日本脳炎とコガタアカイエカ
2008年 08月 27日
日本脳炎について相変わらずWikiは中途半端なドキュメントで埋めた人が居ます。予防はともかく治療の項目がないし。「対処療法のみで,発熱、脳浮腫、脳圧亢進、痙攣、呼吸障害に対する対症療法と合併症の予防が主体である。」とその情報を書くべきかな。感染しても日本脳炎を発症する人は少なく(100-1000 人に 1 人),また人から人へ感染することはないという知識は重要です。少なくともブタの感染比率の全国分布の方は大きな変化がないようです。四国,九州は抗体保有率80%を越える県が多くある意味いつもシーズンになれば非常警戒態勢。北海道〜東北〜北陸地域は0%の県が多いとなっています。そうなると,問題は人間の方。新型ワクチン開発までのタイムラグの間,幼児,学童への接種が頓挫している状態で日本脳炎リスクが上がっているという情報がありますが,一方で過去9年間(平成11年から平成19年4月)に46件の発症(九州・沖縄地方(41%),中国・四国地方(43%),北海道(0件),東北(0件),関東(1件)甲信越(0件))といったレベル。現在,予防接種をスルーしてしまった人の人口比率から考えると,今後急速に,患者数が増えると云うことは感染者数や発症者数が今すぐ容易に増大することはないであろうという予測は信じて良さそうです。
但し,予防接種を受けていない人は,コガタアカイエカに刺されないに越したことはないわけで,蚊帳への関心も高まりそうです。製造業ではこういうニュースが脚光を浴びています。
米TIME誌も「世界一クール」と絶賛!アフリカで売れまくる住友化学の“蚊帳”
植民地と宗主国の関係にあった歴史的経緯からアフリカ各地に多くの拠点や情報網を持つ欧州の企業と比べて、日本企業のアフリカ進出は遅れている。そんななかで、着実にアフリカでの存在感を上げているのは住友化学だ。
その原動力となっているのが、マラリアを媒介する蚊から身を守るために、防虫剤を練りこんだ同社の蚊帳「オリセットネット」である。世界で毎年5億人がマラリアを発症し、100万人以上が命を落としているとされるが、その約9割はアフリカのサハラ砂漠以南の地域、サブサハラで発生している。
防虫剤のスローリリースができるオリセットネットは、洗濯しながら5年間の使用に耐えるとあって、マラリア対策向けに需要が一気に拡大。2004年には、米タイム誌の「世界で一番クールな技術」にも選ばれた。現地企業と合弁企業で進出しているタンザニアでの生産量は、年間1000万張りに達している。
良い仕事。しかし,今後様々な蚊に媒介される病原リスクは上がる状況にあるので,美談として喜んでも居られないかも。
住友の誇る蚊帳はどこで買えるのかな。少なくとも,花火は蚊帳の中では無理。
軽涼蚊帳(かや)6畳用 RM-60
/ 村の鍛冶屋
ISBN : B000F9QDYS
アマゾンでも,かなりいろいろ蚊帳が選べます。3人家族程度だったら,比較的出費は抑えられるし,6畳用を購入されれば,相当贅沢な気分になると思います。蚊帳吊した中で眠るのは,私の中では,ちょっとリゾート気分(!)なんですが,我が家は蚊帳と猫の家族との共生が難しいかも。
さて,日本能炎の予防接種問題の話ですが,手っ取り早く,いつもの子供達(耳の尖ってない方)の主治医の病院に電話相談をしたら,受付の看護婦さんが明確且つ丁寧に説明してくれました。
曰く,
1)リスクは以前並ということで,前のワクチンを取り寄せで打つことは,小児科で対応しているところもある(実際その小児科は接種OK;勿論,お医者側のリスク対策として親の同意書へのサインは求められる)。
2)東南アジアへの海外渡航者などでは,そういったワクチン事故のリスクよりも現地での感染リスクの方が高いので,その人が何歳だろうが接種を呼びかけていて使用されている。当然皆,注射打っているだろう。
3)同様に,接種の対象年令を過ぎたお子さんへの接種は,国の補助はないが,実費負担で対応してくれる。我が家の耳の尖った子供達の5種混合ワクチンと同程度。
以上は,こちらで確認した状況なので,各県,各地域でご確認下さい。パニックを起こされると当然旧ワクチン確保も混乱するだろうし,あまり,煽る形では情報が伝搬されていかないと思います。
ワクチンの接種リスク(ADEM発症)については,新ワクチン認可までの間は,要するに振り出しに戻るような話で,これも,親の判断としては難しそうです。資料を読んでいるとADEMの原因はワクチンとの因果関係は示唆されたものの,明確ではなく,ワクチン用のマウスの脳組織が混入した結果かもとか,いろいろ書かれています。予防接種害悪原理主義派の人たちにとっては,こういう話は生理的に来る話で,燃料投下になりそう。
ついでに資料にリンク
