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義父が見ていた風景


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 強靭な足を持つ少年は、深い森の中を抜ける峠道を毎日登校していた。夜になれば人工光源など殆ど無い当時の奄美の峠道は、このようなバスの通っていた未舗装の廃道に近い林道などよりもはるか以前のもので、それを見ても全く想像もできぬほど、密林(徹底した薪炭林利用と枕木産出で伐採はかなりのレベルで徹底して受けていたので、萠芽再生林が基本なので、こう書くとちょっと語弊がある)の中をたどるような道だったと思う。


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 柳田国男が書き残した『三太郎峠』の空中茶園跡周辺。島外同郷の農業指導員だったは畑中三太郎氏を麓の唯一の商店を経営する一方で、物資などで支えたのが義父の父上だった。何年か前に「(三太郎峠)跡が残っているなら写真を撮ってきてくれ。」と義父に頼まれて適当に撮って回った画像の一つ。
 数枚の画像を見て、目を細める義父に「何か、懐かしい場所が写ってます?」と尋ねたところ「どこがどこやら、さっぱり分からんっ。」とキッパリ言われた。

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 そちらのフィールドワークはご無沙汰しているが、十年異常潜った奄美の沢や森林。一番撮り溜めた画像が多いかもしれない。

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 木本性シダ類や、着生のもの、すべてフォトジェニックだった。

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 オオタニワタリ・シマオオタニワタリのでかいのを見つけると、胞子嚢の長さを見たり、ちょっと嬉しい気分になった。

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 猫月でも数学屋だった義父が、私ほど生き物に魅入られていたかどうか分からない。イシカワガエルに狂喜するなんてことはなかったろうけれど、むしろ日常の風景として目にしていただろう。
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ハナサキガエルは、イシカワガエルよりもよく観たが、それでも遭遇するとやっぱり嬉しかった。義父には私にとってのトノサマガエルよりも見慣れたカエルであったろう。

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 沢を揺蕩う樹木の根っこなど、年中水温の高い沢でないと見られないような風景も日常だったろう。

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 信じられないようなバイオマスを想起させる川面に張り巡らされる蜘蛛の巣の天井も。

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観光整備される前のマングローブも上の方から眺めていただろう。




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 本日、義父の体は、生まれる前の状態のまま大気に戻されていった。

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本土に移った後も、温かいところが性に合っていたのだろう。最期に一緒に走った風景。

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 冬でも霜の降りぬ地域の港風景も義父にとっては日常であったろう。

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 書けることはあまりない。死を迎える一方で、新たな人生が生まれてるっていうことを実感するのは、まだ幸せなのかもしれない。
 この日本では、今後、特に辺境の地方都市では、当たり前の世界とは言えなくなるかもしれない。それでも希望を繋いでいくのは上の仕事、なんてのも、なにそれ?っていうような世界が侵食してきている。1970年代にしらけ世代とか言ってられたのは、まだまだ持てる者共の逆張り。


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 長男が斎場でテキパキ動きながら、一方で小さな従姉妹の面倒を見てくれたり、まあ、なんというかすっかりスーツが様になる大人になってしまったことを再確認する。

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 もったいなくてしまいこんでいた琉球紅型の宗家より頂いたハンカチをワイフが使ってくれていた。でも、涙を拭くのにはティッシュで間に合わせて全く使っていなかった。
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病院や実家を何度も往復したので、次男が末っ子とタッグを組んで、ご飯を全部作って食べていてくれた。このハンバーグも私がいつも見せているように、焼いて出た油にトマトケチャップとウスターソースを混ぜて煮詰めたソースがかかっているし、火の入り方を確認するために一個真っ二つにしているのが分かる。パンも包丁でざっくり刻んで入っている。控えめながら千切りキャベツもスライサーで作ってる。
 右はミートソースの作り置きを卵焼きにでもかけたらと言伝えておいたら、スクランブルエッグと混ぜるという末っ子のアイデアを試したものらしい。そう、決まったものではなくて、自分が作りたいものを思いつきで作る方が楽しく料理できるって、私が教えたとおり。「美味かった。」って二人で記念撮影してくれてた。

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 「終わったよ、チコ」って言うと、そうなんだろうね、という感じで、そばに横になった。



Commented by umi_bari at 2017-02-28 08:23
義父様のご冥福をお祈りいたします。
義父様が見ていた、奄美の自然を
いっぱい有り難うございます、貴重な
記録がいっぱいあるのでしょうね。
Commented by complex_cat at 2017-03-01 06:38
アラックさん、
こうやって並べてみると、ちょっと良いなと思いました。
ありがとうございます。

Commented by bibourokutosite at 2017-04-03 20:55
お義父様、残念でしたね。
ご冥福をお祈りいたします。
義理の息子さんにこんな風に偲んでいただけるお義父様、きっと素直で素敵なかただったのでしょうね。それと同時にcomplex_catさんも思いやり深い、お気持ちを素直に表せるかたなのだろうと父と夫そして私との関係を反省しながら思い出しています。

Commented by complex_cat at 2017-04-04 20:59
> bibourokutositeさん
もうすぐ49日で、早いものです。この日付の体感の速さは、私自身の年齢もあるのだろうなと思います。
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by complex_cat | 2017-02-27 21:39 | My Shot Life | Trackback | Comments(4)

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