Telemetry覚え書き2
2005年 06月 17日



それぞれは,調査機材としては全く別のシステムで,トランスポンダーの信号をX10で受けてなどというような直接的な関係はありません。X10は受信しかできませんので,ハム用の無線ではありませんが,SUM2が8本も入るYAESUの糞重いFTシリーズに比べれば,冗談のように小さく高性能です。この機種を見つけたとき,あの肩に食い込んだ痛みはなんだったのか・・・軽いショックを受けました。警察無線や消防など,傍受できない電波帯は殆どないような機械らしいのですけど,天の邪鬼な私にとっては,猫に小判。
追記ーやはりYAESU FT-260は永遠の名機だとしかやっている研究者からお聞きしました。内部アナログ回路は,今のコストダウンの受信機が遙かに及ばない性能を示すそうです。数値だけじゃないようです。高級アナログ・オーディオみたいなものか。
1 Radio telemetry
主に144MHz帯もしくは433MHz帯(過去には50MHz帯)を用いており,トランスミッターと呼ばれる発信器です。電池の革新により,老舗のアルキテックの144MHz(FM波)のものでは6gで12ヶ月,25gで24ヶ月,後で述べるGPS TelemetryのTIMBERTECの433MHz帯(VHF波)タイプでは2gの小型タイプで40日,6gで6ヶ月のバッテリーライフがあります。
単なるビーコン波なので,電池寿命は大きさや重さの割には非常に長く,その点,猫を含めた小型小動物の装着には負担をかけないという利点があります。重さが1g未満でも大きすぎると思われる小鳥やネズミ類などでの利用は,これ以外に選択肢はありません。
方探には,アンテナと受信機が必要です。受信機については後日またまとめようと思います。
アンテナで電波の方向探知を行い,三角測量で位置を特定するか或いは追撃法により,電波の方向を追って,受信機の位置を確認します。その仕組み上,距離が遠い場合は,一特定には誤差を持ちますが,キッチリ場所を落としたい場合,追撃して装着個体を確認できうる地点まで詰めるのが,このシステムの作法でもありますので,そういった意味では,汗掻いても居所をしりたい向きには最も良いシステムであると思います。
アンテナの方向探知には,実際にやった人以外にはほとんど知られていない,ちょっとしたTipsがあります。通常,例えば2素子の八木アンテナを使う場合,指向性のある部分で大まかに方向を読んだのち,アンテナを回転させたとき,最も信号が微弱になる方位を読んで,それから90度方向を見た方が,方向探知の精度が高いのです。野外では海や山の反射が特に50Mhz帯では酷いので,電波の強い方向だけで発信器の位置を知ろうとしている方が時々おいでですが,10素子のアンテナを使っていない無い限り,距離にもよりますが,大抵,もの凄く無理をしているか「分けがわかんないよ〜」ってことになっております。そうでなければ,自作で方向探知精度の高いものを使うに越したことはありません。
2 GPS Telemetry
最近,TIMBERTEC(http://www.timber.co.jp/index.html)という北海道旭川の会社があります。GPS Telemetryを中心にかなり進んだソフトやハードを提供している会社で,国際哺乳類学会などにも出店しております。GPS Telemetryは,もの凄く精度が高く,うっそうとした森林の中では,部分的にロスとするでしょうが,Garmin社などの安いGPSロケーションを使っている限りその性能は,Radio telemetry等と比べると,圧倒的に高いものがあります。しかしながら,リアルタイムに位置を知らせてくる(位置データのリモートダウンロード )タイプの製品は最低でも645gもあります。まぁ,極論すればGarmin社のリストバンド製品+Radio telemetryを着けて,リモコンで脱着させるというようなことを思いつく人もおられるかも知れませんが,それの完成した製品版です。メーカーさんではGarminのGPS用ソフトも販売されているようですので,モジュールは同じものを使われているかも知れませんね。因みにGarmin社等GPSについては,フィールドアイテムとして別の機会に取り上げたいと思いまあ素。