多分,チコは,花火は苦手で,遠くで様子を伺っていたのだと思います。そうでなかったら,ちびっ子好きな彼が,このタイミングまで待っているはずがないので。まぁ花火が得意なネコも居ないでしょうけど。
追記ー花火は蚊帳の中で出来ないと書いたけれど,普段の生活や農作業も蚊帳の中で出来ない。当然,マラリアの被害防除としては,逆に効果はどうなんだろうと思う。今の日本人,特にまともな青年であるほど,ビジネスが人助けになればという意識はもの凄く高く,ある意味,感心も安心もするのだが,そういう部分を金儲けだけの作戦を考えている連中は利用しているだけという感触も持っている。マラリア対策費としての蚊帳の購入費用の流れなどここに示唆されていて興味深い。たとえ,野外で危険な媒介動物が跳梁跋扈していようが,かつて西表島で,マラリアで消滅したいくつかの集落のように,或いは,波照間島から西表島まで稲作に行き来してマラリア・リスクを下げようとしていた人たちの話を思い出す。
例えば,ある学童がどの程度のリスクを経験することになるのか,総合的にリスクを評価するようなレベルの仕事はないと思う。というわけで,私が尊敬する何人かの医動物系の先生方ともディスカッションして疑問が氷解した部分があれば,また続報を書くかも。
コガタアカイエカの全生活史を通した生息環境を確認したくなったので,示唆する論文としてこの論文の手法及び知見は興味深いです。
URABE Kenichi 1 NAKAZAWA Kiyoaki 2 SEKIJIMA Yasutaka 3 (1994) Study of the natural predators of a mosquito Culex tritaeniorhynchus in rice field areas by using precipitin tests : 1. Laboratory tests for the detection of the antigens specific to Culex tritaeniorhynchus extract. Medical entomology and zoology, Vol.45, No.1(19940315) pp. 43-51.
1Saitama Institute of Public Health 2Saitama Institute of Public Health 3Saitama College of Health
コガタアカイエカ幼虫および成虫の体成分から複数の特異抗原が検出された。実験的にコガタアカイエカ4齢幼虫1匹を捕食させたウスバキトンボ幼虫, シマゲンゴロウ属幼虫およびコガムシ属幼虫, またコガタアカイエカ雌成虫1匹を捕食させたキクズコモリグモ成体とシコクアシナガグモ成体につき, 24時間後にコガタアカイエカ体成分の検出を吸収抗血清を用いたES法により試みたところ, いずれの虫体からもコガタアカイエカ特異抗原が検出された。これらの結果から, コガタアカイエカ体成分の特異抗原を指標にしたES法は, コガタアカイエカに対する捕食性天敵の野外調査に適用しうる有効な方法であると思われた。
と思ったが,これを使った調査による続報はないなぁ。
おっと,こんなのがあった。
Watanabe Mamoru 1 Wada Yoshitake 2 Itano Kazuo 3 Suguri Setsuo 4 (1968) Studies on predators of larvae of Culex tritaeniorhynchus summorosus Dyar.Medical entomology and zoology, Vol.19, No.1(19680331) pp. 35-38.
1Department of Parasitology, the Institute of Medical Science, the University of Tokyo 2Department of Parasitology, the Institute of Medical Science, the University of Tokyo 3Department of Parasitology, Okayama University Medical School 4Department of Parasitology, Okayama University Medical School
水田内のコガタアカイエカ幼虫の捕食者として15種の昆虫とドジョウが観察された.これら16種について捕食の実験を行った結果, トンボ類のギンヤンマ, ショウジョウトンボ, アカトンボの1種, 水棲半翅目のミズスマシ, 水棲甲虫類のヒメガムシ, コシマゲンゴロウ, 魚類のドジョウは天敵として重要であると考えられた.
