クラシックカメラを、同じフィルムカメラである写ルンですと同じような感覚で使って、細かい露出やフォーカシングなどをすっ飛ばして使う方法を考えてみる。
何でそんなことを考えたかという部分については省略させてもらうが、逆に写ルンですが、なにゆえ、シャッター速度も絞りもなく、AFどころか、ピントリングもないカメラでそれなりに写っているかということを考えて、それを、デジカメを使ってシミュレーションすると、結構面白いことになることが分かる。
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| 内蔵(フラッシュ到達距離:1m~3m) パイロットランプ付きスライド式フラッシュスイッチ |
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レンズの焦点距離は広角の入り口35mmよりもやや広く、そして明らかな広角表現レンズの28mmよりも狭い、32mmと絶妙。そして、f値は暗いf10固定、絞りもないが、その結果、余り高速でも低速でもない1/140sec.固定シャッター速度一択。実はこれは、デジカメでシミュレーションしてみたら、これはこれで、かなり絶妙なシャッター速度だということがわかった。実際には露光はオーバーになったりアンダーになったりしてしまうのだが、ネガカラーフィルムは、映っているかどうかというレベルでは相当粘り腰が効いて、プリントで焼くときの修正も含めかなりラチュードが広いわけで、それを利用しているわけだ。
撮影距離は1m~無限遠ということになっているが、これはf10のレンズの明るさから想定すると、被写界深度で稼ぐ仕様ということになっていて、いわゆるパンフォーカスレンズであるが、おそらくフォーカス距離は約2mあたりに調整されていると考えられる。
フィルムのラチュードの広さで、露光を変えられない弱点をカバーし、被写界深度でフォーカス距離を変えられない部分をカバーする、極めて潔い仕様になっているが、先にも書いたとおり、この1/140sec.というシャッター速度とf10の明るさを持つレンズの組み合わせが絶妙な「結構映ってるじゃん。」的なヒット率を生むように設計されている。どれも誰が見ても分かるピンぼけで露光オーバー、露光アンダーな写真ばかり量産しては売れないから、開発には、相当なバックデータを取ったものと考えられるけど、まあ、そんなのは当たり前の話。
で、1枚目の絵に示したデジカメによる写ルンですシミュレーションをまずやってみる。
32mmというレンズにもっとも近い焦点距離のものでは、
Pentacon 30mm f3.5というレンズを持ってはいたが、引っ張り出すのが面倒だったので、手元にあるαNEX-5に
Schneider-Kreuznach Curtagon 1:2.8/35mmを装着して絞りf10、シャッター速度1/160sec.に固定して撮影してみる。ここで、写ルンですの1/140sec.という固定シャッター速度にしたいところだが、残念なことにαNEXのシャッター速度の系列の中には1/125sec.の次は1/140sec.は無くて、1/160sec.。デジカメは明るい側へのラチュードは広くないので、保険として露光アンダー側に振ることにしたわけだ。
さて、ここまで読まれて、APSサイズデシでは、画角は狭くなることの矛盾を感じられたかたもおられると思う。ネガプリント出力にすると、かなり領域狭くなるので、それを前提にしたかなりざっくりした話である。被写界深度シミュレーションを優先したとお考えいただきたい。
フォーカスについては、2mに固定というのもちょっとやってみたが、せっかくちゃんとピントを攻める機構がついているレンズを使って固定焦点撮影というのは、やはりいくらなんでももったいないので、写ルンですよりももう一段階手順が多い、フィルムカメラ時代のとてもかんたんな
ゾーンフォーカスの距離シンボルを使った古のフィルムカメラ的に使ってみて上がりを見ることにした。
ゾーンフォーカスと言うのは、ピントを3〜4段階に設定する方法で、被写界深度を活かしてピント面を追い詰めないような簡易なフィルムカメラに使われていた機構である。
