カムイ外伝実写版
2008年 04月 11日
アニメはコミックを忠実に再現。少年向きアニメの時間帯でありながら女性が乱暴目的で襲われたり,惨殺シーンも結構あったのです。しかし,よりグロく描こうとはしていません。今のグロ・ゲーとコミック「あずみ」の戦闘シーンが似て非なるものであるというのと同様で,子供に見せても良いとさえ思います。当時にあってはあまりに進みすぎていて,ルパン三世と同じ。逆に青少年に見せるなとか,マークされたりしませんでした。当時の五月蠅いこと言いそうな大人は,アニメなど完全に子供の文化で,興味も意識が向くこともなかったことも幸いだったかも知れません。大らかな時代でしたし,言葉狩りなども今ほどではありませんでした。世代で制作者の感覚は今と違うかも知れません。実は,子供に媚びたアニメではない,大人の視聴を前提とした1960年代の奇跡のエポック・アニメがこの「忍風カムイ外伝」でした。
カムイ外伝は,壮大な時代絵巻であったコミックのカムイ伝からのスピンアウト。天才忍者カムイが掟を破り忍者組織からの「抜け忍」になったその後の壮絶な逃避行の日々が描かれています。
画像は,イメージを重ねてしまう公陳丸のコラージュ。
カムイがなぜ,抜け忍になったのか,その理由を何となく語らせるエピソードもあるのですが,本編の「カムイ伝」に明確に描かれている抜け忍にならざるを得なかった理由とは,異なる,個人的な価値観・人生観のような話になっています。
ネタバレになりますので,ここでは書きませんが,江戸幕府の根幹を揺るがす秘密の探索に当たっていたため,その情報を回収する方法を突き止めた次の瞬間に,彼は,彼を始末するために準備されていた「空身の手風」とともに組織の追っ手から逃げざるを得なくなったのです。
さてカムイ外伝というか,カムイが凄いと思う,いや原作者の白戸三平氏の創造力が凄いと思うのは,シビアなテーマを描きながら,剣豪小説や格闘コミック同様,これを秘技を競い合う娯楽忍者戦の要素としても完成させていたということではないかと思います。
私は武術に憧れて,中国武術のサークルまで作ってしまうような青年期を過ごしたわけですが,実際に幼年期に影響を与えたものを考えるとビル・ロビンソンの人間風車(ダブル・アーム・スープレックス)や紅三四郎の紅流卍崩しなども確かに影響を受けているのですが,実は,原体験は,カムイの飯綱落としと霞切りだったのです。当時から格闘技よりは,武術志向が強かったのでしょう。これは祖母と父親の時代劇好きの影響もありました。
運動がお世辞にも得意ではなかった少年が,十文字霞崩しの練習に夢中になり,飯綱落としを決めてからのヘッドスプリングの練習に興じたりしたわけですから。ちなみに,運動神経抜群でなくても,そして独学でも,ヘッドスプリング(ネックスプリングのように手を使わない)は修得可能です。私が証明しています。
飯綱落としは,白土マンガによくある,超人的な樹上での空中戦から繰り出される技です。時間差を作り,敵の背後に回り込んで,そのまま一緒に落下。敵の体がそのままクッションになり,技をかけられたものは頭,頸部を粉砕されて即死。この飯綱落とし,最少のイタチ科肉食獣であるイイヅナが,キジに飛び乗ったままキジが飛び立ち落下してキジは絶命,餌をせしめるという一連の自然観察からカムイが編み出した技ですが,白土さんの凄いところは,空中戦からの導入だけでなく,この技のバリエーションを多く考えつきカムイに使わせていたことです。特に,背後に回り込んでジャーマンスープレックスホールド様に持ち上げて後ろに落とすやり方は,本家,カールゴッチ先生のそれを見たときよりも,むしろ鮮烈でした。リングの上ではなく,体術による無手の技で使うというその描き方自体が,当時比較できるような作品もなく,あまりにも武術マンガとしても進歩的かつ衝撃的でした。リアルな格闘マンガがない頃に,修羅の門がデビューしていたようなもので,時代が着いてこられなかった部分もあると思います。