これは,あらかじめコガタアカイエカが水田地域にいるということを前提とした話で,一般都市空間とかでウスバキトンボから捕食の証拠が出たとか云う話ではないので,私が知ろうとする目的と外れます。biosisを見ていないので,新しい情報は余りありませんが,こういう医動物学的なこの分野については,この時代の方でかなりやられているはずです。そういう先人の努力の結果,今の安全で衛生的な国というのが保証されていたはずなのですから。
一般にコガタアカイエカは、小さな水溜まりではなく、 水田や沼地に生息すると記憶していますが,その近くに養豚場があるとなると一応,全て役者が揃うことになります。南九州は,全国的にも有名な養豚産地だが,私の家の周辺にはないので高密度地帯という状況ではなさそう。実際,いつも自らをトラップにしても,集まってくるのはハマダラカやりん園内に多いヤブカ(ヒトスジシマカ)ばかり。たまに都市型のアカイエカは見ますが,コガタの方は滅多に見ません。
日本脳炎ウイルスについては蚊を媒介者としても,ヒトからヒトへの感染例はなく,媒介動物(馬、牛、水牛、綿羊、山羊、豚、シカ、 イノシシ=偶蹄類としていいのかな)の体内で増殖してコガタアカイエカを媒介社としてというプロセスで人を襲うわけで,夏場は水田がセットとなっている環境でこういった動物が居る地域には,未接種者は近づかない方が無難かも知れない。ただ,面倒なのは「サギ、シチメンチョウ、ツル、ガンなどの鳥類,トカゲなどの爬虫類にも感受性がある」ということで,鳥類は恐らく幅広く実験がされているわけではないであろうことは,これらの引用先の表現が種名じゃないということからも推察される。サギは水田周りならアマサギとかという可能性もあるが,分からないし,ツル,ガン,トカゲも同様。お医者さんには実験動物以上の動物分類の知識は一般的ではないので,しょうがないし,実際データもないのだろうと思います。
鶏がリストに入って居ないのは幸いだけれど,これについては,幅広く鳥類が発生元になって媒介されないかというと多分そうではないかも知れない。でも圧倒的に寄与している日本脳炎ウイルスの培養槽となるとやっぱりブタなんだろうという理解で良いのでしょう。タンクとしてもでかそうです。
あ,それと,イヌはもちろん,ネコも媒介動物のリストに入って無くてホッとしますね。
でも,知りたい情報はWikiの蚊の項目にありました。こちらはなかなかの力作かと思います。
長崎県における調査によるとコガタアカイエカの通常の1日の行動範囲は1km程度であるが、中には1日で5.1kmの距離を飛ぶ個体もあり、また同種が潮岬南方500kmの位置から採集されている。これは風速を考慮すると高知県から24時間、あるいは静岡県から19時間で到達したと考えられている。
うーん,太平洋戦争時のB29の空爆可能距離みたいなちょっと絶望的な気分になる移動距離の長さ。周囲5km以内に水田も養豚場もないとか突っ張っても,あんまり当てにならないことが分かりました。まぁ,小さい昆虫の移動能力は,ジェット気流に乗るハエなど音速を超えて移動するし,蜘蛛は云うに及ばず,竜巻で巻き上げられて,でんでん虫も空を飛んで移動する。これらについてはも,そんな希なものとまでは云えない事例なので,そんなものか。
東京都および近隣都市域におけるコガタアカイエカの発生状況調査(pdf)なんてのもありました。それによると,
東京都とその近隣都市域で周囲に典型的な発生源が見つからない採集場所 5 ヶ所で、コガタアカイエカが捕獲された。大田区にある東京港野鳥公園では 6 月から 8 月にかけて一時的にできる泥炭湿地でコガタアカイエカ幼虫が発生していることが確認された。捕獲個体数の季節的変化や捕獲された成虫の雌雄の割合から考えて、都市域には小規模だがコガタアカイエカが繁殖に利用できる水域が一時的に存在していることが予想された。捕獲された成虫からは日本脳炎ウイルスは検出されなかった。まぁボウフラの大量発生源が養豚場や競馬場,鷺山などとセットになっていない限りリスクはそれなりに低そう。