かつて、高額レンズばかり目立つカールツアイスレンズ群の中で、比較的「普通によく写る普通のレンズ」とされたレンズには、望遠系のものが多い。勿論、ミロターの500mmとか1000mmとか、化け物みたいな値段のついた眺望円クラスがあったわけなので、まあ200mm~300mmのレンジの話。 180mmの望遠レンズは、
最初のオリンピアゾナーの系譜で出されたContarex用レンズでは、ガラスの塊と言われたほどとんでもないレンズだったようだが、200mm前後の焦点距離のレンズは、ビギナー用の望遠レンズだから、それなりのCPで出さないと、誰も買わなくなってしまう。買ってもらわないと次がない。そうでなくても望遠系は、民間人には野鳥や野生動物撮影以外では使い道があまりなかったりする。ポートレイトも使われても135mmぐらいだ。対象人物とのコミュニケーションもとれないほど、離れるのは現実的ではないから、まあ普通はない。かつて1000mmレンズ使ったのヌード撮影みたいなのがアサヒカメラのテストレポートに有ったけど、バルブで開けておいて、ビルの一室内でストロボ炊くみたいな、正しく技術者が苦心して考え出すようなトリック撮影だった。
望遠マクロという分野があるが、被写界深度は長玉になれば、稼げなくなるから、やはり90~100mmぐらいが適当かなと思う。APSサイズデジイチだとこれは被写界深度はそのままに、140~150mmぐらいになるから、そのあたりも都合は良かったりする。
で、もう一個の望遠用エクストリーム(大げさ)オプションがMutarだ。牟田さんという日本人レンズ工学者が設計したからムターって名前がついているわけではない。ちょっとドヤしようと思って海外サイトを結構見たが、’Mutar’の語源に言及したものはまだ見つけられていない。
Mutarにもヤシコン(Yashika-CONTAXマウント用)としてのZeissレンズシステムにはI、II、IIIとあって、Iはすべてのレンズに適合。でもこの使い方はトリミングよりも画質が上がらないと意味がないので、やはり撮影対象とレンズを選ぶ。IIは望遠レンズ専用のテレコンバーターレンズで、135mmの望遠以上に適合。よってより望遠マクロにするのを目論んで、MacroPlanar 60mmとか100mmとかに使うつもりならIのみしか使えない。IIIは倍率を1.4倍と欲張らない代わりに、IIより更に超望遠系のレンズと一体型として高画質用に設計されたもの。牟田さんにも種類があるのだ。倍率を欲張っていないゆえに、IIIでは解放絞りも1段だけ暗くなる(例えばf2.8ならf5.6)。他のI、IIでは2段暗くなってしまう(例えばf2.8ならf4.0)。ハッセルブラッド用レンズにもあるようだし、ローライフレックス用は二眼レフでレンズ交換できないからフロントに装着するタイプだ。あそこの二眼レフ用には、純正のローライナーっていうマクロ用アダプターがあったりするが、そんな感じのようだ。
ちなみにAF時代になっても超望遠レンズ用にテレコンが、画質を考慮して専用設計されるのは普通にある。望遠レンズは後ろ玉が結構伸びていてバックフォーカスに余裕がない設計だから、それを飲み込むような形になってテレコン付けても一体型の専用設計となっているのが普通だ。それ故、適当に汎用で作られたサードパーティテレコンバータ自体がはまらないようになっている。カメラが平均収入に比して圧倒的に高額機械だったころ、今よりも、レンズ機材投資できる人は、もっと少なかった。当時の一眼レフ所有者の平均的なレンズ資産を見れば、標準50mmと望遠135mm、広角35mmあたりで一揃え、だったかと思う。で、そこに安いテレプラスが一個入って終わる。
オートフォーカスデジイチ時代になって、28mmクラスの広角〜標準ズームと単望遠〜300mmクラスの望遠ズームのダブルズームセットが一般化して、だいたいそれを揃えておしまいみたいなところだろう。ただ、望遠側は300mmクラスがないと、飛び道具持ってるコンデジにも負けるわけで、カメラ本体を売るには必然だったろう。
で、こういった増設コンバージョンレンズで焦点距離を稼いだ場合で、お得になるのは、最短焦点距離の問題だ。だいたい35mmフィルムサイズにおけるマクロではない標準レンズで最短撮影距離は45cm程度だが、これが望遠レンズであるTeletessor 180mmだと、1.4mである。で、Mutarを装着したときの焦点距離360mmって単焦点レンズにはない距離だけど、最短撮影距離は1.4mのままだ。通常単焦点レンズである300mmの望遠レンズの最短撮影距離が2m、400mmが3mになる。ちなみに100-400mmズームの最短撮影距離は1mぐらいと書かれているが、ズームレンズの最短撮影距離は短い焦点距離のものだ。
