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Working Wetland

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空前の渡来数で知られる「出水のツル」だが、主混群であるナベヅルとマナヅルの利用環境は、少しずつ減少している。いわゆる、谷津野環境と呼ばれているエリアなどで、ポツポツ利用数が減少している。渡来数増減には寄与しないのが、ここの100tを超える給餌とウォーターハザードを人工的に作って、要するに湛水水田を塒資源として整備している効果は大きいと思われる。





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 耕地整備により、どういう変化があるかというと、乾田化するということだ。乾田化するとそれまで利用していた餌生物が減少してどうも使いにくくなるようだが、これ自体検証されていない。耕地整備は圃場単位が大きくなるので棚田構造の段差が大きくなって視界が制限を受けやすくなるというのもあるが、おそらく利用現象は乾田化がきいていると思われる。ただ、乾田化する理由については、最初はよくわからなかった。耕地整理後、水利が変わる水田が多い。水稲の生育、刈取りが終わると、送水管などで水を絞る事ができるのだ。水田で使える水量は、面積あたりで決まっているらしく、それ自体は結構余裕が有るので、水代をケチる必要はない。ただ、構造的にローテクで引水(”用水路に堰板を入れるなどして水位を上げ、樋を開けて自然流入により田へ水を流し込む。その後は堰板を樋に入れ、田と水路を分断”, Wikipedia「用水路より」 )できるところ以外は、ポンプを回すことになる(動力引水)。そのポンプの電気代はかかるので、常に水を導水するようなことはなくなる。実際は堰板とポンプの組み合わせが必要な低水面水路も特に珍しくも無い。

 かつての里地と違って、電気駆動のポンプを利用できる今の時代は、凝った細部にめぐる水の流れを圃場周辺に張り巡らせる必要はないし、水が豊富な谷津野奥から連なる形で連続的な水田を作る必要はなく、水路の構築の仕方も変わってきているわけだ。
 では、耕地整備前にツル類の利用が有った領域は、ポンプ無しで水利を組み立てていたということになるが、それで正解なのか、と考えて、この視点も、もう少し整理が必要かなと感じた。かつては乾田化しているように見えなかった領域があるのだが、個別に利用減少した圃場毎に現地で確認する必要がある。他に、かつてより餌が豊富だった時代より、圃場に住宅地が入り込み減少が加速し、住み着いた人々が犬の散歩を始めると、その領域での利用は減少しやすいとは思う。単純に、その場所の撹乱源増加だけで説明すると読み解けなくなる罠に陥るとは思うが。

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 いずれにしろ、ローテクで水回しができていない地域は、電気とポンプがなければ水田を基本とする半湿地環境は構築できないので、その点は、ちょっと注意が必要かと思った。半湿地環境の終焉みたいな場所は、放棄水田の陸化した場所を見ると感じるが、ローテクにしろ動力にしろ、人の管理がないと、どちらにしても半人工的湿地環境は維持できないのかなと思う。ハビタットの存続は、社会、経済的な要因により、特に里地の様な場所では影響を受けやすいなんて誰でも想像はつくが、ポンプの電気代みたいなことは考えもしなかった。
 場所によっては、電気で生態系を維持みたいな領域もあるかもしれない。二番穂が維持されているような場所では、保全生態管理視点において、農家の管理コストみたいなものは当然考えていく必要がある。
 農業のシビアさは年々強くなっていっており、最近は、「ツルに食わせる」というような感じで残渣として放置されていた二番穂も、それ専用の刈り取り機で収穫したりする動きもある。当然、収穫を目的とした場合、二番穂をマトモなものにするには追肥の必要があるから、残渣ではなく歴とした農業生産物である。

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 ここは、既に故人になられた保護管理のキーマンであった方が、私に「マナヅルって相当な魚食い」だと教えてくれた場所で、水路に水と一緒に鯉を流下させてナベヅルの横でマナヅルが瞬く間に食べつくすのを見ることができたわけだが、今でも、早期米収穫残渣と二番穂放置で、ツルにとってはそこそこの餌がある。ちなみに前者は後者より、実は依存度は高かったりする場合もある。刈取り放棄後の二番穂は、米の充実度が違いすぎる。

 餌生物の多様性については、長年に渡り1万羽を越えるツル群集を置いたことで、その採餌圧で相当減少しているとは思う。通常は、鳥などは資源量の多寡と個体数においては、理想自由分布に近いものが想定されるが、長年にわたって給餌や塒資源管理を行った場合、餌が減少してそこを離れるという流れを止めるわけなので、減少していく餌生物相には下げ止まりがなくなる。まあ、今の農業にとって圃場の生物多様性というのは、位置づけが難しいが、巨大な水循環、蒸散機構として機能する水田の水資源管理や抗ヒートアイランド化に加え、生物多様性を抱えることに依る生態系サービス維持というのは、食料生産局面とは別に、日本で農業を存続させる別の理由にもなっているから、すべての地域で、食物工場的視点のみで農地の意味を割り切るのは、日本での農業の価値下げをあえてするようなもので、「農業といってもGDPも僅かで、そんなもん、安価なものを海外から輸入したらよろし」みたいな、よく見るドヤ意見を補強するだけで、あんまりよい筋ではないと思っている。

 干拓地の土地改良は順調に進み、今から二十年ほど前は主要なツルの餌生物リストにあって、かなり繁茂していたコウキヤガラやクログワイといった塩湿地性の水田雑草扱いの植物も姿を消した。いつまでどのようになにが維持されるのか、農地に野生生物を生息させて保全させていくことの特異性と微妙さを感じる日々である。

 ちなみに、アメリカのような野生生物をたくさん抱え、カリフォルニア米の巨大水田を抱える農業国でこの視点がないはずもなく、である。最近は一部生態系維持機能を考慮し、水田に米の生産、ザリガニ(当該酒については移入種ではないし貴重な出荷品)の養殖、水鳥の生息場所の提供などの機能を持たせた水田を'Working Wetland'と呼ぶ取組がなされていて、この辺に概略資料がある。

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 因みに都市部にも広く水田が広がっているおかげでかなりの場所に利用が見られるが、いわゆる分散地と言われる場所での利用は減少している。渡来数、いわゆるここで保全していく個体数が減少する状況でないのが、ここ出水の面白さではあるというのが、外野的な意見。

 ロシアの研究者クルーが入れ替わり立ち代り見にきて、良い意味でも悪い意味でも驚嘆して帰った。分野のロシアン美女で有名な知人が曰く、「こんな'Crane farm'になっているとはまさか考えもしなかった。」と。なお、'Crane farm'というのは、休遊地内の餌に大群が付いているニワトリみたいな状況を指していった言葉で、自然採餌状態の大群を指して言った言葉ではないので念のため。

 新幹線架橋横で、大群を見かける場所だが、新幹線は撹乱源にならないと考えてはいけない。架橋沿線から距離をとって、順に距離を詰めて採餌できるまでの馴化の余裕がある地域だから、最終的に餌が枯渇する時期に、越冬後半まで採餌頻度が少なかった場所に、現時点で集まっているということである。特定の時間断面で見ると危険だと思う。
 その空間距離が取れなかった領域では、押しなべて利用は消滅している。新幹線架橋は、現時点で騒音振動をかなり抑えるようになっているので、多少距離が取れると減衰効果がかなり働くのと、新幹線通過頻度が、まあ、それほど高くないのと、通過がまさに滑るように短時間であるので、実害がないという情報を確認して、馴れる余裕が一シーズン中にあるということだと思う。

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by complex_cat | 2016-01-16 22:49 | Wonderful Life | Trackback | Comments(0)

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