絶滅危惧種 醤油鯛
2006年 10月 12日

Canon EOS Kiss Digital N, Kilfitt-Makro-Kilar D 1:2.8/ 4cm
(追記ーWebで検索すると商品として,「ベビー醤油(鯛型)」というのがありましたが,これは中の醤油そのものが商品ですのでちょっと違いますな。なるほど,入れ物として作られてはいるようです。)
その世界では有名な昆虫分類学者のSさんは,この醤油鯛のコレクションを大学院生時代から始めておられました。当時,分類屋の常?として,趣味でコーヒー缶などいろいろなものを収集していたSさんでしたが,最後にたどり着いた,素敵かつきわめて理にかなった収集対象でした。
やがて彼は収集だけに飽きたらず,大切な昆虫標本と同様に,既に採集年月日,採集者,採集地などのラベル毎虫ピンで桐の箱の中に整然と並べられていたその標本を,昆虫分類屋の特技を生かして本気で分類を始めたのです。当然のことながら,目,科,属,種名をきちっと整理してカタログにまとめるとともに,検索表まできっちり作りはじめたのです。
さて,既に醤油鯛の採集がかなりの佳境に入っていた当時,私は,大阪の某大学で学会があって,その二次会で寄った飲み屋でたまたま手に入れた醤油鯛を持ち帰り,Sさんに謹呈したのです。
「c_Cさん,これ,どこで採られましたか?」
「え?(大阪の,なんて店だったか・・・ええと)」
「これは,私がOsakaと名付けている種なのですが・・・」
「!!」
恐るべし昆虫分類屋!
ちなみに,彼から,採集方法のレクチャーを受けていたのですが,採集方法とは,標本固定用の70%アルコールを,醤油鯛に飲ませて,ぴっぴっぴと吐かせるという簡単なもので,これで,中の残差が消毒とともに洗われて,中が臭くならないというこれまた理にかなったものです。
後年,この分野におけるそういった価値とは別の次元で,雑誌「サライ」にSさんの醤油鯛は取り上げられることになったのですが,それは,また,別の話。その号は見ていませんが,圧倒的な醤油鯛が複数の桐の箱に整然と並べられたあの標本群は,一般の人が見ても圧巻だと思います。
そのうちに,彼の醤油鯛コレクションは学会でも話題になり,自由集会などで喝采とともに受けに受けました。全ての種が進化系統を本来は反映していない存在であるにもかかわらず,進化分類的な系統分析にかかってそれらしいものに整理されてしまうという,分類屋の存在意義を問いかけるほどの哲学的価値を生み出していました。まじめな話,本気でこういったもので侃々諤々やれるというのは,頭の柔らかい若い研究者の特権であり,また,インフラに縛られないために,某医学界のように,大学の順列の通り教授が君臨し,ある先生の一言で発表がつぶされたりするような世界とは無縁,ある意味野放図でもあり,リベラルな学会分野の楽しさでもありました。
ちなみに,かつての某個体群生態学会など,二次会の出し物のあまりのすさまじさに,学会会場に借りていた某公的機関から「二度と来ないでください」と追い出されたことがある見事にヤクザで立派な学会などがあります。日本の夜明けは近かったのです。
当時,分類の世界は,進化系統関係を忠実に示さないでもいいという立場から別の手法で種群を分類する分岐分類学による仕事が真っ盛り。MacでもMac Cladeなんていうクラドグラム(分岐図)を製作するソフトで誰もが遊んでおりました。学会で著名な教授陣の「種間距離」を描いて,学会の自由集会ネタにしたり遊んでおりました。
もちろん論文を書く場合は,シリアルナンバーも明確に記載する,かなりお高い別のクラドグラム作成用のソフトを使うのが常でしたので,Mac Cladeを本気で仕事に使った分類屋はおいでにならないかと思います。
お高い分類屋御用達のソフトも,実は,二種類あって,殆どの研究者が高い方のソフトをしらっとコピーして,結果が異ならないことを確認した後,安い方のソフトで分類結果を出したという論文を書いていた時代です。センパイには「自分は,クラディストではないけれど,論文作成用にクラディストになっている」と仰る方もおられた時代。飽くまで,醤油鯛という仮想生物が,進化の結果存在する種群と同じように,系統関係を含めてどのように分類されるか,それを徹底的に遊んだSさんの試みは,粋でアカデミックで,まっこと楽しいものでした。
今回,懐かしくなってググってみると,流石,某博物館HPの分室にSさんの醤油鯛のページが構築されつつあるのに気がつきました。Sさん,サーバーに負担を掛けないように,モノクロ画像を使っておられるようですが,ちょっともったいないなぁ。いや,この画像で,種の特徴は十分分かるのでしょう。ほら目の下に線があるでしょう? とか,この鰭の線は先が薄くなっているとか,分類のレクチャーを少し受けましたが,全く覚えておりません。私は,分類屋の素質は,ゼロです。
醤油鯛は,ひょっとしたら絶滅に貧しているのではと,身の回りで見かけなくなった昨今,そんな風に感じるのです。今時,あれだけしっかりしたものを金型もいるでしょうから,コスト掛けて作り続けて,醤油を入れて(自動で詰める機械はあるそうですが)コンビニ弁当に入れる可能性を思うと,既に,そちらからはなくなっているでしょう。仕出し屋さんなどの分野でも,その使用はかなり危ういように思えます。
私の採集個体は,他の何十というオオサカショウユダイとともに,採集者c_Cのラベルが添付され,桐の箱に収まっているはずです。ひょっとしたら,既に超レア種として,採集が出来なくなっているかも知れませんね(いやそれはないな。でも金型は保たないはずなので,100年経てばレアアイテムかも)。
このワイフが,取っておいた醤油鯛も,Sさんにお見せしたら,「サツマショウユダイ」とかなんとか,一発で同定されてしまうに違いありません。
追記ーこのエントリを書いてからかなり年数が経ちましたが,沢田さんのお仕事,本になっていました。そのものずばり。
本当に凄いですよ。検索表なんかも。
きっれたりて読んでるときっれる。きっれては続きを読む。
凄いですねー、complex_catさん?凄いですー。
長文を長文と感じさせない(はっ、長いと感じるときもありますが(~_~))ポリポリ。
面白いですっ!!毎回っ!!何者なのかなんとなくうすうすと・・・(~_~)^^まだまだ??
その正体は・・・猫王の使い(笑)。
絶滅なの?・・・で、調べていたらGold発見♪でも、お弁当の中に入っていたり、実際に使われたものじゃないと価値ないんでしょうね。(笑)
吹田や東大阪があるなら豊中もないかなぁ~。お弁当買いに行くたびに探してしまいそう(^^;)
そもそもいろんな種類があることすら知らなんだ。
ただのコレクターとは違う、センスとそのこまめさと、労力に
頭の下がる思いです。面白い!
研究者が本気で遊ぶと,何が起きるかということで,これが自然科学系の世界の魅力かと思います。