実際,カール・ゴッチ先生がカルロス・クライザーの名前で,日本のプロレスファンの前にジャーマン・スープレックス・ホールドを知らしめたのが1961年4月で,カムイ伝の発表が1964年。白土氏は,ジャーマンからの啓示でこの技を作ったわけではないと確信しておりますが,必殺技の収斂現象とでもいうべき事例かと思います。
さて,カムイのもう一つの必殺技,変移抜刀霞斬りは,カムイの変幻自在に動ける体術と,きっちり基礎を学んだ剣術との融合でありますが,それだけではなく霞切りは,その後の,格闘,スポーツコミックにおいて散見される秘技,秘密兵器の祖先系とも呼べるべき構造を持った技です。即ち,に左右のフェイント攻撃で右か左かと敵が幻惑されたところで,気がついたら走り抜けざま逆手居合いで両断されているというもので,ご理解いただけるでしょうか。
はい,古くは「サインはV」の‘X攻撃’,少し時代が下がると赤目プロで白土三平氏のもとカムイ伝を描いていた小島剛夕作画による「子連れ狼」拝 一刀の‘水鴎流 波切りの太刀’,「修羅の門」なら‘双龍脚’(主人公の技じゃないけどね)といったところでしょうか。流石に最近はこの手の「単純な」技では,少年コミックファンは納得しないのか,この系譜を見つけられませんが。
修羅の門 神武館の重戦車編 (プラチナコミックス)
川原 正敏 / / 講談社
ISBN : 4063718247
実際,この左右の幻惑というのは,思ったほど凄い仕掛けとは思えないのですが,本編カムイ伝で,超美形キャラのアテナさんがカムイに見せてくれた長刀の技から,編み出されたこの剣技は,なぜか説得力がありました。恐らく,高速で移動するカムイの体術の自在感,スピード感のようなものが,コミック,アニメとも上手く表現されていたからだと思います。
ちなみに,「ケロロ軍曹」でも,カムイのキャラは,ケロロ小隊一の戦闘能力を持つドロロに投影されており,変異抜刀ドロロ切りなんてのは,そのままで,お父さん世代のファンへのオマージュ?サービスというには,いささか年代もずれて,マニアックすぎですが。
ケロロ軍曹 (7)
吉崎 観音 / / 角川書店
dvdは,かなり早くから自宅に揃えましたため,長男が幼児期に歌を歌っておりました。
忍風カムイ外伝 DVD-BOX collection 1
/ エイベックス・トラックス
ISBN : B0002V02LE
ストーリーは,全部好きなのですが,少し抜き出してみましょう。
第4話「むささび」
カムイの謎の技,飯綱落としで身内を失った忍者の姉弟。二番手の弟も,変形飯綱落としで地面に頭からたたきつけられる。残酷にも即死せず,脳機能障害者に。弟の変わり果てた状態での悪戯から,姉は,飯綱落としの弱点を見つける。
命を捨てたその返し技を受けたカムイは・・・
日本の著名な数理生態学者である方のゼミを受けていたときに,マトリックスを使ったモデルの説明の途中,「術者は術を編み出したときにその破り方まで考えるものだ」とこの「むささび」姉に最後に呟いたカムイの台詞だと断って引用後,モデルの瑕疵の解説をされていました。影響世代でした。私もいつも返し技は考えます。そこにトラップ張ったり。
実際,白土氏も,飯綱落とし,霞切りの破り方(必ずしも現実的に可能かどうかは別にして)何パターンか考えていて,本伝,外伝とも彼を襲う手練れに使わせたりして,必ずしも必殺技にしていないというリアリティが作品世界にはあります。
第5話「五ツ」
