チコはこの世に身一つで生まれてき後、運命として私たちのところに来てくれた。そして私達に数々の経験を共有してくれが、あの声、あのぬくもりの感触を残して、20年後、私たちの元から旅立ってしまった。 チコが残してくれものは、わたしたち家族に彼がた注いでくれた深い愛情と思い出だ。それだけで十分なのだが、やはり彼がいなくなったことはとても寂しい。それでも、彼の形見とも言えるものが一つ、残されていることに最近気がついた。 彼が残した足跡そのものの記録、彼が、GPSロガーを首輪に付けて出かけていった時のパトロール・ルートの軌跡で、この最期の分はなぜか忘れていたのだ。この彼の軌跡を見ていると、このあたりに行った時、何を考えて、どんな顔をしていたのかとか考えずにはいられない。そして、彼にはもう会えないのだと思うと、やはり、まだちょっとだけなんとなく、苦しくなる。 今は、社会的に猫の自由飼いは許される状況ではなくなってきていて久しい。人気猫番組も、現在では、そのような批判が出ることも普通だし、猫の著名な総説では、後半はほぼ、猫の外来種としての生態系影響やリスクについてページが割かれている。チコは、圃場が残っている状況で、ファームランドキャットとしてぎりぎり彼の王国の終焉に間に合った気がしている。もう、彼のような猫と暮らす環境は失われてしまった。 彼が、我が家にやってきた頃には、このあたりはまだ、穴開きのだらけの宅地で、家の周りはすべてチガヤの原っぱか、農地圃場だった。彼がお隣のファームランドキャットとなったこともあり、生物多様性への干渉もギリギリ許されるような状況もこの頃が最後とも言える。ただ、改めてその軌跡を追うと、なんとこんなところにある公園や空き地まで出かけていっていたのかとか、驚かされる。 Google mapにモザイクを掛けたことにより、簡易なメッシュ解析みたいになっていて、彼が林縁までは出かけていっているが、林の領域には侵入してないことなどもわかる。当時のHolluxは一度、衛星を捕まえてしまえば、照葉樹林に入っても測地記録は途絶えなかった。トラッキングログに空白もないから、この結論は間違いないだろう。 野生動物のアクトグラムや行動権調査では、古くはFM波の方向を指向性アンテナで捉えて、複数方向から同時に測定して三角測量で地点をプロットするという原始的な方法が行われていた。電波も、最初は、安い部品と自作の部品のハンダ付の回路でなんとかなる50MHz帯だった。随分奢った探査受信システムには、4方向のアンテナを持ち、相互の電波強度で方向を自動的に記録する装置もあった。記録媒体は、私も現物を見たことがない「磁気バブル 」だった。それらを複数地点にセットして、イリオモテヤマネコの行動圏やアクトグラムなどが捉えられたりしていた。 今は、GPSロギングが可能になり、記録も正確でデータの回収も、金をかければ衛星経由で可能だ。機材も超小型、制約はバッテリー寿命とその大きさぐらい。鳥や蝙蝠につけるような超小型のタイプには、バッテリー制約により1年などといった長期の追跡はできないが、それでも基地局を立てるやり方で、出力が小さくても使える機材なども普通になった。およそ中型以上の哺乳類については、GPS首輪として各種に対応した使える製品があり、ずいぶん楽になった。 チコに装着したときの私の手持ちのGPSはGarminですらなかったが、この後、フィールドワーカーのGPSは性能その他でGPSはGarmin社製品に席巻されることになる。当時は、ぎりぎり照葉樹林内でGPSがロストしない性能にまでは届いていた。その後、スマホのGPS機能が便利になり、ハイアマチュアやプロユース以外のハイキングなどでは、Garmin?スマホで事足りるでしょみたいな状況が一般的になった。その結果、GPSロガーというのは、使い所があまりないカテゴリー製品になっていった。Holluxのこの出来損ないのフィルムパトローネに擬態させたGPSロガーは、そういったGPSロガーとしては、わりと初期製品だったが、当時の性能としてそこそこの精度があったとことと、単三電池で駆動できたこと、Bluetooth内蔵型であったこともあり、割と使っている人も多かった。ノートパソコンとリンクさせて現在位置をカーナビみたいにリアルタイムにGoogle Earthに位置を落とさせるとかも可能であった。割と長く生き残っていたそのカテゴリー製品だったと思うが、皮肉なことに、浮気調査などで台湾などで60製品以上が販売されるGPSロガーバブルのときには、後発の長期使用できる充電タイプのものに押されて、商品としての寿命を終えようとしていた。
