田中一村終焉の家

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その一戸建ての廃屋に近い家は常に雨戸が閉ざされたまま,中は荒れるにまかせているか,さもなくば,醸されていることでしょう。


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 よくいえば欲がない,悪くいえば観光商売や観光地としての演出には無頓着(というかビジネスモデルが古いというべきでしょうか)な南九州において,ここが寧ろそういった観光ツールとして上手く使われるなんてこととは無縁の状況は,私にとっては願ったり叶ったりで,他の誰にも会わずに,汗ばんだ軀に蝉とアオバトの声を感じながら,ぼーっとすることが出来ました。
 画像は,全て,その終焉の家の敷地内で撮ったものです。彼が住んでおられた時代からあったモノとは,ちょっと思えないものもありましたが,樹木は,多分,そのままでしょう。

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丁度,住居横で,コガタスズメバチ(腹の先端部が黄色いので多分そうだと思います)が,労働のためのエネルギー補給のためにバナナの花から吸蜜をしていました。撮影したら,気に障ったのか,追ってきました。大人しい種類なので,彼女の追撃は,そんなに激しくなかったからということもありますが,何度か円を描くように下がって,この庭から離れることなく,やり過ごしました。
 熱い奄美の昼間,田中一村終焉の家の庭で,ひとり,スズメバチとダンスを踊っているようで,とてもシュールです。


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観光客向けの上手い演出を考えたりそれに投資することは,そこまで「媚びなくてもいい」ことだと言った青年が居ました。焼酎や一次産業産出物においては,個人的には自慢したいと思うものが沢山ある地場産業にも限界があり,発展性を考えると公共の予算をぶんどってくる以外は,観光業などで潤わないと,彼の給与の源泉となるような収入はどんどん衰退していくのですが,どちらかというとゆうふくな地元の公務員家庭に生まれた彼が,県外者である私のような感覚を持てないことは無理からぬことかと思いました。でも,自治体の予算はどんどん衰退して行っております。何代も地元に住んで,公共事業費のあまりなどから蓄財が出来ている人たちは,余り慌てては居ないようです。基本的に彼らの親の世代が既にノーワーキング・リッチ状態であるほど,そんなに危機感もないのです。が,そうなると,ますます,外からの人とのギャップは大きく,人口の流入は生じなくなるでしょう。

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一村氏は,極貧とまではいかずとも,こちらでワーキング・プアな状況を嘆きながら,必死で彼がライフワークとして求めた画を完成させていきました。彼の価値は,勿論,地元が発掘したわけでも何でもありません。外から教えて貰ったものです。

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彼の芸術を育んだのは,紛れもなくこちらの自然であります。作品展がある度に,一村の画家としての人生の黎明期の作品群も紹介されたりしてきましたが,奄美で描かれた作品群とそれ以前の作品群との間の技術的芸術的な変化は,劇的とでも云うべきほどですし,それは,一村自身が最も自覚されていたことだと思います。
 しかし,彼の偉業を紹介するという名目で,無自覚に彼の芸術的資産にぶら下がって食っていこうとするノー・ワーキング・リッチを含む人たちを見て,彼が生きていたら,一体何を感じるでしょうか。ああ,お世話になった地元に少しでも還元できて良かったと思ってくれるでしょうか。それとも・・・いや,余人は余計なことを考えてはいけないかも知れませんね。


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ただ,思うのは,彼は価値を見いだされることなく,決して,アーティストとしての名声でも,経済的な部分でもまともな状況が訪れることなく彼の人生の日は暮れていってしまったけれども,この島の人たちは,当時にあっても温かく彼を受け入れ,彼がここで暮らし,画を描くことを見守ったのでしょう。私が,そう感じる優しさに満ちた眼差しの元に。
 それだけは,確信しています。





 田中一村については,お金のかかった記念館が奄美空港近くに出来ていて,彼の作品にはそちらで逢えます。ちなみに,法学畑からのキャスターで有名となった宮崎緑氏が館長。こういった地方の施設の常で,常駐ではもちろんありません。美術分野よりも,多面的な分野への人脈と云うことで,それも館長選任において理解できます。
 氏が国土審議会半島振興対策分科会特別委員をされているのは,原因か結果かは分かりませんが,お出でになるときは,精力的に館長職をこなされておられると伺っております。

 スキャンダルには興味はありませんが,宮崎氏について関連Webを見ていて,もと夫君であった椿康雄氏は失踪中,逮捕状が出ており,初めてOHT Inc.に関わる事件を知りました。
 調子ッぱずれの尺八のようなアオバトの声が,多分,一村が済んでいた頃と変わらぬ調子で響いています。アオバトが調子よく啼いてくれていたのに録音機も動画用カメラも持たなかったので,F31fdの動画撮影機能にて。
 バベルの塔に棲もうが,200年も経てば,骨も残るかどうか怪しいのに,何かを得るためにわけの分からないものを生き方をしたところで,せんなきことかもしれません。

 空の空は空。
Commented by shizumama at 2008-08-04 10:30 x
廃屋とはいえ何とか原型を保って建っていますが
さらに風雨にさらされる事で朽ちるのは時間の問題でしょうか。
それもよしと一村氏なら思うでしょう。
この生き方の他に彼が望んだものがあるとは思えません。
Commented at 2008-08-04 17:06 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by complex_cat at 2008-08-04 21:57
shizumamaさん,この家は,多分大家さんがおられるものと。最低限の手の入れ方はされていると思います。
 ここで,蝉や鳥の声を聞いていると,時間が止まったかのようです。
Commented by complex_cat at 2008-08-04 21:58
かぎこめさん,いつもどおりで,感謝します。そちらもご自愛を。
Commented by wolf-pow at 2008-08-04 23:44
ただただ、自分に対して納得の出来る絵を描く…その目的以上の
ものがあったとは思えませんが、同じ道を生きるものとしてはどういった背景でその絵が描かれたものか、知りたいと思うのです。
けれど、氏にとってはそんなものは必要ないものかもしれません。
ただ、集大成である絵を観て貰えさえすれば…。
それでも氏が見ていた変わらぬ風景は拝見したいですね。
Commented by complex_cat at 2008-08-06 21:56
wolf-powさん,一村氏の画は,多分ここで描いた,というような場所が特定されていません。奄美なら何処にでもあったと思われる動植物や風景が多いからですが,それが,残っていけるのか,少々心配になります。
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by complex_cat | 2008-08-03 23:08 | Nature Islands | Trackback | Comments(6)

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