参考画像:PARAMATの文字の下に∞と人間3人、バストアップの3つのゾーンマークが見える。 多くが、フォーカス調整を「バストアップの人物撮影」1.2m〜「1、2人の人物撮影」2m〜「3人以上人物習合撮影」5m〜「風景」∞(無限大)というようなシンボルで合わせる方法で、合目的的なフォーカス調節を行うように設定されていた。
つまり写ルンですに準じる形で固定F値と固定シャッターでAFを使わずにゾーンフォーカス的に写したいものを目測で合わせるみたいなので、どの程度の画が撮れるかというのを逆にやってみたわけだ。
ピッタシの焦点距離(32mm)レンズがないことと、デジカメの仕様でピッタシのシャッター速度(1/140sec.)がないことから、補足として
SIGMA AF 28mm f1.8をαNEX6に嵌めて、f値はf10付近(絞りの段階は、露光の系列としてはf8の次はf11になっている)、シャッター速度は1/125sec.に固定同様にフォーカスをマニュアルで4点位置で行い、参考例として撮影してみた。実は、こっちもSchneider様のCurtagon28mmにしようと思ったのだが、アダプターが一個しか無いので、面倒になってαボディ用サードパーティレンズを使ったと云うだけの話。
絞りと被写界深度についての関係は、最近はコンデジやAF専用の一眼レフレンズにはまともな距離環目盛りや被写界深度のマークさえ印刷されていないけれど、これらのレンズは、片方はクラシックレンズでもう片方はフィルム時代の古いAFレンズということもあって、ちゃんとついている。とくにRetina用の交換レンズであるデッケルマウントCurtagonには絞りを変えると被写界深度のレンジを示す赤いマークが広くなったり狭くなったりするという凝ったギミックが付いている。
Sony αNEX-5, Schneider-Kreuznach Curtagon 1:2.8/35mm
さて撮影結果だが、ISO400そのまま、露出は写ルンですに近いところでf10、1/160sec.、焦点距離35mmで、被写体は倉庫を建てたおかげで周辺もスッキリした公陳丸のお墓。ゾーンマーク式で言えばバストアップの画だが、実際は距離環のメモリ1.2mで。まあ、目測はしなければならないけれど。輝度差大きくて、奥の植物の生えている部分は黒く落ちているが、それなりに色々なものが適正の範囲の露出で写っている。画像データいじらずにjpegで吐き出させたそのまま。ちょっくらアンダーだが、raw「現像」追い込めばなんとかなる。絞り込んでいるから丸石の描写が明確で、こういうのはAF(オートフォーカス)やAE(自動露出)が使えるカメラを使っている人も、実際には何処にフォーカスを合せたら良いのか、よく理解できなかったりするのじゃないだろうか。パンフォーカスって割り切って使えば、写したいものは奥のヤブの中でない限り十分な画になっている。主体以外をぼかしてみたいなのとは対極の描写だが、近距離でこれくらいの範囲でフォーカスが合うf10はそれはそれで便利。
Sony αNEX-6, SIGMA AF 28mm f1.8
ISO400そのまま、露出は写ルンですに近いところでf10、1/125sc.、焦点距離35mm上の画像よりちょっと広い部分が写っている。清めの塩のピラミッドが白飛びしているのでもう少しシャッター速度速い方が良い。そう、写ルンですの1/140sec.なら、白飛びギリギリせずに写ってたかもって思った。
Sony αNEX-5, Schneider-Kreuznach Curtagon 1:2.8/35mm
同じようにゾーンは3mで撮影。下のものより空が青くないが、これは時間差による雲間からの光の条件による。写っている。なんとなく写ルンですで撮りましたって言っても信じそうな(無理か)。
Sony αNEX-6, SIGMA AF 28mm f1.8
