「姉様」のために素うどんのような、レストアされた無印ママチャリを手に入れる。別のロードの店主に伺ったら、中身はブリジストンの名車との誉れ高いモデルらしい。
実はママチャリらしいママチャリに、生まれて始めて乗ったと言える。今まで乗る機会がなかったのだ。それで、かなり驚いた。すごく乗りやすいチャリに仕上がっている。U字フレームなのに、そこは大手だったところのノウハウは決して小さくないのだろう、シングルギヤのよさもあって、漕ぎだすとロス無くすっと進む感じ。フレームは軽くはないが、超ヘビーでもなくその上、シングルパイプが伸びただけの形状なのに、決して剛性感は低くない。なんじゃこりゃって思いながら笑ってしまうぐらい驚いた。
実際、自転車の軽量化と剛性確保については、物理的な制限の中で様々なことが試されてきた歴史があるわけで、万能ともいえるフレームは簡単な話ではない一方で、今の生活車の回答として、この製品の重みは決して軽くないだろう。ラゲッジや後部シート車載を考えると、チェーンケースはむしろあった方が良いなと思う。チェーンケースはその分重くなるけど、衣服への汚れリスクを気にせずに済む他、クロスバイクやMTBをそれなりの値段がするルーフやラゲッジドアのステーじゃなくて車内に持ち込む時には、新聞紙やボロ布を当ててみたいなことをせざるを得ないのだが、その必要がないありがたい装備だと言わざるをえない。
ハイブリッドだ、MTBだ、シクロクロスだ、スタッガードクロス改のママチャリだって組んで乗って遊んできたわけだが、日本のメーカー品のちゃんと作られたママチャリのフレームのポテンシャルを改めて感じた。レストアされた方は、長年、某大学のサイクリング部のサポートを一挙にされてこられた方で、数年前、大学周辺に通販とリンクした量販店が入ってきて深刻な影響を受けたため、移転を余儀なくされたとのこと。「電話番号気に入っていたんだけどなぁ。引っ越し距離が大きすぎて替えざるを得なかった。1年過ぎて転送ももう来ないしねぇ。」って仰っているので、長年の顧客とのリンクも不安らしい。
高額ロードも扱われるが、市民やお金のない学生の足のため手を動かしてこられた技術と経験を持った方で、この無印のチャリもBB周辺など、いじっているらしいと別のロードのお店の店主の見立て。そんなのはユーザーにことらさら自慢もせず、さり気なく済ませてしまう職人の技。下手なルック車購入よりも完成度の高いママチャリが圧倒的に良いというのは、どの自転車店でも言われたが、こんなのと比べたらなおさらだろう。ルック車は、近場のホームセンターでは急激に販売が縮小された。深刻なトラブルからの訴訟ややアフターケアコストがかかりすぎて、自転車部門が中途半端ではどちらにしても良い販売コンテンツではないという判断がなされたのだろうか。
さて、ベースのチャリにも店主にもすっかり惚れ込んでしまった結果、私のネットからの部品や情報のつまみ食いみたいなレベルでいじっては失礼と思い、姉様仕様のチャリについては、このベース車を選んだ時点で、①フロントホイールの取り外し、②内装変速装置のインストール、③最低限の軽量化、④防犯登録のみを伝えて、全部お願いすることにした。私がフォローできない県外遠方でも使われることもあって、その方が安全だろう。
身体的ハンディや老化により筋力に余裕がなくなった時にも、自転車は乗れたほうが良いか・・・どうかわからないが、安全に乗れているうちは人間大丈夫かなと思ったりする。私の父は、私の少年期、黎明記の内装3速をかっ飛ばして通勤していた。その父も、自転車を降りバイク、自動車と切り替えていき、筋力は落ち、今は高齢者、モーターアシストは違和感が大きく、電動カートは手に入れたが、乗る気になれない。やはり乗れる自転車がほしいと言い出した。
いろいろ自分の自転車趣味でお世話になっている方々に相談して、私はこの自転車を送った。22インチ、一見子供用自転車に見えるフォルムだが、とても良く出来ているというプロの評価だった。足つき性がよいU字フレームだが、重さはキャリアフル装着したランドナーレベルの16kg台。そういうのは、丸石もたしか出していた気がする。
何でも食わず嫌いはイカンという主義だったが、ママちゃり、奥が深い。余裕があったら、姉様仕様は、スタッガードフレームバイクベースで安易に解決する方向に行かず、結果的に、ママチャリベースで解決する方向になった。それとは別に内装5段を研究用に入れて、シティサイクルベースでなにか組んでみようかと思った。自分が年老いた時、将来どんなチャリンコに乗っているか、ちょっと想像しながら。自転車は、ママチャリより入りママチャリにいでる(世阿弥・・・・ウソ。
マスターに伺うとShimanoの現行の内装5段は、あまり出来が良くないというか、普段使いでいまいちという話。モーターアシストとの相性もあり、結果的に内装3段だらけという状況。
