それに対して、コメント欄でちょっと興味深い本を紹介くださった方がおられた。
私は全く知らなかったのだが、実際の話ということで、以下の書籍だ。
” Lost Cat: A True Story of Love, Desperation, and GPS Technology(原題)”は、2013年にアメリカで出版されており(日本版は2018年)、教えていただいた本を早速読了して、あらま、私と同じようなことをやっていた方がアメリカにもおられたのだなって思った。
まあ、それも当たり前で、研究のアイデアなどでもそうだが、深淵を覗き込む時「自分だけでなく、隣を見たら同じように深淵を覗き込むものが居たりする」ことを知ったりもするのだ。ニーチェも、そうとも言う、って言ってくれないだろうか。
以下はなるべくネタバレにならないように書いたつもり。
著者キャロライン・ポールさんはティビィ(♂)とフィビィ(♀)という二匹の猫と暮らしていたのだが、ある時ティビィは、5週間も行方不明になり、パートナーのウェンディ・マクノートンさんと二人で毎日声を上げて探索したり、迷い猫の張り紙をするなど懸命に探すが、見つからず、でもあるときティビィはあっさり無事に帰宅した。戻れなくなって苦労したり虐待されたり、閉じ込められたのではと想像していたキャロラインさんは、健康なまま、体重も増えて戻ってきた愛猫の謎を、なんとか知りたいと考える。
彼が何のためにどこに行って、なぜそんなに長く戻ってこなかったのか、ティビィの謎をどうしても知りたくなった彼女は、GPSを装着し、移動先の位置座標の記録を取り続けることで、彼の行き先を特定し、捜索中も行っていた張り紙をアレンジして、近隣住民からの情報を収集しようとする。
様々なことを試して、彼が何のためにどこに行っていたのかというミステリーを、解明しようとする物語だが、挿入されているウェンディさんの画がとても可愛いし、マップも楽しい。ティビィもビンチョウマグロ、日々の食事メニューにあるのが図解されてるし(流石に刺身ではないようだ)。割と短編的な文書量で、一気にティビィの謎が明らかになる最後まで流れ込む。そんな本だ。
途中で、想定外の悲劇が生じたり、わらをもすがる形でティビィの行方を尋ねた霊能者が確信に迫ったこと言ってる感満載だったりするけど当てにならなかったり、まあ、色々あります。
ネコにはネコの独自の事情が各個体にあるので、仮にネコが戻ってこなくなったとして、決してこの本のようなことが、必ずその個体に起きているわけではないのは改めて書く必要はないかもしれない。だからLOST CATの状態を楽観視できるとは限らないしそのまま戻らないことも普通だ。他の猫のテリトリーにはじき出されて、ホームから逆方向にどんどんはじき出されて、というようなストーリーも見るが、これも複数個体のGPSをつけてそんな現象が生じているって証明できるだろうかって思ったりする。必死で里親が探しても、助けに行かないとだめな場合、それすら無理な場合もあるだろう。
でもティビィが長く家を開けた理由というのは、チコのお陰で、わからないでもないなと言う気がした。特異点について、この本に出てくるような状況があっても、チコの場合はそうはならなかったとは、私は考えている。チコにも一時エスケープサイトみたいなところはあって、体調が悪くなると、獣医に連れて行かれるのを嫌がって、そこに隠れるようになったりすることがないか、かなりしつこくチェックもやっていた。よそのお宅の畑の納屋や倉庫、使わなくなったガレージだったりしたので、飼い主の責任としてご近所とのコミュニケーションも必須になる。
ちなみにGPS装着トラッキングのプライオリティの話ではなくて、キャロラインさんの使われたGPSロガーは、私にもAmazonで見覚えのある方形の製品で、基本的にチコと同時期ぐらいだと思う。あの頃、ネットを見渡すとそのタイプの小型のGPSロガーを猫につけたれている方がたしか他にもおられた。ストラップをブラブラする感じでつけていて、野生動物調査経験でもないと、そういう付け方は引っ掛けたりして千切れて猫が戻ってこられるならいいけど、とんでもない事故になったりすることまでは考えないのかと思ったのを覚えている。いや、経験の問題ではない。ちなみにキャロラインさんの自作のケースによる装着は、猫のみに起こる事もしっかり考えられているのが理解できた。💯点だ。
でも、実際に得たデータを元に、更に猫探偵をやって、想像もしなかったものをいくつか発見し、謎解きが進むにつれて、キャロラインさんは家での自分がやってきたティビィに対する状況を顧みたり、パートナーのウェンディさんは、最初はどちらかと言うとネコは苦手だったのが、どんどんネコバカになっていく様子など、とてもスリリングで興味深いミステリーの種明かしがある。チコのそれについては驚きはあったし、最初のデータが取れて、彼の行動を可視化したときには感動した。しかし、GPSデータについては、出かけていっていた驚きの特異点もあったけれど、範囲や彼のホームレンジの広さについての驚きが一番だったかもしれない。