GPSシステムの一番の問題は,基本的に小さな動物用の製品では,遠隔装置かタイマー制御で,脱落させて,製品自身が発信する433MHz帯のビーコン波(まぁ要するにRadio telemetry発信機能も搭載されている)を追って,回収しなければなりません。まぁ特注品で衛星を使って位置情報を送ってくると云う凄いものもありますが,個人で購入して猫に着けようなどという代物ではありません。分野として,元々野生動物の行動解析を目的としておりますから,どこをどう動いていたかという検証は後で出来るのですが,現在,姿が見えない愛猫がどこにいるのかということを知る向きには,余り向いていません。当たり前ですが,そうなると同時に内蔵されている433MHz帯のRadio telemetryトランスミッターを使うのとなんら替わりません。で,433MHz帯は波長が短いですから,どのくらいの出力設定になっているか分かりませんが,私の認識だと,一山越えたら届きませんし鉄筋コンクリートの建物が多いところではTV波と同じだから予想がつきますが不利です。実際144Mhz帯でも結構起伏が激しいところでは苦戦するのです。通常の山の中,500m程度でも届くならみんなこのバンドを使ってます。だから,サイトの情報に含まれていないことは,この発見努力が,どの程度のものかという部分です。
GPS telemetryは位置情報収集には非常にスマートで優れておりますが,体温や活動状況などは,バンドが違うと云えども既存のRadio telemetry技術を使っております。野生動物の研究用が基本ですから,死亡検出機能もあります。例え研究者といえども,とても自分の愛猫に着けてチェックする気にはなりませんが,考え方次第でそれでも一刻も早く生死を確認したいと思うなら良いかも知れません。私なら,研究対象なら仕方ないのですが,そんなものの信号で愛猫の子を知りたいと思いませんので折角のオプション機能も辛いところです。稼働日数も一日Ⅰポイントを記録するだけなら,2,303日稼働(一日48回記録で108日)するということで,もの凄く長寿命です。
あと,非軍需利用用GPSデータを使うままであれば,通常は,誤差範囲は15m程度ですが,専用受信機自体がDGPSの高精度データで撮れるように作られております。またハンディな補正データ発信装置も出しているので,これを発信器に補正電波が届くところに置けば精度的には完璧です。システムとして,地球上にいて,衛生電波を受けられる環境ならどこでも方向探知できますが,その情報にアクセスするには,回収位置の特定あるいはリモートダウンロード に関わらず,433MHzの発信電波の届くところにいる必要があります。
なお,完全無欠のGPSテレメは衛星を介してでデータをリアルタイムで送ってくるので,FMトランスミッターを内蔵する必要はありません。現在の日本の法律遵守を考えるなら,実際この方式しかないようです。
こいつは,こっそり伴侶や恋人の車に装着して後で回収すれば,浮気調査などにも使える恐ろしいアイテムです。もっと恐ろしいのは,ストーカーに利用されれば,使い方次第で居所を見つけ出される可能性がありますから,クルマの屋根やトランクの上などに見たことがない機械が乗せられたりしていないか,お気おつけ下さい。ビーコン波内臓のものは,見つけ出すことは出来ますが。
3 PHS telemetry
安価で正確な追跡ができるシステムとして現在人々の生活の中で最も利用されているものです。しかしながら, PHS電話の技術を使ったものですので,PHSが使える地域しか使えません。首都圏ならばとても有利です。というか普通の地方では,もちろんちょっと山に入れば使えないどころか,下手すると市街地でも使えないわけです。逆にPHSのサポートが厚い地域ならば,GPS Telemetryのようにビーコン波が捕まえられる距離など気にしなくても良いわけです。
実際,徘徊老人や,子供などのセキュリティ対策で,使われているシステムをそのまま動物に流用しようというものです。5年前に東京でカラスに使った有名な研究がありますが首輪の着いた製品を扱っているメーカーは未だないようです。非常に便利なのは,先のRadio TelemetryやGPS Telemetryのように受信機とアンテナを持って外に飛び出さなくても,発信器がPHSのサービスエリア内の屋外か屋内でも窓際近くに存在する限り,携帯電話や自宅電話,FAXといった既存の一般通信システムで,簡単に現在位置が分かることです。尚,このシステムの位置特定誤差については,私は十分な情報を持ちません。
猫は首都圏では室内飼いが完全といって良いほど常識になっていますから,残念ながら需要がありませんし,比較的飼い猫が自由生活を満喫している地方では,PHSの基地局は,今後は分かりませんけれど,今のところかなり限定されております。というわけなので,動物用PHS telemetryが一般に売り出されると云うことはあり得ないでしょう。
