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殺人芸

 今回の話の端緒はコミックから。連載は少し前からですがど,最近気になるのが,この漫画。
ディアスポリス-異邦警察 1 (1)
すぎむら しんいち / / 講談社
ISBN : 4063725529
すぎむらしんいち氏とリチャード・ウー氏のタッグは,結構良いかもしれない。
私の惚れ込んだ映画「スワロウ・テイル」の‘Yen Town’や金城武の「不夜城」の舞台のような世紀末東京。異邦人(密入国 or 不法滞在外人)専門の警察のお話。はちゃめちゃだけど基本はすぎむら しんいち氏の他の作品同様,人情話になっている。

スワロウテイル
三上博史 / / ポニーキャニオン
ISBN : B0000DJWIT
私の中では,非常に好きな日本映画。監督が信奉者の多い岩井俊二だとかいうことは,この際全く関係ない。


不夜城
金城武 / / 東映
ISBN : B00005NDGQ








ディアスポリス-異邦警察の話に戻ります。現在連載中の中身は,ロシアからの「システマ使い」(KGB特殊部隊スペナッズの無敵といわれたマーシャルアーツ)の復讐劇に主人公が巻き込まれる展開でなかなか面白い。作品中ぐねぐね,ずばっと戦うシステマ(SYSTEMA)が気になって,ふと思いついてYouTubeで検索。もちろん,システマつっても歯磨き粉や歯ブラシの話ではありません。
 あるわあるわ。イギリスでのワークショップなどのビデオが大量にアップされてました。うーん,ソビエト崩壊後,大学ですら数万人規模で失業した研究者が出たと云うことですし。こういういわば門外不出だった軍事技術を切り売りして,お金を稼いでいる人たちも沢山生まれたと思います。
 いわゆるK-1的格闘技がメジャーな状況では,理解されにくいと思いますけど,実戦武術は収斂すると云うことを改めて感じます。流れるような動きで,至近距離からの対銃器技術や,多人がけ,透徹された力で相手を無力化する技など,実戦合気道(≒大東流合気柔術)や武術太極拳(というか八卦掌に近いか)の戦闘法と驚くほど共通点があります。
 合気道アクションのすさまじさを見せつけたのは,日本で合気道を学んだスティーブン・セガールの一連の作品でしょうけれど,実戦的な大会がないことから,マーシャルアーツとしての合気道の側面については一般への認知は高くはなりません。確かに護身術として,普及してますが,いきなり喉をえぐるの有りとか,真剣で額に風を当てる練習とか,故塩田剛三師範のような第二世代の達人が亡くなられた後は,合気道は,武術ではなく武道としての存在にシフトしていってもやむを得ないでしょう。実戦合気道の達人とか言ってYouTubeにちょろちょろ出るようになってきた人は,紛い物なので無視しましょう。
沈黙の戦艦
スティーブン・セガール / / ワーナー・ホーム・ビデオ
ISBN : B000IU4NWS


