Mountain leech

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屋久島でよく出会うヤマビルHaemadipsa zeylanica japonicaです。
 自分の腕を少し吸わせて撮った良い画があったのですが,雨でCFを飛ばしてしまいましたので,はっきり形が分かる画を使えませんでした。うっかり連れ帰った宿の畳の上で尺を取っている画です。

 戦前や戦後直後までは,肩こりの患者の余計な血を吸わせるというので,治療用動物として売られたりしていたと,畑正憲氏のエッセイに書かれていました。鍼灸治療でもやるツボなどから出血させる治療法です。
 蛭は,他の吸血動物と比べると遙かに良心的です。それは,これだけ吸血に長けた動物でありながら,媒介する病原・病害虫生物の話を余り聞かないからです。 少なくともウェストナイル熱や日本脳炎,リケッチアなどの熱病を引き起こす蚊やダニのリスクに比べると,Webでもほとんど吸血されたことでなんか問題があるような話を見聞きません。



その,理由は,体の小さな吸血性昆虫や節足動物における吸血のメカニズムと病原生物の生活史にあると思います。蚊やノミ,ダニなどの吸血性節足動物は,体が小さいため,効率的に吸血から栄養を摂取するために「あること」をやっております。それは,「逆送」です。つまり,完全栄養液である血液であっても,その大部分は「水」です。だから,吸血してその中の血球や栄養分を取り込んだ後,余計な水分を宿主にお返ししてくれるわけです(余計なことすんな〜)。外にクチクラの外骨格があるダニでも,クチクラを硬クチクラから軟クチクラに変化させて一度の吸血で300倍ぐらい体積が増加するのですがいかんせん体が小さいので,おつりをホストに戻すということをやっているわけです。
 さらに,効率的な吸血したい彼らは,例えば,凝血が生じにくいようにするために,或いはミクロ的に組織を上手く破壊して吸血効率を上げるための酵素などを宿主に送り込みながら吸血する必要があります。ちなみに,抗原抗体反応による凝集は,吸血のために微細管を使う吸血性節足動物には非常に嫌なものだと思います。それは当たり前で,微細管詰まりは即ち,その個体の死を意味するわけですから。凝集反応をいかにして生じさせないか,或いは,凝集反応を起こしやすいホストをどうやって見抜いて避けるかと云うことに適応できていないはずはないと思います。

 話がちょっと逸れますが,奄美大島の名瀬市(市町村合併で奄美市に名前が変わりますが)に,伝説の「春日荘」という宿がありました。朝食だけトーストとインスタントコーヒーを出してくれるのですが,おじちゃん,おばちゃんが高齢化したため,私が止まるようになった頃は,既に食事なしの,基本的には素泊まりの宿でした。
 私の関係者の多くも,私自身も,非常にお世話になった宿でしたが,ただ一つ,問題がありました。おばちゃんがもの凄い猫好きで周辺の野良猫だか家猫だか,分かりませんが,もの凄い数の猫が出入りをしていたのでした。猫好きならユートピアみたいだって? フロントラインなど施せるような状況ではありませんでしたから,最期の3年間は,客布団の中も,壮絶なノミの量でした。それ以前は,大島紬を学びに来たインドの機織りの研究者の人が長期滞在するなど,ちょっと普通では出会えない方が常駐宿とされていたので,私も魅力を感じていたのです。それに,おじちゃんおばちゃんが相次いでなくなった最期の3年間を除けば,そこまで酷い状況にはなったことは流石にありませんでした。しかしながら,ノミにやられると潰瘍化して痒いまま痕が一年以上消えないような私は,とても酷い状態になった春日荘最期の3年間は,残念ながら宿泊を避けざるを得ませんでした。
 さて,ここからの話が言いたかったことなのですが,おじちゃん,おばちゃんは,驚くべきことにほとんどノミの存在を知りませんでした。よく分からないのですが,抗体値が上がりきっているヒトは,どうやって知るのか分かりませんが,ノミも凝集反応でトラブルことを恐れるのか,ほとんど吸血しないみたいなのです。これは,ノミの培養で使う実験動物のアナウサギなどを数ヶ月すると,ノミの「吸い」が悪くなるので交換せざるをえないという事実からの連鎖推理で確証はありませんが,結構当たっていると思います。
 西表島でも,地元の猟師崩れのホームレスのようなおじさん(実際,観光客の青年などからの寸借詐欺などで前科数十犯)が,よく安い清福というペットボトルの泡盛を飲んで,橋の上にひっくり返っていたのですが,ほとんど蚊に刺されていないのを見て感動した覚えがあります。これもきっと同じ理屈だと思うのです。私自身,毎日イリオモテヤマネコの撮影で,片足だけで80カ所以上刺されて1ヶ月,このおじさんのような状態になったのを自覚しました。市販の防虫スプレー? まぁ確かに当時よりは製品も進化しているかも知れませんが,獲物に飢えた島の蚊の凶暴さを知ったら,突進するサイをパチンコ玉で止めるようだと分かるものです。それに大群で襲われると必ず「アキレスのかかと」ではないのですが,薬が薄いか,かかっていない場所を攻撃されてしまうので同じなんです。ちなみに,米軍放出の殺虫スプレーと缶が同じに見える強力な防虫スプレーをカナダエスキモー(今はイヌイットと書くべきか)としばらく暮らした先輩が,効くからと教えてくださいましたが,二日目に皮膚がかぶれだしたので止めました。

 だから,これらの動物を介して感染する病原生物のほとんどは,彼らの唾液腺の中に巣くって生活史の一部を回して増殖し,宿主に水分や唾液などと一緒に送り込まれるのを待っているわけです。
 で,ヤマビルですが,逆送などという小賢しい技は使わない,吸うだけ吸って終わるという,誠に一本気な吸血動物なんですね。どうです,偉いでしょ?