数十万円を超える高額自転車が、そこかしこで売れている世の中だが、自転車では国産メーカーは、苦戦している。有名メーカーと言えば、Giant、Merida等のTaiwanのカンパニーのフレーム成形技術は世界一だし、カーボン製軽技術を持たないけれど、UCIの方針も有って多様性が維持されているEUの老舗、あるいはアメリカのメーカーがほとんどである。BridgestoneのANCHORブランド以外は、Panasonicも丸石も、高額スポーツモデルを供給できるような状況ではなく、上限でも10万円台、製品ラインアップのほとんどが、モーターアシストやベルトドライブなどで定評のある製品を含む、軽快車=シティサイクルのバリエーションである。エントリーモデルは、中国メーカーなどの低価格製品と競合することになって、クオリティの高さをアピールするも。更にネット販売により廉価なモデルが出まわる状況では、簡単ではない。
ホールディングバイクも海外勢の高級車に混じって、ベンチャーで、注目すべきものも多い。大きな規模のカンパニーではなく、海外同様、そういったところで質とユーザーユースにあふれたアイデアが熟成されていくのが、自転車文化としては正道というのが私の印象。
国内メーカーのこういった劣勢とも言える状況は、部品メーカーであっても、Shimanoの圧倒的な成功が維持されている状況が不思議に見えるほど。家電品等国内の多種多様なメーカープロダクツが台湾、中国にやられまくった状況がウソであるかのように、Shimanoは帝国を築き上げることができている。独禁法で不利にならぬよう、カンパニョーロなどへはかなり支援している一方で、コピーの亜流に駆逐されない成功モデルとして割りと希有な状況かもしれない。金属加工やスプリング、ジョイント、ベアリングなど見かけローテクに見える自転車パーツ部品だが、先端の工作精度と製造管理技術が必要な分野で、先を読んだ開発能力を持ちえて初めて先頭を走ることができる。これはスポーツレースを組み込んだ市場、文化からのフィードバックが大きいかもしれない。今のシフター(変速装置)は電動で軽量、省スペース、そのままプールに飛びこんでも作動するほどのものが出来上がって久しい。その製品の恩恵をうけられるものは、高額自転車購入層だが、フェラーリやポルシェが存在する世界と違って、何も付いていない国産自動車のエントリモデルを購入するより、平均的に遥かに低い費用で、帝王の玉座も手に入れようと思えば可能であるというところが味噌かもしれない。そして、Shimanoの場合、低額パーツでも、それなりのクオリティ以上の恩恵にユーザーが預かれるという状況は見事としか言いようが無い。
なんとなくShimanoという日本メーカーについては、メディアで余り取り上げられていないような気がする。開発能力、生産における質の管理、高額〜廉価製品に至るまでの圧倒的なコストパフォーマンスを見ると、昔日の、日本メーカーの強さを保ったままというのが、昨今の家電メーカーの衰退など見ていると、ある意味奇跡に見えるが、方向性と自己の存在価値を見失わないことは意思決定の早さとも密接で、企業の力においては重要な気がする。
ママチャリで思ったが、自転車を取り巻く世界は、高額、高性能バイクを至上とするような単層では語っては、いろいろ抜け落ちる。
雨の中でも、ゴアテ着て、なるべくチャリンコで買い物も用事もすべて済ませるようになった。件のマイスターは私の素人っぽい組み立てのシクロクロスをしげしげと眺め「いいなディスクブレーキか。自分のロード、ホイールカーボンにしてる乗ってるが、雨の日は普通のリムよりもっと効きが悪くなってな。」と一言。 「安心感はありますね。」シクロクロスフレームにディクスブレーキと38cのブロックタイヤ。雨の日の買い物には最強かどうか分からんが買い物とお使いに使っている。ホイールどこのOEMか分からないが一応、中古で見つけてきたCOLNAGOにしたら、より転がり抵抗がなくなった。スプロケットとチェーンとクランクとディレーラー、コンポなんてもんじゃ無くてバラバラの寄せ集めだが、ようやくアタリが出て2ヶ月ぶりに快調。欠損していたディレーラーアジャスターをフロントにもつけたので、調整も楽になった。晴天の日のとっておきのツーリングにというカテゴリが私の飼ってるチャリンコの群には存在しない。
標高差400m程度の峠を越える往復、豪雨の中、5分間の高速ダウンヒルで、ディスクブレーキのありがたさを痛感したが、ロックギリギリのシビアな前後のブレーキコントロールをやっていると、鍛えまくってるアスリートではない人間にはドロップハンドルでも、ワイヤーじゃなくて「油圧の方の」ディスクブレーキが欲しいなと思えてきた。