Battery寿命は、金属リチウムの充電タイプが一般的になった今で考えると、1日持てばいいぐらいのもので、動物に装着したロガーが再回収ができる状況があったとしても、野生動物の調査に使えるような代物ではなかった。それこそ、チコに装着したのは、飼い猫であればいけるな、という特殊な使い方であった。もちろん、単3タイプのリチウム電池などを使て連続利用時間を伸ばす方法もあったけど、コストが掛かりすぎて、私もやる気はなく、エネループ使用が定番だった。
この話のために、Googleの地図上にチコの歩いた軌跡を見せながらワイフと話していたら、彼女はコチコ(仮名)を保護したのいつだったっけ?って言い出した。そうなのだ、彼女が言いたいことは、私には理解できた。チコの3haにも及ぶ行動圏の勢力範囲図は、そのまま、庇護者を求める、腹減り限界でサバイバルしていた子猫たちにとっては、意図せぬ我が家への道標になっていた可能性があったのだ。 この頃は我が家の庭に、子猫とは言わず、多くの猫が出現した。周辺の自由飼いや、誰かが餌だけやってる個体がまだ多くいたのだと思う。それだけ、中心市街地とは違う、農村集落的な要素が残っていたのだと思う。チコは、公陳丸と組んで、時々二匹のテリトリーを侵食している戦闘力が低くない個体の排除もかなりやっていた。去勢手術をしようが、特にチコは武闘派であることを辞めず、永遠の少年であった彼にとっては繁殖縄張りが意味をなさないにも関わらず、そういう行動を取るとうことは、私の浅い先入観をひっくり返して、とても興味深いものだった。 保護したコチコ遭遇時のチコ。強烈な排除行動は取らなかったけれど、彼の保護期間中、特に強い興味は示さなかったし、彼は、最初の教育係であった公陳丸には懐いていたし控えめにアプローチしてくるナッチにだけは寛容だったが、どちらからというと猫好きな猫ではなく、親愛的な行動もなく至ってクールだった。まあ、この子は、里親探しの会にエントリすることは決めていたし、どちらにしても長くこの家にはいない予感もあったので、これくらいで十分なファーストコンタクトだった。 このチコ似の子はとても性格が良く、一生懸命、私達とスキンシップを図ろうとした。程なく里親の集まり的なところで、圧倒的に人気猫になり、結果良い縁に恵まれて、我が家から卒業していった。正規の里親の人のことを考えて、また、別れが前提だったので、コチコ(仮名)と名前を呼んでいた。 我が家にたどり着いた思い出深い猫といえば、わさび(仮名)も居た。「猫の道」は、同時に、猫が利用する餌等の資源にたどり着ける可能性を示しているわけなので、毎日、真面目にパトロールに出かけていたチコは、我が家へ向かう見えない濃いルートをつけていたのだろうと思う。匂いもあるだろうし、頻繁に使っている猫道は猫には分かると思っている。 フィールドで、足繁く同種の他個体が通うルートが、他の個体を集めてしまうのと同じ理屈だ。同種多個体が足繁く通う「道」は、その指し示す先に自分に必要な資源の存在を教えてくれる。 わさびは、保護した時にはたぬきの子供かと思ったぐらい。マニアックな彼女の体毛は、こちらで言うサビ猫(三毛猫のバリエーションに過ぎない)そのものだった。ぱっと目、表情も読みにくい。こんなマニアックな体毛の子に、里親さん見つかるかなぁ、多分このままうちのコになる可能性が高いかなぁ、などと保護した当時は考えていた。 猫と人との契り,それは他人がどうこうできるものでもないし,「チコの道」に彼女が気がついてチコの匂いをトレースしてきたでことなど、実際には、検証もできてはいないのだが、いくつかの偶然と必然が作用していたと思っている。 わさびも我が家に馴染んで、家族には大人気だったが、1回目の譲渡会にエントリしたら、良い里親一家となるところの娘さんに見初められて、あっという間に我が家を後にした。あまりの展開の速さに、いきなり彼女との別れが来てしまって、子どもたちが強く動揺してしまったほどだった。 