それでも,あんまり安心できる材料はないということです。有機無農薬,冬期湛水水田などの方向は,こういうリスクとセットだと云うことを,ロハス喧伝者は知っておかなければなりません。生物音痴ではいけない。農薬撒いて蚊が減ってホッとしていた1970年代頃にもどって,もしも有機無農薬水田の話をしたら,多分,今では想像も出来ない反発を食らうでしょう。田圃にたたき込まれるかも知れない。そういうのが商品として流通すると手に入っていること自体が当たり前だと勘違いして,単なる工業製品のユーザーと同じポジションで好き勝手なことを云う人は普通だし,或いは自分のライフスタイルの顕示の道具に使って偉そうなことを云っている人も珍しくないけれど,自省もこめて考えたいところです。また今の有機農法は,哲人みたいなお百姓さんがなんてスタイルではなく,大規模プラントで生産される状況が普通ですから,環境への影響や変化には十分過敏であるべきです。
蟲との関わりが人類の歴史ではもの凄く長いのですから。
生活史を想像させてくれるに参考になったのはこのページですが,なかなか素敵な観察をされています。ミズダニ付き。
お子さんが,接種を受けていない場合は,感染状況がどのくらい広がっているのか分かりませんが,出来れば早めに受けた方が良さそう。実際に,小児科へも日本脳炎の注意喚起は来ている模様。まだ,大丈夫。おっと,夏終わりますな,そろそろ。
一方で,私の扱っている野生鳥類でも,温暖化で蚊の出現する時期が早まっていることから,西ナイル熱などのリスクの検討のため,最近,WHOが関心を向けています。まぁ,私自身が鉱山のカナリヤみたいなところがあるので,このブログがそういったことで休止になるようなことがあれば,その時は,日本でも,かなり気をつけた方が良いかもしれない状況にあるかも知れませんね。おいそれと被弾するほど状況がせっぱ詰まっているとは思っていませんが,逆に云うと,今年それがあっても,そうか〜と思うだけかもw
記事を拝読して、本当に申し訳なく思いました。私が迂闊に書いたことで、C_Cさんにこれほどの労力をかけてしまうことになったとは.....。
出来る限り、資料を集めて理解しようとしていたつもりでしたが、あるいは迂闊なことを書いてしまっていたかもしれません。反省しています。
残念ながら、関ヶ原より東で暮らしたことがありません。しかも、カミさんは沖縄の人間で、年に一度は帰省するようにしていることもあり......。
C_Cさん同様、近いうちにかかりつけのお医者様に伺ってみることにします。本当にありがとうございました。
労苦なんてとんでもない。ありがたいエントリのテーマをいただきました(ネタって云うのではないと思います)。私もワイフから質問が来て,纏めておきたかったのです。
それと,アフリカへの蚊帳のプロジェクトが評価されていますが,私としては,そんな対岸の問題として病原生物被害を見てられない状況が来るかもという自戒の意味もあります。
なによりもミーハーな私は,蚊帳がちょっと欲しくなって冗長なエントリを書いてしまったのでした(笑)。お気遣いなく。
チコちゃん花火に参加したら楽しいのにぃ。
チコちゃんが手に線香花火を持ってニヤニヤ笑ってる図・・・
そういうの見たらかなり興奮しますよ、わたし。笑
チコちゃん、火が怖いのかな?
「止まれ!」のポーズに見えて可笑しいです。
畑で寝ていたみたいで,これはノビをしているところです。
耐久性を考えると化繊製の方がいいと思います。洗濯できますし。麻、綿製のものは水を含むと重いから洗濯しにくいし、使っているうちに目が詰まって、蚊帳の中が蒸し地獄になります。笑
ホームセンターで安売りのレースのカーテンで蚊帳を作ることもできます。フックの部分の糸をはずして蚊帳の形にミシンでバババ~っと縫います。6畳用蚊帳が¥7000くらいでできますよ♪
ただ、蚊帳ってとっても面倒です。夜吊るして、朝片付けて・・・。冬期の収納も場所をとるし。
今年はトラップ式の器具を使ってます!絶好調です!
ちょっとテント張って寝るような楽しさを感じてしまいます。