 勁道は全く違うけれど,打ち込まれる何の変哲もない拳は,相手より先に当たって致命的な威力を持ち,聴勁(相手の攻撃を察知する),化勁(相手の力を無効化する,崩す)などのエッセンスをここまで,生徒相手に手加減しながらも見せてくれるのは少ないから,とても参考になります。寝技は私はほとんど分かりませんが,サンボなどの技術とも何となく違う寝技系が入っていて,寝技になってもぐねぐねと相手を掴まなくて乗っかったりして,気がついたらと云う感じで制していくようです。縦軸1軸系の運動しか理解できないと威力の出所が分からないロシアンフックは,ここにも原型があって,勁道こそ微妙に違うけれど,八極・通備や太極拳の護身拳のような動きに似て,力がぶち込まれているのが分かります。子供向け漫画の格闘技宜しく遠心力で腕を振り回すなんて技は,ボクシングでもあり得ないので,本当は,威力を上げるために腕がスイングされているわけではないのです。ハンマー投げなどをイメージして,遠心力で威力を上げるという動きは,少年漫画的には一番理解しやすいのでしょうけれど,武術や格闘技における動きとは,遠心力を使う動きは最も縁遠い動きだと思います。下半身で作られた力が縦横に体の中で小さくギヤが回され腕に伝達される結果,スイングするような軌道で入ってくると行った方が正しいかもしれません。例えば,ボクシングの動きを見てみれば,腕(肩)を振り回すなんてことで強いパンチが生まれているわけではないことが分かります。スイングしているのは,ギヤが動いた結果であって,メインエンジンではないのです。
 しかし,同じSYSTEMA繋がりで,拾える
スペナッズの動画(なぜこんなのがアップされているのかいうのと,なぜアメリカン・ゴシメタのエバネッセンスがBGMかというのは謎)を見ていると,武技の目的である殺人術のみの世界というのは殺伐としてきます。
 格闘技との大きな違いは,相手が武器を持っていると云うことも想定内なので,一撃食らっただけで致命傷となるために,絶対に相手の攻撃を受けずに戦うという部分に関しては一分の隙もなく,全て「王道の技」ということです。ちなみにこれに対する言葉は「覇道の技」で,武技を読み解くにおいては,非常に重要な視点です。格闘技は基本的に全て「覇道の技」です。もちろん,高いレベルにある方は,王道的な戦い方をすることも読み取れますが,格闘技の体系自体が,どのような状況になっても一発も触れさせないと云うことを前提にすることは,非現実的だと考える世界ではあります。
 格闘技にはディフェンス技術に,「ブロック」というのものが存在します。ブロックは居着く(動き,重心の位置が止まる)危険があるし,単純に素手でナイフは止められないので,同じ兵器を持っていない限り武技では最小限のディフェンステクニックです。受け流すことはあっても,受け止めると云うことは動きの中ではほとんど出てきません。まさに流れるようです。
 「王道の技」ではダメージを溜めていくという戦略が存在せず,最低限の手順で致命傷を与えると言うこと,更には,1対複数という設定が存在すると云うことです。武術と格闘技の違いは格闘技マニアにはよく理解されていないところですが,明確な違いがあります。当然,或るルールを設定することで,武技対格闘技は可能ですが,その意味で両者を戦わせることの矛盾が理解できると思います。もちろん何でも有りにしても,高い技術を持つ格闘家が,個人の資質として武術家を制すると云うこともあり得るわけです。

 武器術もナイフを見ているときよりも長剣を持つと分かりやすいのですが,円圏の描き方は太極剣(太極拳に伝わる剣術)とびっくりするくらい似てます。表演中心の太極剣では,ここまで教えないけど,凄いことやってる。日本向けサイトもあるし,なかなか普及活動,頑張ってますね。
 コア技術を学べるのは,どちらにしてもそれなりのレベルに達した上で更にお金も持っているという一部の人達だけに教えるのは常識でしょうから,この程度教えても問題ないのでしょう。見ていると,初歩のクラスでは,本格的に何かで相当なレベルにあるという人は少なく,格闘技オタクっぽい青年も多そう。
 ちなみに,お金を積む必要があるのは,中国武術だけではなく,洋の東西に関係ないでしょう。合気道創始者の植芝盛平翁も,大同流合気充実を武田惣角氏から学ぶ際には,かなり金銭的に苦笑する場面も多かったとか。
 おそるべきは,YouTubeか。とりあえず,すぎむらしんいち氏とリチャード・ウー氏にも感謝。Systemaの対ナイフ・拳銃術はかなり興味深いものがありました。人間の生理的な反応の間隙を突くような,何とも巧みな技です。
 最近は物騒なので,護身術の話が良くされますが,本気で自分を殺しに襲ってくるような輩に対しては,男女関係なくこのレベルの修得が頭にあると,軽々しく護身なんてと言えなくなります。この女性インストラクターの動きよりも,彼女の目付や表情など,やはり職業軍人なのだなと思いました。たとえは悪いけれど,狩猟者ですね。どんなに強くても平和な国で格闘技をやっている女性の目とは違ってます。白兵戦技術では,もう一つ,平和な国の日常世界に立脚する格闘技には無いパラメータが存在します。「効率」というやつです。最小のエネルギー・時間などのコストで,相手を戦闘不能にするというのが,もう一つ与えられた命題です。
 相手が同じ殺人者であることを前提に組まれているのが基本的にはmartial arts≒武術と云うことかと思います。まあ一流の格闘家と手加減無しで試合をすることになれば,もちろん,文字通り数秒で本当に殺される目に合うでしょうから,こういう言い方も少し考えねばなりませんが。さらにもっと殺伐としたものを見てみましょう。インドネシアの伝統武術,プンチャック・シラット(Pencak Silat)で,イスラムネットワーク沿いに伝搬,白兵戦戦闘術として進化したSlirat mubaiの映像。少々の武技を囓っていようがいまいが,あっという間に,前脈部や肘の内側,頸動脈を切り裂かれる恐るべきナイフ格闘術を包含しております。
 私の師の一人は,あまりにも殺伐とした高レベルの「殺人者」の動きを目に焼き付かせて,どう対処するか,よく考えろというのをやりました。全て同じ動きで,処理をするということです。武術をやる以上,こういうのに対抗できないと意味がないというのです。まぁ,普通の私のような人間には無理ですけど,目を慣らしておけば,ここまでのハイレベルの殺人者に襲われることは普通はないでしょうから,暴漢などに襲われたときに相手の動きを見きるための役には立つでしょう。しかし,インストラクター側が全て手加減をしてトレーニングするレベルというそのこと自身が,べらぼうな戦闘能力の高さを示しています。そこにうずくまって動けなくなる寸前の打撃を急所に打ち込まれる師の一人との組み手を思い出しました。私はそのレベルの生徒ではなかったにもかかわらず,師の配慮の御陰で,その恩恵にあずかれたのですが,今,考えても首筋に汗をかくほどです。