追記ーこれを書いていた頃は,ピッチではなく携帯電話の方探は,あまり制度的には??が着いていたのですが,現在は,ウチの長男なども持たされて,実用上PHS並かそれ以上になっていることを追記しておきます。
4 トランスポンダー(参考)
一種のパッシブ型発信器で,離れたところから発信器の位置特定に使うという用途のためのものではありません。云ってしまえば電子タグ,電波を使ったバーコードのようなものですが,受信システムから特定のFM波が飛ぶと,本体が反応してシリアルナンバーによるIDを送ってくると云うものです。これと感知した時間がチェックされるシステムで,トライアスロンなどの大会などでも使われていると聞いたことがあります。到達距離は精々数メートルなので,予めトランスポンダーが通る場所などに仕掛けるか,発信器そのものを眼で確認してアンテナを向けて感知させる使い方のシステムです。類似品を考えるともの凄く範囲が広く,例えば非接触カードであるSony製FeliCaなども製品技術のカテゴリーとしては近いものがあります。もちろんFeliCaが野生動物の調査に利用されるようなことはありませんが,類似の機能を持つICチップはどんどん薄く小さくなってカードにも内蔵できるほどだということです。
件の移入生物規制法では,特殊な生物の移入個体以外にも飼い猫にこのトランスポンダーを埋め込んで,IDチェックをするという原案が検討されましたが,愛猫家の猛反発を受けて消滅しました。実際には,かなりトランスポンダーは小さくなっており,私の知る製品では生物無反応ガラスに包埋したトランスポンダーを太い注射針用のものを使って体内に打ち込みます。長所は,基本的にバッテリーは内蔵されていませんので,経年変化ギリギリまで持つと言うことと,もの凄く小型と云うこと,発信器は雑誌一冊の値段だと云うこと,短所は電波が届く範囲が手を伸ばせば届きそうな範囲であり,また受信機も結構高いという問題があります。牛など生きている家畜の流通管理については,EUなどでは既に10年以上も前から使われております。当初は,軍事技術を用いてテキサスインスツルメントが開発したTIRIS™ システムが有名です(http://www.tij.co.jp/jmc/docs/tiris/whatstirfid/index.htm)。今時,かなりのメーカーが参入しており,日本のTSC社がレースなどに特化したシステムで有名ですが,これは車載用で基本的に電源供給を受けているのでニャンコの首輪に着けられる代物ではありませんが。
ということで,我が家の猫どもがどこにいるのか知りたいと思った場合,お金をかければ,かなり使えそうなアイテムが出来ていると云うことです。一方で,ここ10年あまり,バッテリーや,GPS衛星,移動体電話の基地局などのテクノロジー事態とそのインフラの普及は圧倒的で,マイナーなハンドメイドやガレージショップに近いメーカーの発信器を使っていた頃とは,隔世の感があります。でも,このブログでのチャレンジにおいては,FMトランスミッター自作して遊んでみるのが一番コストもかかりませんので,この古典的な方法で考えていきたいと思います。欧米でも,猫は家の中が基本と思っていましたが,そうではないので,何処かが電池交換が容易な安い猫用発信器を出してくれないかと思うのです。でも,商業的に通用する製品となると,デジタル化して製品毎にID化できないと,駄目でしょうし,市街地中心でなくてもどこでも使えるということになると,この古典的な自作によるFMトランスミッターが多分一番気楽な気がします。また,製品の多くがともかくデータを取ることを最優先で考えておりますから,その辺りのことは,大きさなどに反映しております。行動に影響は与えないということで大きさはもちろん決められているはずですが,我が愛猫に装着するならば,ネズミ用程度のものを着けるぐらいが,ちょうど良いような気がしますがこの辺りは,自作の場合自由に決められます。それ以上のものを自分の愛猫の首にぶら下げようと思う飼い主はいないはずです。GPS Telemetryに装備された時限式,あるいはリモートでの発信器の脱落は,かつては存在しなかった機能です。一見,野生動物に気を遣うようになってきているとも言えますが,トランスミッター型のものではそこまで凝った脱落機能は少ないので,やはりこれは,GPSのデータ回収のために生まれた技術でしょう。まぁ,目立つ動物に着けた場合,一生着けたままなのかと過激な動物愛護関係者から攻撃されることも,過去の例ではよく知られておりますので,これは研究者のリスク管理の意味からも外せない装備であるとも言えますし,いざとなればトランスミッタータイプにもつけられる技術であることは良い状況かと思います。メーカーの製品のもう一つの良い点は,装着のノウハウがしっかり使われていると云うことです。岩や木,コンクリートの壁にこすりつけたり,激しく暴れても外れず,壊れずということになると,自作はかなり大変です。装着ベルトの欠陥は,装着した動物自体にも危険を及ぼすことになります。この点,自作で最小化を考えているのは,装着方法が仰々しくならないと云うこともあります。