コチコ(仮名)やさわび(仮名)の幸福な運命についても、チコの日々、手抜きのない、テリトリーパトロールが、導いた可能性があると思っている。 上述のチコのトラッキングデータをKernel分析にかけて50%、90%、95%、99%のエリアを描画させたもの(面積 2.4ha )。スケールは50m。かなり昔、単純なGPSトラッカーでも、このくらいのデータは出せる。猫だから。 今は、GPSによるトラッキング機材はものすごく良くなっていて、今は、金をかければ深山で活動する個体については衛星回線でトラッキングポイントデータは吸い出せる。そうでなければ140kHzや430kHzの電波帯を利用して、GPS首輪と通信成立させてデータを吸い出す。吸い出しはアンテナとコンバーターとアプリの入ったパッドかスマホで行い、データは本体に一旦収容されるが(数値データなので、かなりの長期のデータでも、今どきは大したことはない)、そこからコントロールアプリがインストールされたスマホとWi-fiを通してクラウドに上げられて、いつでも閲覧や簡単な分析ができるというのが今の標準だ。 野生獣類の場合、かなり大きめのBatteryが積めるGPSトラッカーが使用可能な中・大型獣でも、データの吸い出しのための通信ではいちいち電気を食うし、最終的に遠隔操作での首輪の切り離しや、落下後も含め、探査を行う時間に、方向やおおまかな位置を特定できるようにビーコンを発信させる必要がある(そんなに距離は飛ばない。三角法使えばそれこそ原始的な測地のテレメ調査調査ぐらいできる。機材も良くなっていて、周波数帯も短いので、FMを使ったトラッキングの黎明期に使われていた50MHzの電波よりも圧倒的に方位は先鋭に出るが、稜線は越えない)。もちろんデータ吸い出しや位置の特定をする必要がない期間や時間帯を設定して、バッテリー・セーブに務めるわけだが、急峻な地形では測地に失敗して、消耗したりすることを念頭に、1時間に1回で、2年程度追跡できれば御の字だ。データ単位としては、2年間で17,520データ単位という計算になる。いかにチコのデータが密度高く取られていたか、という話になる。せめて、15分に1回とかにしたいところだが、長期間追いたい場合は、無理な注文である。 Kernel法によるチコの行動圏の可視化では、彼の定常的なホームレンジサイズは2.40haほど。マイグレーションを行わない場合のイエネコのホームレンジサイズとしては大きな方だが、それでも200m×100m程度の大きさということで、割と大きい方だが、一般的なイエネコのホームレンジサイズの中になんとか収まっていた。これを1年間追跡していたらどうなっていたかわからないが、彼が体躯が大きな猫であったとはいえ、GPSロガーのサイズが、中途半端に大きかったこともあり、チコのトラブルを思って、GPSトラッキングはその後、行っていない。どちらにしてもkernel法の一番の問題点である自己相関データが増える結果にはなる。 この成功体験の結果、チコにとっては、他人様の家屋は、調査して、ネズミがいたら駆逐すべき狩場として認識されてしまったので、私がご近所に用があって行く時に、一緒についてきて、家の中の調査ができるように交渉しろというのが常になってしまった。また、別のお宅の家に遊びに行ったら、私が預かり知らぬ状況で、既にそのお宅の二階にベランダ伝いで勝手に上がり込み、チコは調査を始めていたりしたりしたので、苦笑するしかない状況もあった。 本当に、君はなんて子だったのだろう! Local Convex Hullによるチコの行動圏(面積 1.7ha )の可視化をやってみた。Kernel法の描画の方は99%範囲までで、ちょうどチコの足が西に向いたときに出かけていった場所は、除外されているが、こちらは、全部考慮して書かせているのもあって、尻尾みたいに伸びた描画がされている。本当なら、時系列解釈を加味してくれるT-LoCoHの方が良かったかなと思っている。 Kernel法は、プロットの一番外側を線で繋いだだけという処理の最外郭法の問題を是正するために見出された、それでもやっぱり古典的な行動圏解析の方法で、それこそWindowsマシンの始祖ならMS-DOS、やMacであればHyperCardの時代から解析ソフトが存在した代物だ。