Multiple paternity
2005年 01月 29日

哺乳類では,いくつかの種で,その存在が知られていますが,‘multiple paternity’というものがあります。「複数の父性」と云う直訳になりますが,これは雌親が1回に産む1産の中に複数の雄親の仔が含まれるという事です。即ち同じお母さん猫が産んだ子猫ちゃんたちが「異母」兄弟ならぬ「異父」兄弟となっていることを意味します。
猫では体毛のパターンからかなり以前からmultiple paternityの存在が示唆されていましたが,遺伝的な解析が行われ科学的にも検証されております。雌猫は一回の毎の受胎のチャンスに複数の雄猫と交尾をして多様な形質の異なる子猫たちを一度に産んで育てる事が出来るわけです。便利でしょ?
一方で,雄猫の方も,既に他の雄と交尾を済ませていた雌猫とでも交尾する事で,ひょっとしたら「滑り込み」で自分の子を受胎して貰えるかも知れないと云う可能性が出てきます。ただ,これは,雌を独占しにくい力の弱い雄にとって有利であるということです。普通で考えれば,他の雄の仔が混ざる比率がたかくなるということは,雄にとってはあまりありがたくない事です。雌側の排卵のタイミングもありますから,ずっと雌を独占して比較的長期間交尾していれば,雌が産む仔が自分の遺伝子を持っている比率は確率的には高くなるという事ですが,あくまで確立としてはそうであっても,間男(生態学用語では,このように振る舞う雄を「スニーカー」と呼びます)がさっと来て交尾していったらほとんどそいつの子供だったという事も起こりうると思います。
交尾した第一雌を放っておいて,他の第二,第三雌のところに行けば,そこでまた自分の子が受胎される可能性を上げられるかも知れませんが,一方で,第一雌が未だ交尾可能であれば,自分の子供の生まれてくる割合が減少してしまう事になるわけで,最も良いのは,全ての雌への他の雄によるアプローチをインターセプトしてしまう事で,これは,非常にエネルギーが必要な作業になります。
さて,猫の‘multiple paternity’を考える場合の基礎情報はこんなものにしておいて,
ちょっと面白いアブストラクトを見つけました。
L, Pontier and D, Natoli E. (1999) High variation in multiple paternity of domestic cats (Felis catus L.) in relation to environmental conditions. Proc R Soc Lond B Biol Sci. 266(1433):2071-4.
遺伝子解析で,農村地域と市街地域における猫のmultiple paternityの割合を調べたもので,農村地域では一腹の仔が2頭以上の雄親由来であった比率が0-22%と低いにもかかわらず,市街地域の猫ではこの比率は70-83%にも達するという事で,市街地では雌猫は,ほとんどといって良いほど2頭以上の雄の子供を宿しているという事です。
調査地におけるOSR(operational sex ratio=繁殖に参加している雌雄比率)や個体群密度が正確には分からないので,はっきりした事は言えませんが,農村部は雌を独占する事が出来るが,都市部では性的成熟に達するとすぐに交尾を始めるため,雌を独占しにくい。農村部では3歳まで繁殖に参加できないと著者達は述べています。密集型で,餌をどこでも得やすい環境では,猫は乱婚型になります。雄は性成熟に達するとすぐに交尾が可能になりますが,農村部では3歳までは繁殖に参加できず,繁殖できる雄が雌を独占するという状況にあるという事が示唆されております。このあたり,何が原因なのか結果なのかが分からなくなりますが。

おそらく,人間と暮らすようになって,特に市街地では餌資源が与えられる状態で分布様式が変化したところでは乱婚型という婚姻システムになり,相でないところでは一妻多夫型の傾向が強い動物と考えればよいかと思います。配偶個体の分布密度などに合わせて,繁殖様式を代える事が出来るわけで,特に雌側に生理的な準備が出来ているという事で,こういったところもなかなか猫というのは面白い動物です。
ちなみに野生のアフリカゾウでは,40歳を超えるまで,雄の交尾確率は,ほとんどゼロです。雌側が,干魃や餌が枯渇した時期など様々なハードな問題に対応できるスキルと知識を蓄えた中年以上の雄しか相手にしないからです。雄猫が繁殖能を持ってから3年ずれるというのは,猫の寿命を考えると妥当な線でしょうか。厳しいです。

私には,「今日も美味しいものがあったら食べさせて! それでまた出かけてくるからね! 早く!」と聞こえます。まぁ同じことですね。CANON IXY Digital 400

ブログを拝見していると,(コンシューマ)デジカメを用意しながら,AFのタイムラグのない固定焦点レンズの携帯電話デジカメで猫を撮られている方が意外と多いのは,何となく理由が分かります。広角側で良いからAF固定のタイムラグ最少の固定焦点モードを着けませんか,メーカーさん。
ところで「複数の父性」は、はじめて知りました。そうなのかぁー。すごいなぁー。面白いですね。猫って。
お子さんですか? (^^)
うちの猫かーの兄弟達は、明らかに異父兄弟でしたね…。雌猫3匹、母娘でいましたから、当時そこらじゅうの雄猫達が取り巻いていました。シーズンになると、どういうスイッチが入るのかわかりませんが、いつも一緒にいる壮年の息子たちはめったに姿を見なくなりました。シーズンが終わると戻ってきていたので、行動の自由度が高いと、血族婚を避けるなんらかのシステムが働くのかもしれませんね。今はもうシーズンだろうがなかろうが一緒にいますからね。