チクチク、痒痒、痛痛の虫たちの話。ツバキにたかるチャドクガは集合する行動特性が強く、それによって生存率もまた上がるようだ(水田,1957)。皮膚は生まれつき強い方ではないので、劇症化するので、少年時代からの天敵で、それは今もそうかもしれない。ただ、ずっとフィールドに入っていると少年期よりは強くなったなと実感する。 皮膚に違和感を感じたら、掻かずこすらず、水で洗い流す。そのためのペットボトルのお茶はそれ用と割り切って使う。カテキンとかタンパク質変質作用があるし殺菌効果もあるから、フィールドを歩きながらでも、ほぼ20分ごとにお茶で洗い流して、皮膚が腫れなくなるようにがんばる。お呪い的な効果だと思うが、それで皮膚科のお世話にならずに20年ぐらいはやってきた。
どちらかというとインドア少年だったが、野生動物は大好きだったおかげで、ろくに泳げないのにあたまから2mの深みに落下したり、それなりに危ない目にも合ってきた。大学時代に知り合った友人には、小学校に上がる前から山奥の洞くつで一人過ごしたりする猛者が居たりしたので、まあ何も知らない何もできなかった少年時代みたいなコンプレックスは持っていて、アウトドアに向かったのもそれに対する補正が働いた結果かもしれない。 少年期から、毛虫皮膚炎を何度も食らってきた。よく覚えているのは幼稚園時代、河畔の桜並木に大発生したアメリカシロヒトリの集団を、友人と水鉄砲で撃ち落としたり、クッキーの箱いっぱいに集めたりしていたその翌日、全身がかぶれて、凄いことになったことだ。 当時、幼児の私には毛虫と自分の全身を襲った皮膚炎との因果関係が分からなかった。祖母には「草むらで転げまわったりしてきたの?」などと言われたが、水鉄砲で毛虫を打ち落としていたことなど思い返さなかった。なぜなら触れたりした直後には何も起きてなくて、相当タイムラグがあったから。後述するイラガみたいに直後から激しい痛みや痒みが発生したりしなかったゆえだ。 私を治療した皮膚科の先生は、ステロイド系の薬を使わず、ちょっと変わった水溶性の薬を溶いた薬で治療されたが、かゆみを抑える力は弱く、その後もその治療を受けるとき、物足りなさを感じたがすべてちゃんと完治した。今考えるとそれも一つの見識だったのかも。
ちなみに遠縁の親戚には、椿寺と呼ばれるここ(【椿の名所】永願寺境内の椿)の存在があって、おそらくそういう寺通しのやり取りからも、ツバキに関しては祖母の一族は縁があったようだ。亡くなった伯父に一度だけ、連れて行ってもらったことがある。ツバキの品種、350種とされていて国際登録されている品種も相当数あるということで色々見せてもらった記憶がある。 そういった場所では、Camellia属(ツバキ属)はチャドクガなどの格好の標的になるだろうから、きちんとした害虫管理は必然だ。拙いのは、なんとなく庭に植えて放置しているツバキやサザンカなどで、子供たちが小さかった頃は、空き家の庭など管理が怪しいその手の生け垣は、気が付くとチェックしていた。
チャノキは、多くは茶園があったところからの散布や残存個体からの常緑樹林への侵入個体だと思うのだが、こういうところに自然個体として生えているものは、あまりチャドクガが着くなんてこともまずない。プランテーション型で大量の食草を提供してしまわない限り、親虫による産卵のための探索コストもかかるし、天敵も存在する。採餌しても消化阻害効果の高い二次代謝産物産生も盛んだから、今はお茶農家はシカに新芽が襲われる時代だが、シカの高密度地帯でも採餌痕などほとんどない。 必然的にお茶も農薬散布含めてかなり管理コストが必然になる。
この手の野生のお茶を摘んできて、ほうじ茶を作ったことがあったが、まあ、作り手の技量が低いことは前提に、お茶だとわかるギリギリの味ではあった。
