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AIと動物たち

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 AIによる生成イラストを色々見ていると、どうやって学習してくるのか、その背景の膨大なデータが何なのかよくわからなくなる。
 森林性野ネズミ(Woodland rodent)を学名指定しても、どうやっても描かれる動物はハムスターになってしまう。AIが特にマクロ生物系の専門家の仕事をサポートするには、色々雑すぎる事が多い。パワポで鹿の画を書かせると、デフォルトだとアカシカ系の鹿になる。ニホンジカみたいな角を持ったシカにはならない。使い方には試行錯誤と工夫が必要になる。最近ギリギリ、スクリプトをいじってニホンジカっぽいのが描けるようになったが、お、マシかなって思うと、袋角っぽかったり、打率はそんなに高くない。ろれらしい画を描くのは可能なのだけれど、対象の描写お解像度を満足なレベルい上げるのは、今のところフリーの生成AI画像では無理な話だ。
 なんとなくそれっぽい、可愛い動物の画を描いてくれるという使い方以上は無理だと思っている。
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 Apodemus属の野ネズミについての話だった。日本産のアカネズミ (A. speciosus)、ヒメネズミ (A. argenteus)に比べると、キクビネズミ Yellow-necked mouse (Apodemus flavicollis) and モリアカネズミ wood mouse (A. sylvaticus) の形態的な差は少ないので、描き分け無理だろうとは思っていたが、そんなレベルではなくて、どっちもハムスターになるとは思わなかった。AIにはまともなレベルの生物種のかき分けは無理なレベルだろう。これは、学名や英語名などの情報を入れても、そもそもそれで引っ張ってこられる種別の画像について、他のネズミ類との外部形態的な特性や違いを読み取るところまではいっていないのか、野ネズミ→可愛いハムスターぐらいにしか変換無理っぽい。因みにハムスターの野生種は森林性ではない。
 なんとなく生物センスがない人と話しているようで、それはそれでとても興味深い。

 AIにテキストベースで両種の同定について尋ねると、これは比較的まともな答えが帰ってきた。少し前のエントリに、輪島塗の刷毛の毛の話で、AIがクマネズミの毛を使っているという間違って伝搬してしまった説に見事にハマっていることをお伝えしたが(「鼠と伝統工芸~輪島塗とドブネズミの歌」)、まあどちらかというと突っ込んだ質問をしていると今のAIの仕組み上、信じられないウソを付くことのほうが多いから、間違っていたこれまでの通説をドヤするぐらいは、まだマシだなと思う。
can be distinguished by several key features:
Neck marking: The most prominent difference is the yellow-brown band or "collar" around the neck of the yellow-necked mouse. The wood mouse lacks this marking [4].
Size: The yellow-necked mouse is slightly larger on average than the wood mouse.
Distribution: While their ranges overlap in many areas, yellow-necked mice are more common in woodlands and southern parts of Europe, while wood mice are found across a wider range of habitats in Europe [5].
Behavior and habitat preferences: Wood mice tend to be more generalist in their habitat choice, often venturing into open fields, whereas yellow-necked mice prefer dense forests.
These features are commonly used to tell the two species apart in the field.

🌐 Sources
aflo.com - Yellow-necked mouse (Apodemus flavicollis) on hazel ...
jstage.jst.go.jp - アカネズミ(Apodemus speciosus)の行動圏
mammal.org.uk - Yellow-necked mouse
en.wikipedia.org - Yellow-necked mouse
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov - Infection of wild-caught wood mice (Apodemus sylvaticus)
「首の文様: 最も顕著な違いは、キクビネズミの首にある黄褐色の帯または「襟」状の模様である。モリアカネズミにはこの文様はない。
サイズ: キクビネズミは、モリアカネズミよりも平均してわずかに大きい。
分布: 両者の生息域は多くの地域で重なるが、キクビネズミは森や南ヨーロッパでより一般的である。一方、モリアカネズミはヨーロッパ全域のより広範な生息地に見られる。
行動と生息環境: モリアカネズミは生息環境の選択においてより一般的で、しばしば開けた畑に進出する、キクビネズミは樹木が密集した森を好む。これらの特徴は、フィールドで両種を区別するために一般的に使用される。」

