファンが居ても責められるものではないと思う。

 長くなったし,勿論ここではアルバムについては1枚目の話だけである。異常とも言うべきほどの音楽ファンでもあったリチャード・カーペンターに取り上げられてCarpentersがカバーした‘Calling Occupants of Interplanetary Craft (The Recognised Anthem of Wor’の完成度は今聴いても褪せる事はないロックバラードの名曲。アレンジャーとしてリチャードが仕事をした結果であっても原曲とあまり違わないところが,この曲の凄いところ。貴方はカエルの鳴く湿原に分け入り,やがてLPに針が落ちるSEが始まると既に術中に填っている(のか?)。
 2曲目‘California Jam’で入るアグネス・チャン(!)ライクな女性ボーカル(さすがにアグネスが香港から加わっていると言い張る奴は居なかった)や‘Doctor Marvello’や‘Sub-Rosa Subway’などで聴けるイエローサブマリン的リンゴスターぽいボーカル,ボストンも最初はやっていたプログレの称号をもらったバンドには紋章とも言うべきご苦労様的大曲‘Little Neutrino’などなどと続く。
 当時,BEATLESウィルスについては当たり前のように保菌者だったプログレ小僧にはたまらないびっくり箱のようなアルバムがこのバンドの最大のヒットにして最初のこの一枚であった。今は2ndと抱き合わせで,なんとか買ってよねぇと云うところでお得のようでいてアーティストの価値下げにならねば良いが。
 で,このような一発芸的,徒花的バンドと思いきや,驚くべきことに2005年現在,Klaatuの公式サイトがあり,当時は謎に包まれていた3人のメンバー(John Woloschuk (g,v), Terry Draper (k), Dee Long (g,v))のライブ画像ギャラリーなど満載である。当時の顔を知るよしもないcomplex_catを含む往年のリスナーにとっては,赤の他人のおじさん達がニコニコ写っていても判別のしようがないが。
 2004年にはアルバムも出ている。おぉトリビュートアルバムもあるのかと,自分も長生きしてしまってそのお陰でいろなものが見られるなぁと云う感がある。

ps-久しぶりにAmazon検索してみたら、ほとんどのタイトルが復活していたので再リンクを混ぜる。リバイバルブームでもあったんだろうか(2025/01/14)。

Klaatu / Hope

Klaatu/Beat Goes On

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Around the World in 80 Minutes: A Tribute to Klaatu
Various Artists / / Bullseye UK

Magentalane
Klaatu / / Bullseye
ISBN : B000OCXM9K(追記ー2007には,更にアルバムが出てしまった。びっくり)

 このジャケットしげしげ眺めていると生物が妙に沢山書き込まれていて不思議。そういえば“ Endangered Species”「絶滅危惧種」なんてアルバムも出している。
 Klaatu / / Capitol1曲目のSEといい,妙に自然保護にコミットしたバンドなのかも知れない。ならば,やはりcomplex_catで紹介すべきバンドであったのかもしれないと勝手に納得。



Commented by ara at 2006-07-23 17:08 x
Klaatuのアルバムを正座して聞いていたころを思い出します  真剣でしたね  (何にかは不明)
Commented by complex_cat at 2006-07-23 20:08
araさん,コメントありがとうございます。
本当,何に対して真剣だったのか,よくわかりませんが,一つ一つの楽しみが,濃密でした。今のようにiPodで何か聴きながら,雑誌を読んだり別のことをするとか云うのは,スタイルとしてありませんでした。ながらで勉強,というのはありましたが。
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by complex_cat | 2005-01-06 01:13 | Incoherent Music Box | Trackback | Comments(2)

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