イラガは夏緑樹に関しては食草が割と多様で、ブルーベリーも夏緑樹であることもあってか、毎年攻撃を食らっていた。
捕食性のカメムシ類やアシナガバチ類が、肉団子にしたり、体液チューチューしてくれたりして頑張って数を落としてくれていたが、こういった生物多様性を担保していた圃場空間が消滅したので、今はもしも発生したら自前で頑張らないとだめかもしれない。一方で、イラガ自体、産卵にたどり着く奴も減ってるかもしれない。お邪魔な電気虫だが、こういうのも状況を見ていたい。
イラガの卵、少年期そんなやばい虫が入っているとは思ってなかったおで、これが付着した木の枝を振り回したりしていた。なんか、豆菓子見たいでちょっと不思議だった。💩突き刺して、笑いながら走り回ってるアラレちゃんみたいな過去は私にもある。
毛虫皮膚炎リスクがあるので、私が遭遇経験があるのは、ドクガsp.(種類が多いが遭遇するのはチャドクガが多いと思う)。 あるいは、見るからに痛痒い目に合いそうな気がして、実際に触るともっとひどい目に遭う、イラガ。通称「電気虫」って呼ばれたりする)。
経験的に、散布薬剤の量を減らしたかったら、アシナガバチと人間との協働作業が一番効果的ではある。
他に、遭遇したのは、マツカレハ、マイマイガあたりか。
「マイマイガは体には剛毛がたくさんついていて、刺されると少し痛いが、1齢幼虫でない限り、毒はない」という記述をよく見る。ただ、物理的な刺激はアレルギー反応を引き起こすし、この手のものは、人によって反応は違うし、反応もプラセボの影響を受けやすい。やばいと思ったら近寄らないことだろう。
チョウ・ガ目(鱗翅目)の幼虫、特にチョウの幼虫についてはトラブルは聞かないが、一緒くたにやばい毛虫だと切り捨てる人も普通なので、それはよくないなと思ったりする。ただタテハチョウ科のツマグロヒョウモンやルリタテハには、毒はないが、一部の幼虫に鋭い棘があり,触れると軽い痛みを生じるという三田通の反応を起こす事例があるから、そっと見守るか、飼育や観察などに際しても、手袋をするのが鉄則だろう。
「毛虫」だと認識してしまうとパニックになり、猿みたいに大声をあげて叩き潰す人を実際に知っているので、できればお互いトラブルの内容に平和的にいきたいということは述べておきたい。
ツマグロヒョウモン幼虫
ツマグロヒョウモン蛹。蛍光的に見えるところが格好良い。 昆虫による皮膚炎については総説を兵庫医科大学皮膚科学の夏秋 優先生が『昆虫学を拓く 昆虫による皮膚炎』として昆蟲(ニューシリーズ),23(1): 2–11書かれている(夏秋,2020)。掲載が2020年と新しいのと、この分野、適当に書くわけにもいかないし、生物屋の視点だけではなく医師の視点が必要だなと思っていたところで大変にありがたい。 以下にチョウ・ガ目の部分だけ、テキストから抜き出してみる。ちなみに昆虫を「頭」と数えず「匹」と書いておられたところだけ勝手に修正した。匹でも別に良い。
①皮膚炎になるのは、ガ類の幼虫の中には有毒毛を持つ種類。②有毒毛には主に毒針毛(どくしんもう)と毒棘(どくきょく)がある。③毒針毛:ドクガ類、カレハガ類、アオイラガ類の幼虫、毒棘:イラガ類,マダラガ類の幼虫、 ※毒針毛については、クラゲの刺胞(毒液のついた針が飛び出す)とは異なり、刺さると内部に蓄えられている毒液が漏れ出す仕組み。④有毒毛に触れて生じる皮膚炎は毒針毛型、毒棘型に分けるのが一般的。⑤ドクガ類(ドクガ、チャドクガ、モンシロドクガ,タイワンキドクガなど)の幼虫は、1頭あたり数十万~数百万本の微細な毒針毛(長さ約0.1 mm)を持つ。⑥毒針毛が付着、毒針毛群生部に触れると抜け落ちて皮膚や衣類に付着し、毒針毛が皮膚に刺入され中の毒成分(エステラーゼやフォスフォリパーゼなどの酵素類)が皮膚内に侵入、皮膚炎を引き起こす。