雨音はストレプトマイセスの調べ

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 梅雨時である。梅雨時のネジバナ Spiranthes sinensisは文字通り、雨に負けぬ花(flowers never bent with the rainfall)。
 雨の匂いの元とされる揮発性物質ペトリコールは、どうやら放線菌であるストレプトマイセス(Streptomyces)が放出する。
 ゲオスミン (geosmin; 有機化合物、デカリン誘導体のアルコール)に大気中のオゾンが混ざったものらしい。そしてペトリコールはストレプトマイセスとトビムシ目(Collembola)の間の明らかな相互利益の相互作用の媒体となっていることが明らかにされた(Challis, Buttner & Flärdh, 2020)。どうやらゲオスミンの放出は、ストレプトマイセスが胞子コロニーを作るときに限られる。実験ではStreptomyces coelicolorを使ったらしいが、これ アクチノロジン 、 メチレ ノマイシン 、 ウンデシルプロジギオシン 、 ペリマイシンなどのさまざまな抗生物質を産生する放射菌。そう、 ストレプトマイセスって属名は、あの有名な抗生物質、ストレプトマイシンのそれなんだって分かる。
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 で、Folsomia candida (イソトミダエ科のトビムシの一種)は、触覚でゲオスミンや2-メチルイソボルネオール(こちらもカビ臭の原因物質)を探し出して、胞子を作った後のストレプトマイセスの遺骸をバクバク胞子ごと食べてしまうらしい。で、移動排便することで、これらの胞子を撒き散らす。ゲオスミンの放出は胞子形成コロニーに限られる。Streptomycesのコロニーは引き寄せられたトビムシの餌場と化し、トビムシは糞便として、胞子を播種する。トビムシを使って胞子の分散が促され、ストレプトミセスのライフサイクルは完成するというわけだ。
 トビムシに胞子の散布を手伝ってもらうための誘導物質としてのゲオスミン(+オゾン)があの雨の匂いということらしい。


 こちらの南九州の南部無霜地帯の林床で。真冬なのだが、リター層をめくってみれば、トビムシがわらわらと動いて、これら分解者のアクティビティの高さを示してくれる。
 この論文を紹介しているGigaginの記事にもあるのだが 、さらに興味深いことに「人間の鼻はジオスミンに非常に敏感であり、1兆分の5もの低濃度でそれを検出することができるとされている(Polak and Provasi, 1992)。」この辺りの記述は、私が見つけてきた方の原著論文の記述を使っているので、Gigaginの記述と少し単位が違っているので注意。
 どうも一体なぜ人間がゲオスミンの匂いに敏感なのかという理由は記事作成時点でもわかっていない締め括られている関連テキストが多い。ゲオスミンを産生する生物は、トビムシと関係の深い放線菌クラスの糸状菌だけではなく、藍藻類、その他の原核生物と真核生物にもいるらしい。ちなみに、ゲオスミンに関係しているシアノバクテリアにおける主な属は、Anabaena, Phormidium, and Planktothrixといったところ。
 人が、その匂いに敏感であるということ自体、何か不思議だが、このトビムシ・コールの匂いとすると不思議なのだが、どうも、同時に水の水道水のカビ臭そのものでもあったりするようだ。そうなるとちょっと意味が違ってくる。より清水との違いがわかる能力を持つこと自体は、適応度と無縁とも思えない。
 この件はちょっと保留。
 本当は降雨の良い写真表現が得られたら記事に合わせようと思っていたが、1枚目のネジバナとのそれも、うーん、なかなかイメージ通りに撮るのは難しい。気に入ったのが取れたら追加しよう。

追記ーシアノバクテリア由来の毒素でアフリカゾウが大量死の記事を見て、この生物由来の物質にヒトが敏感であること自体は、むしろ、おかしくない気がしている。逆に、人類以外、これに対する感知機能がどうもあまり高くないように感じるので、そのあたりの違いの方に、興味が向く。


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Commented by umi_bari at 2020-06-26 20:31
すいません、アラックは全く分からないんです。
complex_catさんの知識にバグースです。
チャンス、21日まで二階の妻のベットまで行っていたんですが、22日の朝に危なくなって
動けなくなりました。
毎日、アラックとの、「おはよう」「ただいま」の約束を四日間頑張りましたが。
25日15時35分にゴンのところへ旅立ちました。
21歳四か月と10日です。
今日は最後の仕事の火葬を頑張って、小さくなって帰って来て、ゴンと一緒に並んでします。
チコちゃんが一日でも長く頑張って欲しいです。
Commented by complex_cat at 2020-06-26 20:48
アラックさん、
チャンスくん、長い散歩に旅立ったのですね。
チコは、色々ありますが、それでもマイペースで日々暮らしております。
今も、サバのみりん干しをがっついております。
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by complex_cat | 2020-06-26 20:25 | Wonderful Life | Trackback | Comments(2)

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