フィールドでは、ざまざまな動物の死体に遭遇する。多くは調査地点との往復の途中の道路でのロードキルだが、林分内だと、死因がわからないものもある。 奄美で見つけたリュウキュウイノシシの死体。くくり罠のワイヤーを食いちぎって逃走後、ロードキルか?あるいは、脱出までの強烈なストレスで循環系、内蔵トラブルで?というような死体。チェックや解剖する余裕も道具もなかったので、死因は分からなかった。後で見に行ってみるとちょうど有志が道路脇に移動させたとのこと。 その後、ここに訪れる機械はなかったので写真は、借り物。亜熱帯環境、冬季も昆虫の影は完全には消えないが、5月なら十分どころではない活動量だ。既に数日前までは全身を覆っていたウジは分散、蛹化を始めて体の後ろの方にしかいない。10日間でここまで分解が進んだ。分解者というよりはバクバク死体食いのハエ類のウジ虫が活躍したことが大きい。ついでに書くとまともな骨格標本を作ろうとすると、ウジに食わせるのはダメだというラボもある。骨部分が専門だと、軟骨部分だけではなく硬骨もかじり取ってしまうからとの話。小型哺乳類ならなおさらなので、腐肉状態でもそこから鍋で煮て、丁寧に肉を取り除くみたいな話を聞いたことがある。 当時のあまり良くない携帯デジの画像だが、この白い山のように見える部分がウジ。私が発見した数日後から全体をウジに覆われていたのが、10日であらかたクワれ尽くして、ウジが残っているのはこの部分だけになった。死亡してから僅か,10数日間の出来事。 山で死ぬということは、肛門からセンチコガネに入られて腸管ずたずたにされて、シデムシや上階本の幼虫などに中身も切れ切れに食べられたり、一個師団のウジ虫にたかられて見事な白骨標本にしてもらえるということだと個人的には思っている。山でなくなった人は、森林限界超えた高標高地なら多少は違うが、死に顔も含めて、きれいな死体で発見されるというのは、悲しいことにかなり難易度が高い。それを知っている人たちは、速く遺体を回収して遺族のもとに返そうと奔走されるのもよく分かる。 ロードキルのアナグマ。小型獣はひとたまりもない。よくシカやヒグマなどの大型獣が車と衝突して、そのまま逃げ去っていくのも見て、皆、野生獣はタフで丈夫だと勝手に思っているが、自動車というのは、衝突部分からものすごいエネルギーが入る。直後から診察治療ができないと、大型獣でも多くが循環系、組織に不具合が生じて、死に至ってる場合が多いのはあまり知られていない。捕獲して、ストレスを与えないことを含め細心の注意を払っても、その後のGPSテレメの追跡で、死亡に至っているという事例は多い。走り去った=元気で大丈夫ということではなかったりする。
この研究紹介の取材記事は面白かった。
「食肉目は食肉目の死体を食べない」という結論になるほどなと思った。ほとんどすべてていって良いほどハエのウジがそれを平らげる。屋久島で、有害捕獲で捕まえたヤクシマザルの死体を、かなりずさんな形である谷に放り込んでいて、それを餌資源にして外来種のタヌキが増えたという噂もある。既にそんな「雑な」捕獲個体の処理をすると問題になる時代になって久しいので、流石に今はないだろうし、結果的に検証のしようもないが、ヤクシマザルの死体ならタヌキは食べたかもしれない。或いは腐肉に集るシデムシや肛門から入り込んで糞食をしながらも消化管をずたずたに食べてしまうセンチコガネが目当てであっても、非肉食獣の死体は、タヌキにとっては資源だったろう。しかし、肉食哺乳類という話になっているが、日本産のテンは世界中で最も果実食依存が高く、アナグマも雑食だし、ニホンザルも同様だ。やはり食肉目vs食肉目の関係に限定するのが前提のほうがややこしくなさそうだ。
データベース内の関連研究についてはここにある。2020あたりからの橋詰氏による成果だ。
本研究の目的は,人為的な環境改変による死体利用者の変化が,病原菌の蔓延リスクの低減という生態系サービスに対してどのような影響をもたらすのかを定量的に評価することである.人への感染リスクが高い病原菌を簡便かつ高感度で検出できる食品衛生用の検査キット「ペトリフィルム培地」を活用し,さまざまな景観において,1)死体除去機能を果たしている動物種の特定及び処理速度の評価,2)死体周辺への病原菌拡散量の定量化,3)階層ベイズモデルによるこれらの結果の統合に取り組み,人為攪乱に対して脆弱なモンシデムシ類による特異的な貢献を明らかにする. 脊椎動物スカベンジャーによる除去効率は,死体の種類(由来する種や分類群)によって異なる。本年度はまず,調査地である房総半島南部地域において,どのような種がどのように分布しているかを調査し,実験に使用する適切な動物死体の種類を検討することにした.調査地を2kmメッシュに区切り,メッシュ内にランダムに計200台の自動撮影カメラ(Strike Force HD PRO,Browning社)を設置した.3か月に1回程度,カメラのメモリーとバッテリーの交換および点検を行った.この結果,イノシシ,アナグマ,タヌキ,アライグマ,ハクビシン,ネコの6種の潜在的な脊椎動物スカベンジャーが生息していることが分かった. また,大学の実験室において,ペトリフィルム培地と実験用マウスの死体を使用し,病原菌拡散量の定量化のための予備実験を繰り返し行った.対象は大腸菌,黄色ブドウ球菌,およびサルモネラ属菌とした.予想していたとおり,死体からこれらの病原菌が検出され,時間とともにコロニー数が増加することが分かった.現在,この予備実験を踏まえて,野外で実施するための実験プロトコルを作成中である.