⑦毒針毛型の皮膚炎は、毒成分に対するアレルギー反応によって生じる(Natsuaki 2002)。⑧皮膚症状としては、激しい痒みを伴う紅色丘疹(赤いブツブツ)が多発するのが特徴。⑨ドクガ類の雌成虫の尾端部には幼虫時代の毒針毛が付着、成虫が毒針毛を撒き散らすこともある。⑩ドクガ類の雌は産卵の際にその毒針毛を卵塊に付着させ、繭にも幼虫時代の毒針毛が付着するため卵から成虫の全てのステージで毒針毛を有する。 ※孵化後の卵の殻、幼虫や蛹、脱皮殻も同様に危険⑪カレハガ類(マツカレハ,タケカレハ,ヤマダカレハなど)の幼虫も毒針毛(長さ約1 mm)を持ち,皮膚に触れると毒針毛型の皮膚炎を起こす。⑫カレハガ類は幼虫と繭の表面に毒針毛が付着しているが、成虫には毒針毛はない。※成虫には皮膚炎リスクがないのがカレハガ類とドクガ類との違い⑬イラガ類で被害を受ける主な種類はイラガ、ヒメクロイラガ、ヒロヘリアオイラガ、クロシタアオイラガ等。⑭イラガ類幼虫には鋭い毒棘があり,皮膚に触れて先端が刺さると中の毒液(ヒスタミンや発痛物質などの刺激物質)が注入される。⑮イラガ類の毒はピリピリとした痛みを伴う皮膚炎や、「感作」が成立するとアレルギー反応によって翌日から赤く腫れる場合がある。 ※感作:特定の刺激に対して、以前は反応しなかったものが、繰り返し刺激を受けることで、その刺激に対する反応が強くなる現象⑯アオイラガ類の終齢幼虫には毒棘とは別に尾端部に長さ約0.5 mmの毒針毛があり,繭の表面にも付着。⑰イラガ類の成虫には有毒毛はなく,全く無害。⑱マダラガ類のうち,幼虫が毒棘を有している種は主にタケノホソクロバ。ウメスカシクロバ、リンゴハマキクロバの幼虫にも毒棘がある。 ※ブドウスカシクロバについては記載はなかったが種類が多いので全部上げられてなくても違和感はない。近縁なのと自分の感覚だと同様に扱った方がいいと思っている。⑲チョウでは、タテハチョウ科のツマグロヒョウモンやルリタテハなどの幼虫に鋭い棘があり,触れると軽い痛みを生じるが、強い皮膚炎は生じない.ら赤く腫れる場合がある。
なお、同文献には、「1. 一般的な初期治療」と「2. 予防対策」の二点が簡潔に記述されている。 1. 一般的な初期治療のチョウ・ガ目による皮膚炎だけ引用すると、・初期であれば粘着テープを用いて皮膚に付着する毒針毛を除去し,石けんと流水で洗浄する・イラガ類の幼虫の毒棘に触れた場合、冷却だけで十分であり,通常は1~2時間で軽快する。・いずれの毛虫の場合でもアレルギー反応による皮膚炎に対しては市販のステロイドホルモン含有外用薬で対応し,炎症が強い場合は皮膚科専門医を受診する。
・安全な場所で安静にさせ,局所を保冷剤などで冷却して経過をみる・刺された直後であれば,ポイズン・リムーバーなどの毒液吸引器を用い少しでも毒液の侵入量を減らす。 この文献でもポイズン・リムーバーの毒の除去効果に関しては疑問が呈されていて、まあ、気分的な部分が大きいと感じる場合が少なくないのは私も同感だ。それによる処置に手間取るぐらいなら、さっさと医師のところに行く方が何倍も正しいという話である。 相手のファンネルが自分の機体に突き刺さった状態の「毒針毛」の場合は、モビルアーマー=自分の皮膚からファンネルをひっこ抜かないといけない。その際にガムテープをペタペタやったりや石鹼フォームで強くこすらないように包み込んで洗い流すなどの処置が必要だ。・微細な毒針の毒液だが、抗原抗体反応はセンシティブで、アナフィラキシーと思われる症状が出現した場合は、鉢などの症状と同様に、直ちに救急車を呼ぶ必要がある。過去にハチ刺症などでアナフィラキシーを生じた経験があり,専門医からアドレナリン自己注射用のエピペンを処方されて携帯している場合は,速やかに自己注射する。