私は、一緒に彼と動いて、色々私に見せてくれていたので、そういう意味での驚きはあまりなかったと言えるかもしれない。探索に昼寝に生き物の観察やご近所への挨拶、近所の子どもたちと一緒に遊ぶなど、私と一緒にも動いてくれた猫だというのが、彼と濃密に過ごせた時間やその時の発見が、やはり私にとっては、彼の形見なのだ。
本書の地図は、位置を特定されないようにランドマークやポイントを隠したり、スケールが入っていなかったりするわけだが、自動車の長さを5m弱とすると、チコの持っていたテリトリーよりちょっと小さいぐらいかなというようなサイズだった。住宅のバックヤードが広く、それがずっと繋がっている状況は、大通りに出なくても安全にネコが動き回れる環境が提供されるなって思ったりした。町中だからあまり生物多様性の脅威になるような環境でないというのも、自由飼い猫の話としては、今読んでもストレスは少ない。交通量が少ないのもあるかと思うが、緑地帯を持つ大通りも、ティビィはちょくちょく超えている。アセスメント(利用環境の調査)、頑張っている。
特異的な重点使用領域は、今なら、こうやってカーネル分析やれば一発だが、私がそのツールを作れたのは、Rの1.7の時だから、2003年ぐらいだ。QGISもホームレンジ分析をプラグインするだけで、できたのは、それがサポートされていた僅かな期間で、以降は誰もフォローしてない。
キャロラインさんとウェンディさんは、ティビィの動いた軌跡の派手な重なりを見て、最初はかなりびっくりして、読み取るのに苦労している。むしろ、点だけをでかいシンボルで表示させて、それらを結ばない方がわかりやすいですよって、その時に見てたらアドバイスできたかもしれないが、ウェンディさんは目を凝らしてみて、特異点を特定している。私はGoogle Earthでポイントシンボルを大きくして見ていた。
またキャロラインさんは、GPSデータを読み込むGISソフトとして、ご覧の通り、Google Earthを利用しているのだが、私も2008年の当時は、そうだった。
関連ソフトとして登山者向けの地図ソフトとして作られた「
カシミール3D」の販売は1994年だが、まだGISを処理させて解析に使うような方向性のソフトではなかったし、地理情報システムソフトウェア製品
ArcView 3.x発売が1995年(2000年にArcGISに製品ラインが置き換えられる)だが、大学、かなり利用比重が高いラボや資金のある民間ラボなら当たり前のように存在するソフトで、私の所属していたラボにもあったのだが、セットで200万円近いものを個人のパソコンに入れて、動かしてる人は居なかった。Parallels desktopのようなまともなWindowsエミュレーターもそれを動かせるパワーのあるMacなどなかったし、Mac派は今でも、本来は無縁のソフトだったということもある。
そしてMacでも使えるクロスプラットフォームのオープンソースソフトウェアとしてGISソフト
QGISが世に出たのは、チコのGPSトレースをやった翌年の2009年。ビンボー人のARCと呼ばれつつ、立派なGISソフトとしてしっかり成長し、地理空間情報データの閲覧、編集、分析機能の標準ツールとなり、多くの研究者、技術者がGISデータを扱えるようになった。私が本格的に使い出したのは2010年ぐらいからだったと記憶している。
QGISではGoogle EarthデータもTileレイヤーとしてそのまま使えるので、国土地理院地図、OpenStreetMapに加えて、こんな画も出せる。便利になったものだ。
「
Telemetry覚え書き7〜見えてきたチコの秘密」を書いたのは2008年 09月23日。このGPSロガーも懐かしいが、単三電池で動かせるので、チコが戻ってきたら充電の時間が必要なく、F1のピット作業よろしく、パッテリー交換できてさっと出撃してもらうことができた。大柄な彼だから使えたわけで、ユッチにはトングル型のリチャージブルタイプを使っていた(当時あまり精度が良くなかった)。
現在は株式会社OND代表取締役社長(HATENAは非常勤取締役)である近藤淳也氏は、大学時代は、京都大学理学部地球物理学専攻。理学部卒業後、同理学研究科測地学研究室におられたこともあったということで、ITベンチャー企業人であるということぐらいしか知らなかったが、GIS含めて、その方面はもともと専門であられたということのようだ。そして、
私は何度も興味深く取り上げてる、ヒト長距離追跡型捕食者説の関係で興味を持った、トレイルランニングの大会開催や、ライブ配信と計測のための IBUKI GPS を提供などもされているということだった。ありゃりゃ。いつ知った?今知った、という話が最後のおまけである。