 最後は,目の洗われるような故塩田剛三養神館館長の技で,殺伐とした殺人芸から繋がる別の世界に入りましょう。武術に関わるものは,殺人術を相反する活殺の芸道まで押し上げた,その文化に対して誇りを持たねばなりません。それ無しでは,武術はこのように効率の良い白兵戦における洗練された殺人手順に過ぎません。中国武術も達人と呼ばれる方の多くが,人間的にも尊敬される深い道を示されています。近代陳家太極拳最強と謳われた陳家の17世,陳発科老師も,彼に挑んでくる並み居る北京の武術家を瞬時に打ち破りつつ,絶対に相手に怪我をさせず,恥をかかせないと云うことで尊敬されていました。
 より人間として正しく生きるためには,武術に関わる人間としての精神を学ばないというのは,無意味です。

 もう一つ私が填っていて,ディアスポリス同様,原作主義の私がTVドラマ化を恐れている漫画があります。こういう作品が健全に楽しめるのは,日本の場合,人切り包丁を振りまわしす侍,武士というもののあり方について,深い武家文化の熟成と人の道としての剣への思索と哲学的な探求の結果,武術は活人の技となり得た歴史の資産かもしれま
せん。
公家侍秘録 5 (5)
高瀬 理恵 / / 小学館
ISBN : 4091855652
 女流作家の苦手の剣劇シーンも,作品世界を壊さないレベルに仕上がってます。主人公が仕えるの貧乏な公家のお姫様の「うっかり八兵衛」的なキャラも楽しく,ストーリーは,毎回見事なミステリー仕立てで,飽きさせません。変な話ですが,TVの水戸黄門様自体が京都でずっとロケをやっていたわけですが,全編京言葉というのも時代劇にはなかった設定かもしれませんね。まぁ,京都言葉を操る武士というのが,こんなに魅力的とは,誰も気がつかなかったかもしれません。

 ちなみに,マイク・タイソンが来日したときに,館長の演舞を見て,タイソンの取り巻きは,館長にお灸を据えられたケネディ兄のボディガード同様,やらせの冗談だと笑っていました。ところが,その中にあってタイソンは,館長の脚と膝の動きを追って,彼の技にリアリティを感じていたという逸話が残っています。
 日本でも毎日のように殺伐とした事件が起こる世の中です。武道が武術的な価値に少し軸足を移しながら,必要とされる時代の戸口に立たされているのかもしれません。
 しかし,パソコンの前にいながら,世界Martial arts紀行が出来る,何とも凄い時代かと思いました。
Commented by nezumineko at 2007-06-11 23:47 x
スワロウテイル・・・円都とか主人公?の名前がグリコなんてところ、どこかくすぐられるモノがありました。
でも、私の住む街、Yen Town状態ですよ。
人口の1割程度、いらっしゃるように思えます。
私の携帯には、いろいろな国の言葉の間違い電話がかかってきます。
Commented by complex_cat at 2007-06-12 22:24
nezuminekoさん,1割ですか。まぁ不思議なリアリティがありました。実在の都市名をわざわざ字幕入りで表示して,金かけてロケを敢行しても嘘っぽい映画も沢山あるのに。
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by complex_cat | 2007-06-08 22:50 | Cat Kick Dragon Fist | Trackback | Comments(2)

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