・「吸血性昆虫による皮膚炎の場合,緊急対応の必要性はないことが多いので,通常は痒みや赤みに対して局所の冷却や痒み止めの市販外用薬で対応できる.しかし強い腫れを生じている場合や,掻きむしって悪化している場合は皮膚科専門医を受診する方がよい。」とある。 吸血性昆虫のリスクは、唾液腺に共生する病害生物が、余計な水分を逆送したり、吸血を容易にするために血管細胞破壊のために酵素等の物質を注入されるときに一緒に入っていくリスクにある。そうはいってもそれは瞬時に行われるわけで気が付いた時にはどうしようもない。周辺の消毒と痒みへの処置をきちんとやる以外ないので、結果的にそうなるなあと思う。だから日本では少ないけれど、海外では事前の予防注射や予防対策が必然になる。 ただ、この文献では昆虫でないので扱われていないマダニ類についてはTick twisterで頭部がセメント物質と一緒に皮膚側に残らないよう速やかに除去した方が予後が良いと思う。勿論、皮膚科を受診して抜去してもらえるならその方が確実だ。
予防対策は、野外活動の際は有害昆虫に注意しとあるが、ともかく先にリスクを発見して回避する感覚や経験を積むしかない。スズメバチ情報など、身内を超えて共有するのは、まともな専門家でも十分やれてないが、可能な限り自分などはやっている。「そういえば、ハチみたいなのが飛んでました」みたいな同定能力や危機意識、感覚をクルーが持っていたら、それはそれでリスクだ。・被害を防ぐために野外では帽子,長袖,長ズボンなどを着用し,むやみに肌を露出しないよう心がけるは、半そで短パンでわしわし入っていくのが好きな人は、時々いたりするけど、脅威の上限が分かっていてあえてやる人もいるから、自己責任で。・「殺虫スプレーを持参」は毛虫系のリスク対策ではあまり関係ない。フィールドで野営地どころかあちこちにまかれても迷惑だし、蛇足ながらスズメバチの猛襲を受けたときには役に立たない。ともかく彼らの攻撃圏外に脱出する。経験上、森林内を200mも走れば、アナフィラキシーを持っていなければ、いくつか被弾するが、そのまま医者に向かえば予後も何とかなる。ダニには水際防除で効くので、靴にスプレーは必須。
無毒とされていても、物理刺激やわずかな異種タンパクなどとの接触で感作が成立するとアレルギー反応になったりする場合もある。アレルギー反応については、そのうち慣れるではなく、劇症化リスクを常に考えた方が無難。
駆除に関しては、農作物については、プロの意見や手順で対応するしかないが、家庭菜園レベルなら規模も知れているし、除去したり、口に入れるものでなければ薬剤も含めて方法はいろいろあるだろう。
この分野調べているとBt薬剤というのがでてきて、
Bacillus thuringiensis(バチルス・チューリンゲンシス) という、養蚕業の病害生物として発見された、枯草菌、納豆菌と同属の菌類が作り出す毒素で、チョウ・ガ目幼虫駆除というのは、かなり以前からある。
B. thuringiensis→胞子形成2種類のタンパク質性殺虫性デルタエンドトキシン(δ-エンドトキシン)の結晶を形成→昆虫が毒素結晶を摂取すると昆虫腸内のアルカリ性消化液で分解され毒素になるという作用機序だ。酸性の消化液を持つ人を含めた動物には無害ということで使われるているが、アルカリ性物質と摂取した時のリスクなどもある。これについても耐性の系統が出てくるとか面倒な話ではある。
※お茶農家においては、かなりシステマティックな対応マニュアルが有る。庭木レベルの話ではないけれど、口にいれるものとして、対策事例の一つ。参考として。なにしろ、生産量は日本一の鹿児島県のそれである。
茶病害虫防除情報 (JA鹿児島経済連,2020)
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