カムイ同様,動物を友とする孤独な追っ手「名張の五つ」。彼には,絶体絶命のピンチから逆転できる秘密の技があった。五つの秘密を見抜いたカムイに対して,同じ動物を愛するもののシンパシー以上のものを感じていた五つは,カムイに自分も抜け忍となると告げる。白土マンガにおける異形,異能のものへの温かい眼差しを感じる作品ですが,今時だと,こういうテーマの選定自体は,ネットに跳梁跋扈する既成観念を挑発する中途ハンパな相対主義者達の格好の攻撃目標になるかも。再放送でも,ウルトラセブン,怪奇大作戦のあの話同様,このエピソードは外されたりするようです。
もともと同和系の危うい部分にも関わる中世史を描いていた「カムイ伝」本編ですが,「カムイ外伝」もタイトルが現在では変更されたりしているエピソードもあります。
第6話「木耳(きくらげ)」
隙を作るために人に心を開くことを避けているカムイ。その唯一の心のよりどころとした大切な友(雛から育てたタカ)を殺され,動揺したカムイを襲うのは,飯綱落とし,霞切りも効かない他心通の使い手。他心通というのは,基本は読心術でほとんどテレパスというレベルまで様々な段階があります(あるそうですっていう作品世界です)。ただコミックでは超能力ではなく,心理学や高度な観察能力が基本の読心術とあります。超高度プロファイラーみたいな。
絶望的な詰め将棋状態の中,カムイがとった奇策とは。
忍者ってやっぱりスーパーマン。それで良いのだ。けど,こんなのが何人もいたら,江戸幕府は倒されてなかったかも。忍者ブームが白土三平氏の一連の作品により,この頃に生じていますが,冷戦時代の当時,映画がブームになった007への対抗としてJapanese ancient spy storyということの価値もあったかも知れません。秘術を尽くした格闘,諜報活動能力を描くというところでは,同じですから。
第19話「りんどう」
白土忍者マンガには,スーパードッグとしか考えられない忍犬が登場します。彼が遭遇し保護した忍犬は,彼が最初疑ったような追っ手ではなく,カムイと同じ抜け忍(犬)。犬にも抜け忍があるのとかいうことに驚ろいていては,ヒトの出来ることならなんでも出来る忍犬の活躍に腰を抜かします。他のエピソードのネタバレになりますが,トラップをかわして戦って,悩んだあげく正体が分かったら,なんと忍犬だったという第9話「暗鬼(あんき)」がこの白土ワールドにおいて何でもできる忍犬という存在の伏線になっています。そういえば,喋ったり,犬がそんなの出来るのかよとかいうような必殺技を編み出してヒグマと戦ったりする猟犬マンガがありますでしょ。こうやってみると「銀牙」はカムイ外伝の忍犬にインスパイアされたのではないかと思えるほど。あのマンガ自身は,私は好きではないのですけどね。
火作りの術も知っていてキャンプにも心強い,忍犬。是非あなたの家族に。
カムイが流砂に捕まって,死を覚悟しながら足掻いているとき,異常な感覚の忍犬はご主人に急追する追っ手の存在に気がついていました。手練れの忍者を,忍犬としての秘技を尽くして迎撃します。カムイは,自分が見捨てられたと思って,人と犬との心の交わりの限界を感じて,自分に苦笑するのですが,怜悧な彼の愛犬は,遙に深いところでご主人を理解し,戦っていたという話。その愛犬も次回のストーリーで,追っ手のターゲットになります。カムイは「月うつし」という狂犬病を使った生物兵器技を仕掛けられるのです。
「おいらに着いてこなければ」と唯一心を許せる愛犬を失ったカムイの悲しみが心に響きます。私のような動物馬鹿の琴線に触れるカムイの性格も,私が少年期,夢中になった理由かも知れません。
第22〜26
