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マングースとカニムシ

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 後輩と森林性の野ネズミのライブトラップ調査をやっているとき、アカネズミの一頭にカニムシが着いていた。「先輩、カニムシ居ますよ。」カニムシだというのは私も知っていたが、明確な種類までは二人共その場ではわからなかった。その後、無脊椎動物の大学教官になった後輩だったが、それをしげしげと本当に興味深く観察していた。ミニチュアのサソリみたいな形態で、ともかくカニムシは格好良かった。
 当時、野ネズミたちを薬浴させたりしていなかったが、場所によってはツツガムシなど着いていることもあった。野ネズミたちを薬浴させてドライヤーで乾かすのを教えると、女子学生には特に人気だった。気持ちよさそうに目を閉じて温風にあたって大人しくしている野ネズミたちを、ふっくらとボリュームのあるセットをして楽しんだりしていた。
 私達がフィールドにしていたIBPのプロジェクトの跡地では、そこのアカネズミとヒメネズミたちには、マダニ類は縁遠くて、今で言うSFTSなどは気にしたこともなかった。

 そのカニムシがアカネズミやヒメネズミなど森林性の野ネズミをタクシー代わりにして、移動しながらマダニを捕食している天敵である可能性があるという研究。2018年のものだ。とてもありがたい発見で、いろいろなことを示唆していて興味深い。ここの森林総研のチャンネルでも解説されている。ヒメネズミ可愛い。流石に研究者の仕事なので、非常に慎重に書かれている。通常、あるエンクロージャー内で、マダニをやってそれを食べたら、「マダニの天敵だ」って言ってしまう人は多いと思う。あくまで可能性があるという話だ。ヒメネズミ可愛い。


論文の方はこちら 。この頼もしいカニムシは、オオヤドカリカニムシMegachernes ryugadensisという種とのこと。
Tick predation by the pseudoscorpion Megachernes ryugadensis
(Pseudoscorpiones: Chernetidae), associated with small mammals in Japan*
Kimiko OKABE1†, Shun’ichi MAKINO1, Takuya SHIMADA2‡, Takuya FURUKAWA1,
Hayato IIJIMA1 and Yuya WATARI1
J. Acarol. Soc. Jpn., 27(1): 1-11. May 25, 2018

 ともあれ、カニムシが特にアカネズミやヒメネズミを移動に使用しているのはとても有効だと思う。

 トップの画像は某所で林床植生がシカの採餌圧でぼろぼろになっているところに、シカの防除柵を設置して、そこだけが植生回復して、おそらくシードバンクだけではなく、流下してたどり着いた種子群から臨床植生が回復した場所だ。ここに巣箱とご覧のようにベイトをおいてみたら、センサーカメラにアカネズミが撮影されていたというものだ。ちなみに、この日本鳥類保護連盟製の「バードハウ巣」は、既に廃盤になって久しいと思われるのだが、何故かラボにストックがあったので使ってみた。A4の封筒で送れるのと、1,000円という値段、適当に朽ちてなくなってくれるのでスズメバチの巣になって慌てて撤去する必要がないというのが売りだったが、今の販売グッズコーナーからは消えているので、なにか理由があったのだろう。私的には森林性野ネズミやヤマネの研究にも利用できると思うのと、何より嵩張らずたくさん運んでも軽くて楽なのが良かったのだけれど、復刻しないだろうか。

 見渡す限り、林床スカスカの空間が広がっていて、「果たして君は一体どこからやってきたのか?」、少なくとも100m単位どころでは無いだろう森林からの移動と考えられたが、詳細は控える。場所を言えばそこを知るものはその状況に私が驚いたことは納得してもらえる。いや、森林性野ネズミのイメージができていないと、無理か。
 ヒメネズミは10m近い高さの鳥の巣箱も利用できる樹上性適応能力は知られているが、この一見取っ掛かりのないしがみつきにくそうな幹やハングのある餌ケース、段ボールの登坂しやすいとは思えない巣箱の穴に難なく入り込めるので、対比されてそんなに木登りが特異でない印象を持たれるアカネズミの樹上利用能力も決して低くはない事がわかる。エゾヤチネズミでも何もない場所地上50cmに燕麦を一粒置いておいたら、それを探査して食べに来ているという実験結果がある。
 アカネズミは地表での探査、移動能力に長けているから、生活史としてそちらを生かしているということではあるが、木登りが苦手な野ネズミではないことも確か。