さて、Teletessar 2.8/180 T* and MutarIIの場合、標準レンズとの比較でみると同じ距離で360/50=7.2倍の拡大能力のあるレンズが最短撮影距離1.4mで使うことができるので、これは1.4/(180*2/50)=で標準レンズが19.4cmで使えた場合と同じ拡大率ということになる。バリバリのマクロレンズとは行かないが、クローズドフォーカス、そこそこの近接撮影ができるレンズになってしまうということだ。まあ、画質的にそれほど期待した来館という人もいるが、最短撮影距離は、画質を含めて限界値を決めているから、損ににひどくはないというのが、上の作例を見ればわかるだろう。ウマノアシガタのプラスティッキーな不思議な花弁の質感もちゃんと出ている。上から二枚目の園芸種はよくわからない。
こちらの桜はもはや七分咲きを超えているか、もう葉桜になっている。 ケンコーなどが出していた安価なテレコンバーターは、むしろ良く買われていたような気がする。父にはそんなの填めて撮らずにむしろ素のレンズで撮ってトリミングした方がずっと画質低下は少ないと言われた。実際、汎用のテレコン(テレプラスと呼ばれたものもあった)の画質なんぞ、元のレンズの欠陥も2倍にしてしまうような代物で、果たして私が数少ないチャンスでイリオモテヤマネコの撮影をしていた時、上がった写真を見て、実際、父の忠告その通りだった。機材の問題というのは、本人にいかんともし難い瑕疵になるので、機材制限がある場合は、それを甘んじて受けないといけなくなる。 そういったテレコンコンプレックスを払拭されたのは、このMutarのおかげである。
チコと『ミツバチのささやき』を聞きに裏の畑に出かける。Carl Zeiss Teletessar180+Mutarによるマクロ的使用。このあたりが限界距離。α7iiの性能の凄まじさもあってよく写る。WBをオートを外して太陽光にセットし直す。こちらの方が良い。
より高性能のデジイチでありがたいのは、実用高感度性能が上がりISOの領域が広がったおかげで、薄い像面をコントロールするような技術を要する画を撮れなくても、アベイラブルライトのまま、絞り込んで更に高速シャッターが切れるということで、これは望遠系やマクロ系には本当にありがたい。
森林生態系内での撮影は、実際のところ、三脚持ち歩けない状況ではISO3200ぐらいまで情用範囲でも全く困らないのだ。そんなに高感度がなんで必要なのって思うだろうけど、昼間でも暗い林の中で手持ち撮影でどのくらいのISOが必要なのか、通常、人にはわからないのでしょうがないのであるのだけれど。
比較のために単望遠マクロを引っ張り出す。桜の花と菜の花がこの時期の蜜源としては大人気。
たくさん飛び回っているので適当にマークして適当シャッターを押す。フィルム時代には考えられなかった気楽さではある。インスタ用スクウェアトリミング。
ひとしきりチェックしたチコが戻ろうというので戻ることにする。このあたりは、お互いよく相手の呼吸がわかる。100mぐらいだととっさのフレーミングにも困らない。360mmをマクロ域で使おうとすると、どこを見てるかさっと合わせるのには少しばかり訓練が要る。
こちらは旧ミノルタの古いとはいえ専用マクロレンズだが、単望遠マクロの特性として、一般距離〜無限遠撮影をやっても画質が素晴らしくついてこられるという部分だ。昆虫などのワーキングディスタンスも取れるので、野外で使う場合もあまり困らない。通常撮影もよく取れるが、風景などは画家9月得られてしまうということだ。被写体にもよるが、このあたりの焦点距離のマクロが一番使いやすい。問題は、今どきはデジタルマイクロスコープのように被写界深度が深い深いコンデジのマクロ撮影よりも、絵を作るために使い方は考えねばならないということだ。
しかし、撮影機材は良くなった。どうやって何で撮っても、画質の悪い画像というのはあまりなくなった。フルサイズデジイチと古いiPhone6splusの画像を混ぜても、Web上ではみっともないことにならくなって久しい。それ故に、デジイチにはスペシャルな装備をセットして、iPheneをサブ機にして状況を抑えるみたいな使い方をしてもなんの問題もない。
Zeissレンズによる画像は、Webアップ用には、現像時簡単なレタッチをするが、今回そのまんまというところで、画質の良さは確かかなと感じた。360mmでの望遠撮影も、ISOの実用値まで上げて高速シャッターが切れているとはいえ、5軸手ブレ補正の効果は高いのだろうなと思う。