「スガルの島」に含まれる5部作「一白」,「双忍」,「鮫殺し」,「月日貝」,「十文字霞くづし」は,アニメ作品のエンディングを飾る長編ストーリーで,そして,つかの間であっても安らぎが得られようとしていた悲運の主人公の悲劇的な第一幕が幕を閉じます。カムイの終わりのない彷徨は続きます。
暴漢に襲われた行商の女性は,九の一の抜け忍スガルでしたが,無抵抗。しかし,自分の正体を見抜いての追っ手の試しと分かった次の瞬間に,その男たちを瞬殺します。最初はカムイも追っ手と間違えられ,スガルの特殊武器「白羽砕き」で霞切りも破られきわどい勝負をするはめになります。徐々にカムイを信じ理解するスガルは身持ちも堅く,愛する亭主も居て,カムイとは恋愛感情的なものは皆無の関係で描かれていきます。これはカムイの生き別れになったやはり美しい姉(ナナ)が投影された存在だと分かります。スガル夫婦の娘が,カムイに思いを募らせる,それを,ストレートに受け入れるまではしなくても,拒絶しないというところで,非常にストイックな愛を見せるカムイでした。その心には,それまで無かった平穏な安らぎの光がともされるかもという幻想を視聴者は抱くのですが,カムイはどこかで分かっていたのです。悲劇の扉は開かれつつあることを。
このアニメが作られたことは,コミック化されていなかったのですが,白土三平氏の原作そのままだったようで,20数年近くを経たカムイ外伝第2部において,再生されたコミック版「スガルの島」そのものでした。脚本のみならず,テンポや雰囲気など,アニメとコミックのズレが少ない作品は滅多にないのですが,カムイ外伝は,その数少ない例外かも。
スガル一家惨殺に対して,怒りにまかせて,十文字霞崩して両腕叩ききった宿敵を(これは相手も霞切りの使い手であったという設定からですが、カムイが苦労して編み出した霞切りをなぜ宿敵が使えるのかについての説明は無し。そういうやつも出てくるだろうか、あるいはカムイの秘術の秘密が徐々にバレていっていた結果なのか),カムイが船でトロールしながら生きながらサメに食らわせるという,かなりショッキングなシーンがありますが,残酷なように見えないのは,このコミックやアニメの絵柄の性質なのかも知れません。自然描写を始めどちらかというと写実的な絵柄の白土アートなのですが,今時のグロ・ゲーのばかげたほど残酷な画とは何が違うのか。残酷であるはずの「あずみ」の戦闘シーンもそうなのです,それが知りたいと思うことがあるのです。矢張り,いろいろ分かって描いている大人の画だからということに尽きるのかも知れません。
シートン動物記のコミック化もライフワークにしていた彼の作品は,自然と命の煌めきに満ちあふれています。カムイの背後で,自然界の別のドラマが進行していると感じさせるような作品世界の奥行きということに関しては,現行の誰も勝てないと思っています。他の格闘コミックではあくまでゲーム世界の背景,リアルなパーツにしか見えない森や川の潺が,違うレベルで存在する,カムイの世界が,私は好きです。
シートン動物記 【コミックセット】
白土 三平 / / 集英社
ISBN : B00007CFHH
けもの道 行きゆきて 陽は人を待たず また暮れる
不遜ですが,さあ,宮藤官九郎,どんな脚本でカムイ外伝の世界を描ききったか,見せてみろ〜ってな気分ですね。原作に忠実なものなど期待してないけど,キャラだけ使って・・・なんてのは,勘弁ね。キャシャーンもデビルマンも,どろろもキューティ・ハニーも一応,見ましたが,全部ツボを外して転けまくりでしたので,不安はありますね。でも,根拠無いけど,彼の脚本ならなんでも許すと思う。
凄いです、あとでゆっくりと読ませていただきます。2009公開ですか。
待ち遠しいですね。主演が松山ケンイチ、この人頑張ってますね。