やっていることは絞りをf10あたりにして、シャッター速度1/125sec.のまま、いじらずに、距離環を3m辺りに合わせ、フレーミングしてシャッターを押すというだけ。 今回は小賢しく、フォーカスを移動させて写ルンですよりも自由度を上げたのだが、写ルンですのレンズより被写界深度のより広い焦点距離の広角レンズなら(<32mmという意味)、最初から2mのところに固定したまま、シャッター、絞り、焦点距離完全固定で写ルンですそのものにして、そこら辺のもの撮りまくればいいかなと思う。ほとんどデジタル「写ルンです」シミュレーションが出来るはずだ。 アンダー、オーバー(レタッチすれば画面上の何かは大抵露光の適正領域にあるはず)、ピンぼけ、量産するかもしれないが、でも結構写ってると思う。
Sony αNEX-5, Schneider-Kreuznach Curtagon 1:2.8/35mm
Sony αNEX-6, SIGMA AF 28mm f1.8 プラスティックベンチが白飛び出し、黄色のパネルも同様だが、これも小春日和の雰囲気を伝える全て作戦通りの表現だ、みたいなの。写ルンですの画角やシャッター速度による露光が、実際には、この両者のシミュレーション撮影の間に写ルンですの仕様による画が存在するということで想像いただきたい。
Sony αNEX-5, Schneider-Kreuznach Curtagon 1:2.8/35mm
シェルターの中は暗いし、向こう側は明るい。自転車のディテールは出したいし、ちょっと曇ってきたぞ。
スポット測光の凝った一眼レフを持っていても露光に悩むところがだが、でも、皆さん安心して下さい。写ルンですが提案する露出はISO400で、絞りはf10、シャッター速度は1/140sec.ですみたいな迷いのないバットで振り回すとクリーンヒットだ。もうちょっと暗部を出すためにデジタルデータをレタッチしたいなら最適解ではないけど、ニンゲン時間もないので、割り切りが必要だ。
Sony αNEX-5, Schneider-Kreuznach Curtagon 1:2.8/35mm
単管チューブで作りかけの倉庫のフレームと、たわわに実った金柑の樹。本当にちっぽけな大きさのクラレンズの写りと味。文句ない。 写ルンですモードで撮った場合、シャッター速度は、広角レンズ向きに手ブレをまあおこなさない絶妙な1/140sec.だが、そんなに速いシャッター速ではないから速く動いているものは被写体ブレを起こすだろうけど、それも味だろうしその偶然が面白いのだみたいな扱いとして楽しむものだろうし、そもそもこういうことを気にしないで撮影して盛り上げるみたいな使い方も自在だ。
追記ー室内で写ルンですでストロボ使う場合についても書いたよ。
追記2ーフルサイズデジイチが手元に来たので、画角も完全に一致した続編、デジカメをもっと写ルンですにしますマンも書いたよ。
さて、そこから先、クラシックなフィルムカメラなどを写ルンです的に割り切って使ってみようと思ってもハードルが高そうに感じられる人向けに、ならば、なんとかなりそうなポイントと感について、多少助けにならないかなと思って、ここまで書いてきたけれど、次に、露出の話を少々。
デジカメをシンプルな写ルンですモードで使ってみると、行ける、結構行けるぞ、みたいな感覚で、実際に写るんですが、あのシンプルさでありながら、シャッターを押してプリントを手にすれば、結構光景を捉えている状況が改めて理解できた気がする。
もうちょっと露出の感を持つことが出来たら、もっと色々なものが撮影できるんじゃないかなというのが、かつてはカメラを始めた人間のその先のステージだった。フィルムカメラに原始的なセレン式の内蔵露出計が搭載されるよりももっともっと昔、露出計は超高額で、露出というのは、写真教室などに通って先生から学んだりするような代物だった時代がある。
EV(Exposure Value; EV値=露出の明るさ)をAV(aperture value; 絞り値)、TV(time value; シャッター速度)との組み合わせ含め数値としてパラメーター化される前の露出術のディスクリプションをつなぐものとして、古典的な
関式露出計 セノガイドC(株式会社 関研究所発売)はとても興味深い存在だ。リンク先を見ていただくと、関式露出計についての殆どの情報が網羅されている。凄くありがたいサイト。
