鎮魂花
2006年 06月 28日
この花,彼のHPにも大きく載せられていて,彼の好きな花だったことは間違いないでしょう。可憐で,でも,ひたむきな生命力に溢れています。「c_cさん,ほら,咲いてますよ。」
彼の紅潮した嬉しそうな顔を思い出しました。それは,ヤクシマウメバチソウ,地域品種で,微妙にこの画のものと違うけれど。
あのときの調査は時間がなくて,原生環境保全地域内に入る前,二人で簡易装備でビバークしました。早朝,水と黄色い行動食を詰め込むと二人は早足でピークを目指し,永田岳の周りを岩にしがみついてグルグルRDBの植物種を探し回ったっけ。
彼女が居たらしいのです。傷つきまくって渇望した魂がいつも誰かを求めていたから,よかったなぁ,と皆が思っていました。これから,もの凄く大変だけれど,二人で幸せになるはずだった。彼女は泣くこともできない状態でいるかもしれません。
私もいまさら考えてもしょうがないことを思うものです。少なくとも彼と一緒にいて彼といろいろな話をしているとき私はいつも楽しかった。それは彼に伝わっていただろうと思いたい。あ,まただ。
ただ,ただ,落ち込んだ一日でした。最近,苦しそうに生きている男性を見ると,友人としてではなく,自分の息子の成長した未来を重ねてしまい,既に彼の親の心境になる自分がいます。傲慢だなぁと思います。
彼は,本当に苦しかったのだろうと思います。それで,本当に自分で自分を殺してしまったんだ。二回の交通事故,後遺症の痛み。大好きな映画も見ることも出来なくなったほどの視神経の損傷。不安定な就労環境に突き落とされました。彼の苦労を軽く考えていたわけではないのですが,それらに立ち向かうには,彼はあまりにも疲れてしまったのかも知れません。
屋久島の森林限界の岩場を這い回っていたとき,また,奄美から更に離島に渡り,整然と列んだ一升瓶に分注されて雑貨店の土間に保管されている貴重なガソリンをナンバープレートも着いていない借りものの軽トラックにぶち込んで,二人で海岸端を目当ての植物を探し疾走していたとき,私は,そして,彼も,本当に幸せな瞬間だったと思う。
「ふふふ,これで,おれたち事故ったらどうなるのかな?」
「保険扱いにはならないでしょうね。」
「おー。こえー」
最後に二人で渡ったあの島に,あのまま,3年ぐらい留まっていたら,当時の職は失っていたけれど,その後,彼を襲った運命の嵐は彼を壊さずに凪いでくれたかも知れない。それぐらい,命の洗濯が出来るような島だったなぁ。あぁ,これも言ってもしょうがないことだな。
これから,この花を見るたびに思い出すだろう。いつも周りから誤解されることをしてしまう,優しくて不器用な彼と交錯して,僅かな時間だったけど,人生を併走したあの時と彼の死を。
鎮魂の花になるかどうかはわからない。本当に,きつかったんだなぁ。でも,これから大変だけれど,優しい彼女と一緒にずっと良い人生であったはずと思いたい私は,もう,苦しまずに済むからなんて考えたくないのです。これも,死に損なったことをケロっと忘れている奴の身勝手でしょうか。
でも,眠りなさい。嫌なこと全部忘れて,眠って良いんだ。君の体から快眠というものが消え去ってから随分経つのだろう。眠りなさい。
他に君にかける言葉がなくて,御免。眠ってください。
友人が突然の事故で亡くなった。 お互いのことが忙しく、連絡もなかなか取れずにいた。 後悔は尽きない。 訃報を聞いて、暫く呆然と歩いた。 空梅雨を忘れた雨が、アスファルトを濡らしていた。 気が付いたら泣いていた。涙がとまらなかった。 「阿讃で待ってます」 披露宴に駆けつけてくれた彼が、色紙に残した言葉を思い出した。 学生時代、バイクやクルマの話をしたら、時間がいくらあっても足りなかった。 約束は果たせなかったが、いつかサーキットに戻る日が来たら、彼のためにラップを刻みたい。 ...... more