少し話変わって、こんな話もある。
京都府内では、シカの個体数増加により、様々な場所で森林の下層植生が著しく衰退している。京都府内の4ヶ所の下層植生が衰退した森林(芦生、芹生、八丁平、日吉)で計33個のタヌキのため糞場に生える植物を観察したところ、そのような森林であっても、タヌキのため糞場では、植物がシカの採食を免れ、生い茂っていた。さらに詳しく調査をすると、ため糞場内の実生の種数、ラメット数、サイズはいずれも、ため糞場外よりも有意に大きな値であることが分かった。同時に、芦生でカメラトラップを設置し、ため糞場でのタヌキとシカの行動を記録したところ、シカがため糞場を忌避する行動が観察された(長野ら 2014)。この忌避行動の要因を解明するため、糞の臭いに着目し、シカが森林で遭遇しうる哺乳動物11種(シカ、カモシカ、ウサギ、サル、イノシシ、クマ、タヌキ、アナグマ、キツネ、ハクビシン、テン)と、オオカミ、ライオンの計13種の動物の糞の臭気分析をGC-MSによって行い、臭気成分構成の類似性をnMDSを用いて調べた。また、それらの糞の臭いに対するシカの反応を調べるために、奈良公園で鹿せんべいを用いた給餌実験をおこなった。臭気分析の結果、食肉目の動物の糞の臭気成分構成は互いに似ており、他の目の動物の糞の臭気成分構成とは異なっていた。また、多くのシカは、食肉目の糞の臭いがする場合には、鹿せんべいを食べずに、逃避する行動を示したので、食肉目の糞の臭いを忌避する傾向があることが分かった。これらの研究から、1, タヌキのため糞場は、森林更新において実生をシカの捕食から守る役割がある。2, シカはタヌキのため糞場に対して忌避的な行動を示し、その行動の至近要因は「食肉目の糞の臭い」である。ということが明らかになった。 この話を知ってから、タヌキのため糞からタブ実生が成立している画となる典型なものを探す曲がついてしまった。この辺りは林内のタヌ糞の密度は高くない。タブはクスノキ科で果実の中にでかい種子一個の重力散布種子だから、動物散布されないと、重力散布主旨と同じで、同じところにまとまって落下するので、実生も同じところに固まって出ることはあるが、糞から成立した実生は、最初はかなりの密度になる。糞の痕跡は消えてしまった後にしてもちょっと判断しかねた。屋久島で移入外来種となってしまったタヌキの糞からのタブの実生を撮影しておいたのだが、ストックから見つけられずにいる。
上述の話と、このタヌキの糞からのタブノキの実生の成立、植物生態とその関連領域をやっているリサーチャーに対しては「タブノキのタヌ糞更新」と言えば通じてしまうくらいポピュラーなものだが、シカによる林植食性被害が悲惨なものになっている状況で、意味がちょっと変わってきた。一目見れば分かるから、目立つようになったというわけでもないが、上述の病原リスクなどの回避とこちらの話がつながっているのか、無関係なのか、そのあたりも、ずっと気になっている。
ヤブニッケイ、常緑樹林でシカの選好性が高い植物。高密度地帯になると、実生は消滅する。親木が残っているから、実生が何年も皆無になるほど食われても、即座に地域個体群絶滅まではいかない。50年ぐらいはギリギリもつシミュレーションなどもある。捕獲が進んで数年間シカの密度が薄くなったところに、低い高さの幼樹が成立している。ここは割と微妙な位置にあるので、単なる偶然という気がした。 シカの高密度地帯ばかりで仕事をしていると、余り見ることがなくなった植物や実生などを見ると、必ず撮影している。ついでの話なので、上2つの話とは、あまり関連はない。
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