関式露出計は、電池もいらない露出計的計算尺みたいなツールだが、多様な撮影条件が、シンボライズされたりして、露光におけるEV、AV、TV、ISOの関係が分かる。写真「術」履修の必須アイテム。
回転式計算尺は、pdfをラミネートして自分でも自作できるようだが、便利なのはウェブ上のバーチャルな
バーチャルセノガイドC。iPhoneアプリでも有ったようだが、今のOSで動くものはないようだ。
①快晴、晴れ、曇、雨、豪雨のアイコンに位置にフィルム感度を合わせる。
②小窓にシーズン、時間帯を合わせる。
③絞り、シャッター速度の組み合わせを選ぶ。
こうすると、ISO400のフィルムの入った写ルンですは、今の時期、晴天なら、F10, 1/140sec.は、ISO100だとちょうどいいけれど、実際には、二段ほど露光オーバーで撮影される。それでも、ネガフィルムだと、真っ白い輝度の高い部分が一面を占めるような作画でない限り、フィルムのラチュードでなんとかなる。上の結果で見たとおり、ネガは露光オーバーには割と強い。室内だと、ISO100フィルムでは露光不足になるが、ISO400だと割りと良かったりするという判断も、写ルンですの仕様の背景にはあると思う。考えたら写ルンですはストロボ内蔵であった。到達距離3mとしてあるから、若干光量不足としてもガイドナンバーは10〜12ぐらいのスペックだろうか。
何れにせよ、ネガフィルムのラチュードでなんとかしてしまうという部分では、どちらのフィルムが入っていても余り変わらない。露光計は、画面全体の輝度の分布、面積により何処に合わせるかというのは、結果的に複雑な話になるが、今のカメラは高度なものから原始的なものなど色々あるが、いわゆる評価測光に成っていて、輝度の分布状況から、撮影しようとしている画の構成や構造を判断してそれに適正な露出を合わせる仕様になっている。
フィルムカメラ時代には、同心円状の中央重点測光や、スポット測光などがカメラ内蔵型の露光計が基本で、NIKON FAで評価測光が登場する前のフィルム一眼カメラ時代では、その特性を知った上で、露出を読んでいた。評価測光前の自動露出は、中央重点測光で行われていたため、補正をすることは露光の使いこなしの前提だが、ピッタシに合わせられない場合もあって、プロやハイアマチュアでない限り、大抵のアマチュアユーザーは、フィルムのラチュードでなんとかしてもらったプリントを手に入れていた歴史がある。
その遺産の一部分みたいなのが写ルンですに生きているわけだが、今回、デジカメシミュレーションでも、設定ができるのであれば、32mm以上の広角レンズにより、ISO400として、AV=f10、TV=1/140sec.でなんにも考えずにフィルム、デジタル気にせずにパシパシ撮ってみてその結果を楽しむっていうのも、結構面白いなと思った。
一眼レフによるフォーカシングではなく、レンジファインダーが意外と合わせられないとか言う人も結構おられるし、機械シャッター機を手にして、何から学べば良いのかと思ったりする人たちにとっては、写ルンですを学ぶことは一筋の光明なんじゃないかなと思ったほど。
ちなみにブローニー中判フィルム以上の大きなものを使うカメラになると、レンズ焦点距離は、標準レンズでも80〜90mm、大判に至っては135mmと昔日の入門用135フィルムカメラ用望遠レンズレベルまで焦点距離が伸びるので、距離合わせは、絞りに合わせた被写界深度によりパンフォーカスでっていうのは、馬鹿でかい広角レンズを使ってもかなり難しくなる。
追記1―このエントリの趣旨を理解された方がちらほら反応いただきとてもありがたいです。最後の関式露出計の話は、写ルンですのEV設定が、どんな状態を想定しているのか読み解くのに逆にわかりやすいかなと思って書きました。まあ、そういうことです。
追記2ーてつるさんから、AS light meterを教えてもらって検索したら、スマホで使える単体露出計アプリって、こんなに出ていたんだと、あとで知った。ここ(
無料で使える露出計アプリを5種類試してみた。)の記事などが参考になる。
追記ーこの記事、定常的に読まれて久しい。ありがたいことです。