ところでここまでの説明だと,Telemetry調査の多くが,位置情報を明らかにすることだと思われそうですが,Telemetryという言葉はF1などでも使われているように,遠隔でデータを取る方法そのものを示すわけであって,位置情報はその一つの応用例でしかありません。逆に言えば,位置情報を知るためにもの凄いことをやらないと分からない動物は確かに多いのです。2m四方にも満たないダイドプール(潮溜まり)の中で生活しているハゼならば一日海岸に座って観察すれば神の視座のように手に取るように分かるようなデータを取るだけで,多くの動物においては,もの凄く大変だと云うことです。例えば渡り鳥の移動ルートなど,確かに事細かな位置情報が明らかになるだけで,それまで分からなかったこともいろいろ示唆が得られるので,分野の研究や素の動物についての深い理解も進みます。しかし,ハゼがタイドプールの中で「いついつどう動きました」というデータを取っただけでは話にならないわけです。どこでどのように振る舞って,また,他の個体に対してどのようなアクションを起こして,それらに要した時間の総計や変化などを解析することで,初めて様々なことが分かるようになるわけです。ハイテク機材を使うと,それだけで何か凄いことをしているような気に外野は思ったりしますが,プロの仕事とは,その先にあるものなのですが,このことは,この分野における一番の誤解なのかも知れません。現在のTelemetry技術の野生生物への応用においては,例えば特定の雄・雌の個体にそれぞれ着けて位置情報をトレースしたとしても,彼らが実際に,交尾したのかどうかさえ教えてくれるものではないわけです。まぁこれについては集音や画像転送という手を考えた人も一人や二人ではありませんが,それでもデータが取れるという保証はありません。ドラえもんの道具並とは云いませんが,飛躍的に進化しているようで,野生動物のリアルな生活を明らかにするという意味では万能どころのものではなく,未だに応用例も含めた研究者のアイデアや分野のブレークスルーを必要とするようです。
実際に,観察者が影響を最小限に出来て,動物にくっついて移動してデータを取ることが出来うるならば,研究者はそちらを選択しておりますし,その方が,何百倍も深いデータが取れるというものです。この,随行による直接観察ともいえる,「チカメトリー」という方法については,別の項でお話し致しますがテクノロジーやインフラに頼らない身一つによる研究の価値の高さが生態学や動物行動学という分野の健全性に寄与しております。
追記ーパッシブ型(要するに電波を当てるとナンバーなどの情報を返すタイプ)のトランスポンダーの進化バージョン,現在ではICタグといわれているものは,とてつもなく小さくなっています。 g-hopさんのアーティクル“働き蜂の「浮気」”で紹介されていたハチに着けられたものは,まるで鼻糞みたいに小さいです。
昔、強力なハム無線のアンテナ掴んで、別次元に幽体離脱
した事があります・・・( ̄_ ̄|||)
そういえばアルインコの物って某GUN雑誌のサバゲーで取り上げられてました。
私はラジオやハムボーイではなかったので,雑誌の件,全然知りませんでした。詳しい人から突っ込みが入らないかなと思ってメモを書き散らしてみました。
サッカー観てたとき、中田選手を観ていて「誰かに似てる…」と思ったのですが…チコちゃんに似てるんだ… (^^)
何をしでかしているのか分かりませんが,もう少し時間がかかりそうです。
oratieさん,もしもお会いできたら,「ニャーッ」ってチコはちゃんと挨拶するでしょう。
kyoko_fiddlerさん,中田選手ですか?! 確かにあの人はネコ科を思わせるものがありますね。女の子でチコみたいな感じの人, oratieさんが趣味だと云っておりましたが,彼を女の子としてみられないので,思いつきません。一番ネコ科って感じがしたのはターミネーター2のT−1000役のロバート・パトリックでしょうか。あんな怖いのやだけど,森でベンガルトラにでも遇ったとき,ああいう感じの美しさとしなやかさ,絶望感みたいなものを感じそうです。