その当時はもちろん、データ数やメッシュ区分は今のように細密ではなかったが、角の目立つシェイプで表現されていた。そのおかげで、面積は比較できるパラメーターとして、役に立ってきたが、いくつかの欠点も指摘されている。 実際Kernel法の一番の問題は、本来はデータが独立して同一に分散されていることを前提としているのだけれど、一般的に使用される動物追跡データは、本質的に自己相関があり、この重要な前提が崩れている。野生動物の保護管理のために自己相関データを使用すると、ホーム レンジが大幅に過小評価される問題が生じる(Katajisto and Moilanen, 2006)。これはGPSトラッキングデータが得られるようになって、すぐに指摘された。 それで、LoCoHの解析によるホームレンジの分析ということだが、手順自体のプロコトルは至ってシンプルだが、プロットが多くなると、Rのようなインタープリターでは、CPUパワーを食う。こちらはこちらで欠点がある。 また、この手法には、多角形を作っていく手順において複数のオプションがあり、またその手順において考慮する範囲となるパラメーターも適当な値を見つけないといけない。手順とパラメータの組み合わせで、描画される行動圏も変化する。どの手順を選び、パラメータをどう決めていくかというスタンダードは各自で判断といということになる。自分の研究の中で完結するような仕事なら良いが、他の研究との比較となると、そこに合わせることになるが、複数あれば同じまな板に乗せるのは少々面倒な話になる。Kernel法は、古典的すぎるゆえに、膨大な比較研究があるし、信頼区間を合わせれば単純比較が可能だ。今は自己相関を考慮したKernel密度推定法を使う方が既存研究との乖離が少なくて良いかもと思っている。ただ、これも割と曲者だったので、scriptの修正でちょっと苦労した。 LoCoHの方は、数百プロット程度だと、そんなに早いマシンでなくても一瞬で求められるのだが、プロットが5,000とか10,000近くなると、ちょっとCPUパワーを食う。私の9年落ちの8年落ちのMac Book Airではもちろんきついし、そもそもそんなに早いマシンは持っていない。メモリ16GB、8Core i7のLenovoのぶら下がりで9分もかかった。いくつかのオプション計算をさせるとなると、データを先に編集してスクリプトつなげて結果も描画含めて書き出しすようにして回していると1時間ぐらいは平気でパソコンブンブン回っている。ノートPCにやらせるのは、ちょっとしんどい気もするが、私の使い方としては別に普通である。 それでもLocal Convex HullはKernel法と違って、チコの足跡を延々とトレースしながら(GPSプロットは5秒ごとに記録されている設定なので近傍点は必ずしも時系列ではないが、かなりそれを追っている形になる)彼の行動圏を可視化してくれるので、Kernel法のように利用してないところまで塗りつぶされることはない。空隙にはちゃんと意味があるし、その利用面積も正確である。残念ながら、それなりのCPUに仕事をさせる面倒さとコスト、歴史のあるKernel法と違ってこの解析を採用している研究事例が少ないのと、解析時のパラメーター設定が煩雑で、比較をしようとすると、最後は、他人のプロットデータでも借りられれば良い方で、どちらにしても自前でやるしかなくなるという部分が弱点だ。KernelとLocal Convex Hull、両方やった方がいろいろ発見はある。 チコの足跡を辿るつもりで、あらためて、彼の訪れた場所に行ってみたりした。探索しただろうなっていう場所もあれば、何も特に目を引くものはなかったりする場所もあった。後者は、おそらく当時、別の猫達がそこにいたり、彼のパトロール上、重要だったのだと思う。このホームレンジはチコに固有のもので、彼そのものだった。
本当に、君は日々、君らしいやり方で真面目に猫をやっていたのだなって思う。
毎回真面目な顔をしてだかけていくのを見送りながら、とてもじゃないが止めることが私にはできなかった。
君はよく、生きたね。
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