 より利用資源の多いところを発見してそこを探索、移動する能力に長けている小さな動物と言える。海外の同属種のデータだが10分間で1km移動するという事例が知られている(著名な1980年代のApodemusのシンポジウムのプロシーディングスに掲載されている)。実際に国内の発振器を用いたラジオトラッキングの仕事でも、基本夜行性のアカネズミは、毎晩、数百メートルを平気で移動する。彼らの向かう先は、種子や無脊椎動物軍などの餌資源が豊富な場所で、それらは他の多くの獣類にとっても、間違いなく森林内での資源も豊かだと思う。アカネズミは森林ではない淀川の河川敷でべらぼうな個体密度になったりすることもあるのだが、それらは完全に森林とのリンクが切れている場所ではなく、むしろそれは担保されていて、森林内での餌が十分でない場合は、農地やそういった場所も利用可能な結果である。海外のApodemusでヨーロッパ大陸で一番メジャーなApodemus sylvaticusとかは、'wood mouse'がその英語名だが(和名「モリアカネズミ」)、’farmland mouse(農地ネズミ)’って呼ばれたりもしている。森に棲んでるはずが農地もメジャーな存在として利用していることが知られている。属名Apodemusは「人家から離れたところに棲むもの」という意味だ。

 野外でのカニムシが餌とした場合のマダニの遭遇頻度に付いてのデータ(こういうのは選択率に関わってくる。遭遇する確率が限りなく低ければ食べようがないという単純な話)、また、実際にそれを餌資源として利用しているかというデータはない。これは実際に証明しようと思うと、かなり骨が折れる部分だ。大きな動物であれば、片っ端から捕まえて、胃内容物についてDNAシーケンサーにかければ、今どきはかなりのことがわかるが。カニムシすりつぶして、マダニのDNA部分が検出されればという乱暴な方法で確認を進められるのか、どうか。それ故に今後の研究の部分につなぐことが求められる。一定の確率でマダニを食べてくれている可能性はあるが、『マングースの矛盾』と言う話がある。
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 マングースは沖縄、奄美諸島におけるハブ駆除効果を期待して生物防除動物として各島に導入された。残念ながら、彼らは特にハブを探索して襲って食べるなんてことは殆どやらず、在来の希少な哺乳類、鳥類、昆虫等無脊椎動物をメニューにするだけだった。かつてはハブとマングースを戦わせて見世物にするところが、奄美諸島を気楽に訪れられない時代では、鹿児島の指宿や錦江湾内の観光サイトで何軒かあったらしい。そこからの発想だと思うし、多分TVでもやっていたのではという気もする。完全に、勘違いのイメージを拡散させたわけだが、いくつかの効果的な追い風もあって完全な絶滅に至った。本土喜入個体群はどうやらそういうショーに使われた個体の籠脱けか放獣によるものであったようだ。奄美の個体群も終息宣言が出そうで、なんとかなった。残り沖縄の個体群対策だけとなっている。関係者の苦闘を称える。
 エンクロージャー内の実験は、とても参考になる場合もあるが、自然界では起き得ない状況を設定して観察しても、それは野外のシミュレーションにはならないかといいうことにもならない。野外観察データでないと絶対駄目で、エンクロージャー内実験が意味をなさないかというと、そんなこともない。意味を持つか持たないかというのは、個別の話ではある。
 カニムシとマダニの話は、もともと自然界で繰り広げられている可能性は両者の生息域やカニムシの行動から類推しても、そのような齟齬が生じるレイヤーのものではないのだが、こういうのも単純なアナロジー感覚で機械的に判断して混乱してしまう人もいるかも知れない。

 ともあれ、サンドワームを乗りこなすポール・アトレイデスよろしく、カニムシが、野ネズミ・ライダーをやってるのは、かなり、上手いやり方に思える。もしもアカネズミの体の上や彼らの巣穴の中で、マダニ類を食べていたりすることがあったら、片利共生から共生への格上げになるかもしれない。

 最近、ギンリョウソウの微小な種子が、ワラジムシなどの無脊椎動物により丸呑みされて、消化管を経て糞として出されたところで、まるで鳥か獣類みたいな方式の種子散布をされていたという末次先生の仕事が話題になっていたが、スケールが小さくても、生き物の営みは体の大きさに関係なく、ある意味複雑であったり単純であったりするのだなぁと思ったりしている。ネコノミが幼虫時代にサナダムシの卵を餌としているホコリなどと一緒に飲み込んで、そのノミを誤食した猫にサナダムシが入り込み寄生が完成するという、なんとなくスケールが逆転しているような話を思い出すが、アダルトのステージがどうであろうが、卵や種子を微細にデザインしている生物の場合、それに関わる動物群もまた、微細な動物が活躍するのだなと感じている。

 昨晩は、ぺんどらさんの小さき者たちの動画をワイフと夢中になって視聴していて、気がついたら1時間以上経っていた。




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by complex_cat | 2024-07-03 09:51 | Wonderful Life | Trackback | Comments(0)

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