 ヒルの場合は,こちらが吸われる前に気がついて発見するというゲームみたいな所があって,森から出たらチェック,宿に帰ったらチェックです。これは宿チェックで見つけたもので,畳の間に上げてしまいました。
 長靴やスキー用のストッキングを履いていれば,皮膚にたどり着いてアタックするまでの時間を稼げるので,発見するのに多少は有利です。屋久島では,サルは自分たちで除去できますが,シカはヒルの吸いたい放題です。従って,シカが採餌などで滞在時間が長い伐採跡地などは,ヒルの密度は高くなります。高くなりますって,簡単に書いてますが,それは実際にものすごいことになります。一瞬,座っても腰にとりついて,気がついたら下着の隙間から腰にとりついて,気がついたときには既にパンツが真っ赤染まっていたことがあります。
 でも,まぁ実害は大したことはなく,日本脳炎やウェスト・ナイル熱媒介の蚊に比べれば,はい,遙かに安全で,愛嬌があると思えるほどです。
 それに,本当にやばいヒルの真打ちは,別におります。これは,ハナビルという名前で,沢の水の中にいて,数ミリの大きさで,間違って誤飲してしまうと,咽頭に貼り付いて十センチ近くになろうかというショッカーな生き物です。こいつは体内に入れたら外科的に取り除くしかありません。下手な所に貼り付かれたら,気道をふさがれてオダブツです。私の後輩が,屋久島の調査中,ある場所で水をすくって飲もうとして危ういところで発見しました。目撃例の話も後にも先にもこの一例だけで,いつもびくびくすることはないと思いますがそれ以来掬った手の水をよく観察してから飲む癖が付きました。非常に稀な奴ですが,ヤマビルに比べると遙かに嫌な奴を知っておくことは大切だと思って書きました。

 ヤマビルはとりついたって痛みも感じませんし,傷口からどろどろと固まらない血が流れ出して吹くが汚れ,その痕がちょっと痛がゆくなる程度。ひたすら吸いまくるだけのとても一本気?で,ある意味全くリスキーではない吸血動物です。だからこそ,屋久島のフィールドをまだまだ,気楽に楽しむことが出来ます。
 それどころか,若き日の西表島の山中や屋久島での調査のベースキャンプなど,暇な時間を持て余すと,貴重な遊び相手でした。手かざしで,レースやらせたり,ライターでちょっと焼いてみたり,ははは。このあたりの話だけでも,マクロ生物系のフィールドワーカーって多分ちょっと違うのでしょうねぇ。友人などは,西表の山ん中,ヒルだけがお友達だったと笑って言っていました。
 彼らはショートレンジでは方向探知に,熱赤外線領域を使っているのでしょうけど,驚いたのは,宿主のいる場所のコッフェルで御飯を炊くとよく新聞紙で包んでひっくり返して蒸らしますが,それに向かって四方八方から尺を取りながら集まってくる姿でした。ちなみにロングレンジでは,ダニなどと同じで,多分,地面からの振動などを拾って,宿主にとりつく準備をしているのだと思います。

  とりついたヒルは,なかなか引っ張ってとるのは大変なので,防虫スプレーを掛ければ落ちると書いてあるサイトがありましたが,私が屋久島によく入っていた頃は,エアーサロンパスを愛用していました。一吹きで落ちますし,それに皮膚が弱い人が沢山かけるのにも余り抵抗がありませんでした。女性陣に教えると,悲鳴を上げながら執拗に落ちたヒル君にまでスプレーしまくって,容赦がなかったのが印象的でした。

 私自身,アメリカにウェスト・ナイル熱が入ってもの凄い勢いで広がった状況を見ても,危険と考えるべき動物や場所というのは,ヤマビルやそれが大量にいる屋久島のある場補に対して皆さんが感じられる感覚とかなりズレがあると感じています。
 現在厚生省の関係研究期間では,ウェスト・ナイル熱の問題で,全国の野鳥の主要な渡来地に対して,重大な関心を持っています。今のところ,アメリカを除くとロシア西部が日本に対して最も近い汚染地帯で,そちらからの渡り鳥の個体は日本へのコースを考えると,余り心配は無さそうですが,調査が進めばどのような渡来地のどのような渡り鳥が抗体(感染経験)を持っているか明らかになってくると思います。
まぁ,媒介者が蚊なので,冬場の渡り鳥については,余り心配しなくても良さそうですが,これに温暖化というファクターが関わると,今までとは違ったリスクが生じる可能性もあります。

 言い忘れましたが,シカにとりついたからと云っても移動能力は知れてますし,ね,ヤマビルなんて,無害で可愛い生き物でしょ?
Tracked from COMPLEX CAT at 2005-07-01 15:12
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Tracked from VILUE=詞人の生液=.. at 2006-07-18 12:00
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Commented by みかん。 at 2005-03-27 21:18 x
そうそう、思い出しました。小さい頃、伯母が肩こりのたびにヒルに血を吸わせていました。うちの伯母だけかと思っていましたが、違ったのね。
幼な心に「バイキンが入らないのかなぁ」と心配でしたが、良心的なのですね。なるほどねぇ。
伯母は、それを知っていたのかしら。
Commented by complex_cat at 2005-03-28 10:35
先人の経験から知恵ですね。みかんさん,ありがたいコメントです。私もインフルエンザのせいで,肩こりが酷くて,ヒルでも貼り付けたいくらい首がパンパンになっています。
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by complex_cat | 2005-03-27 11:48 | Wonderful Life | Trackback(3) | Comments(2)

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