 テキストベースの質問にはらしい回答ができても、生成AIの常識としては入らず、あるいは表現は不可能という状態みたいではある。最後に挙げてある参考文献についても、分かる人間が見たら「それ?」って思ったりするわけだが、基礎知識をまともな図鑑や文献ベースで学んでない人は、これもあっさり騙されるだろうぐらいの解答はしてくる。AIは今のところ、どうやったら専門知識がない人間に嘘がつけるかという事案を提示してくれる事が非常に多い。

 少し補足すると、日本産のアカネズミ (A. speciosus)、ヒメネズミ (A. argenteus)は、どちらも森林性で、それなりに樹上など巧みに登って立体空間を上手く利用できるが、半樹上性以上の立体空間利用は圧倒的にヒメネズミのほうが長けている。地上数1.5m程度の高さに巣箱を掛けたり餌場を作ったりすると、アカネズミでも利用できるが、それ以上の高さとなるとヒメネズミの独壇場だ。外部形態も、見る人が見れば、アカネズミ (A. speciosus)とヒメネズミ (A. argenteus)では、かなり異なる。ちなみに、ほとんどのフィールドワーカーがそう思い込んでいるが、ヒメネズミは尾率の長さだけが彼らの樹上利用の特性ではない。それでも体躯はアカネズミの方が圧倒的に大きく、最大2倍位上の体重差があるが、アカネズミは水平方向の移動に長けていて、ヨーロッパで同じニッチにあるモリアカネズミは、発振器を取り付けた研究では10分間で1km以上移動する能力がある。日本産アカネズミも、発信気をつけた探査では毎日数百メートルの巣穴の移動は頻繁である。ただ、ヨーロッパ産のキクビネズミとモリアカネズミの方が明らかに日本産の二種のApodemusよりも外部形態の差異が少ない。そしてモリアカネズミは英語名や和名などから森のネズミということで、たしかにそうなのだが、わざわざ彼らはfarmland mouseと言っても良いといわれたりするほど農地にも進出している。これもアカネズミの特性、ニッチとよく似ている。そしてキクビネズミはそうではなくガチで森林が基本生息地、で立体空間利用に長けているので、ヒメネズミタイプと言っても良いと思う。

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 AIに適当な犬だ、猫だ、ネズミだみたいな画を描かせるのではなく、明確に種を特定して、描かせてみると、仕事の挿絵ぐらいになんとか使えないかなと思ったりするマクロ生物系の人間にはほぼ使い所はなさそうというのが今の状況。
 タヌキ Nyctereutes procyonoidesは本来は大陸は朝鮮半島から中国など、極東に生息する生物だが、毛皮目的でタイリクタヌキを西ロシアに入れた飼育個体が外来種化して、ヨーロッパ圏に勢力を拡大している一方で、北米産の全く科レベルでイヌ科とは程遠いアライグマに似ていることからracoon dogと呼ばれている。それなりに知名度があったり、本来生息していない旧大陸の多くの国では、珍しがられる希少な動物でもある。それでAIに描かせると、顔はアライグマにもタヌキにも見えるのだが、尻尾は完全にアライグマという謎生物を描いてくる。そういう事案は、ツル類の画を書かせても普通に発生したので、精度の高い画を書くのは無理なのは理解した。   
 汎用の生成AIではカバさん、ゾウさん、ネズミさん、みたいな幼児的な生き物たちの区分での描き分けはできるが、生物関係の画は限界は低い。「うるちゃい!これがタヌキさんなの!」みたいに、頑固な幼児同様、どういう修正指示のスクリプトを加えても画は変わらない。尻尾という部分の修正だけなのだが、自転車描かせても経験したが、汎用生成AIにおけるパーツ修正はそういうアプローチでは無理のようだ。現時点では、誰も見たことがないものを描くのはごまかしが効くが、リアルな存在を人間が深い知識と技術により描く作品に対抗できるレベルではないのは明確ではある。
 今は色々進歩が早いので、こういった話も、あっという間に思い込みが裏切られることも予定路線なのかもしれないけれど、危急的に、そちらの方に需要があるともあまり思えない。

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by complex_cat | 2024-10-20 10:02 | Wonderful Life | Trackback | Comments(0)

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